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第10話 重榴弾砲を自走させたい

クンマースドルフ試験場にて、二個の兵器が集められた。

ひとつは15cm sFH 13、もう一つはロレーヌ37L装甲輸送・牽引車であった。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


15cm sFH 13。

この砲は1913年に生産された旧式の重榴弾砲である。

1913年というと、まさしく第一次世界大戦が勃発する一年前にあたるため、本砲がどれだけ古いかが分かる。

重量は2,250kg、最大射程は8,600m。


旧式の砲という点、既に後継となる15 cm sFH 18が生産・配備されているということもあり、15cm sFH 13は二線級の部隊や訓練用に使われるのみであった。


挿絵(By みてみん)


ちなみに、後継となる15 cm sFH 18の「18」だが、これは1918年に生産されたという意味ではない。

ドイツが第一次世界大戦に敗北した1919年のヴェルサイユ条約調印後に、違法に開発されたという事実をカモフラージュするためのものである。

実際の開発年は1933年である。


どれだけ旧式でも15cmの火力は健在であり、重砲のネックである重量・移動速度は自走化によって解決できる。加えて、兵器の需要がさらに増加した今、この旧式の砲を第一線で有効活用せよというのが、依頼主からの要望であった。


(依頼主も、この砲の砲撃を前線で見たことがあるのだろうか……着弾は見ていそうだが)


そして今回の改造対象は、ロレーヌ37L装甲輸送・牽引車である。

フランスのロレーヌ社が、フランス陸軍の要請を受けて開発した完全密閉式の装甲輸送車だ。

なぜⅡ号やⅢ号、Ⅳ号ではなくこの車輛なのかというと、操縦室は前部、機関室が中央、そして後部が貨物室という、自走砲にするには理想的すぎる構造だからである。


加えて、Ⅲ号やⅣ号戦車は機甲部隊へ優先配備されている現状、将軍の中でも元帥級、もしくは総統レベルの命令がない限り、自走砲の開発には使用できないのだ。


それぞれ簡単な試験をした後、勝流はすぐに兵器局へ向かい、設計を開始した。

必要な情報は取り揃えていたので、あとは組み立てていくだけだ。

しかしながら、唯一気がかりな点があった。

仕様書のとある一文だ。


(熱帯での使用を考慮って……もう介入は予定内なのね)


今は1940年の11月中旬である。

ここで勝流の記憶が活きる。

ドイツの軍事史を読み漁っていたため、大抵の戦いの時期と状況は覚えていた。

今頃北アフリカでは、イタリア軍が攻勢限界を迎えている頃だ。

来月にはイギリス軍の反撃が始まる。


(来年の1月か、遅くても2月には量産できるようにしないと……まったく、また急ぎ足の開発か)


背伸びをした後、勝流は手を動かし始めた。イメージはできている。


(問題は冷却機構だ。どう載せようか……史実のⅡ号15cm自走重歩兵砲の二の舞はしたくないし)


冷却機構以外にも問題はあった。

そもそもロレーヌ37Lに搭載されているエンジンや部品はフランス製である。

つまり、故障したら替えが利くのかという現実的な問題だ。


(うーん……ドイツ製の既存品に置き換えてもいいが、他の車輛の生産が優先だし……)


史実において、ドイツ軍はロレーヌ37Lを様々な自走砲へ改造した。

対戦車砲、榴弾砲、歩兵砲など、機動力に劣る砲なら何でも搭載した。


これらの車輛で注目すべきは、その改造要領である。

主に手を加えたのは戦闘室の構築だけで、それ以外はロレーヌをそっくりそのまま使用していた。


当然といえば当然だ。

都合よく自走砲にできる車輛を検討した結果、その車内構造といい、都合のよさといい、当時のドイツ軍の事情のすべてが噛み合った「究極の車体」なのだから。


そんな究極の車体であるロレーヌ37Lの15cm重榴弾砲搭載は、その先駆けとなる。

使えると判断されれば、どんどん色んな砲を自走化させる。

逆に使えないと判断されれば、二度と生産されることはない。話題に上がることもない。


(弾薬積載量は十分だろう……というか運搬車がずっと引っ付いて動くだろうから、そこは問題ない。それこそ、Ⅱ号弾薬運搬車が使える)


勝流はイメージを続けると同時に、描き続けた。

理想の自走砲を。


数時間が経った後、第4課にお客さんがやってきた。

クラウス課長に用があるらしい。

すぐに課長の元へ案内されていた。


しばらく話すと、クラウス課長が客人を連れて勝流の方へ来た。


(なんだ?俺に何か用があるのか?)


勝流の方へ来る客人。

軍人であるのは間違いないのだが、どこかで見た顔をしていた。


「こちらがアルデルト少尉です」


「ありがとうございます」


「では」


勝流は姿勢を正し、綺麗に起立した。

ずっと同じ態勢で作業をしていたせいで、起立と同時に軽く腰を痛めたが我慢する。


「初めまして、アルデルト少尉。私はアルフレッド・ベッカー大尉です」


近くで見ると、より一層、見たことのある顔だった。


「ギュンター・アルデルト少尉です……何か、小官に御用でしょうか」


「腕のいい設計者がいると聞いて尋ねたのです。まさしく、あなたのことです」


「私がですか?腕がいいと」


「その通りです。その腕が買われて、今の計画を任されているのでしょう」


(なんだ、知ってるのか)


「では早速。なぜ私がアルデルト少尉を訪ねたか、訳をお話ししましょう」


ベッカー大尉は、なぜ勝流の元へ来たのかを語った。


「なるほど、命令を受けて……参加するようにと」


「その通りです。実は、私は設計に関して多少の知恵がありまして。既に一輌、イギリス軍の鹵獲車輛に10.5cm軽榴弾砲を搭載することに成功しています」


ここで勝流は、やんわり浮かんでいた人物像と合致した。

アルフレッド・ベッカーその人である。


(名前でなんで気付かなかったんだ…この人こそ、史実で鹵獲車輛を自走砲にした第一人者だぞ!)


アルフレッド・ベッカー。

彼は有能な砲兵指揮官であると同時に、豊富な技術的知識を持つ技術者でもあった。

鹵獲車輛の活用を先導し、オチキス軽戦車やルノー各種車輛、ロレーヌ37Lに至るまで、大口径砲を搭載する改造を次々と実現していった。

彼の手によって生み出された改造車輛は数多く、後に兵器の歴史に名を残すものもあった。


「しかしながら、問題もありました。砲の反動をうまく逃がせなかったり、弾薬搭載数の問題があったりと」


「分かります。私も毎度同じ問題に悩まされます。ちょうど今、その解決策を模索しているところなのです」


勝流は手元の設計図を差し出した。


「ここです。この部分。砲撃の反動を吸収するのに、どうしても一工夫必要でして」


「ふむ……」


ベッカー大尉は図面をじっくりと眺め、やがてにっこりと口元を緩めた。


「素晴らしい!これなら、必ず私の経験も活かせるでしょう。早速ですが、この箇所はですね……」


こうして、開発メンバーに強力な助っ人が加わったのである。

今回登場した 15cm sFH 13 についてですが……残念ながら映像資料を見つけることはできませんでした。

搭載車輛の映像なら奇跡的に発見できたのですが、本砲そのものの記録は見つからず。


後継となる 15cm sFH 18 なら腐るほど出てきましたが、sFH 13 はそもそもの配備数も少なく、注目されにくい骨董品なので・・・


代わりに当時の 15cm sFH 18 と思われる映像を引用します。

恐らく15cm sFH 18 だと思いますが、もし間違っていたら感想でご指摘いただけると幸いです。

音量注意です。

https://youtu.be/Zu0S5KrCgrU?si=n5DUlp2G9UcjbA4

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― 新着の感想 ―
11話が消えた??
二枚目の写真の砲は10cmK18カノンと思われます。
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