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16話


「マリィ・ビィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイムゥ!!!!!」


 マリィが警戒するゴブリン達へ刃を突き出した刹那、光そのものへ変貌を遂げていたクィーンデッドが爆発した。

 正確には凝縮された白亜の光が指向性を持って解放されたのだが、俺には特大剣が爆発したとしか認識できなかった。

 網膜を焼く閃光。

 身体を貫く衝撃。

 耳を劈く爆音。

 とても立っていられなかった。俺は破壊的な熱量と台風の如き暴風に身体をブン殴られ、背後にあった針葉樹に背中から叩きつけられた。肺の中の酸素が強制的に吐き出され、背骨に走った激痛で息ができない。

 白く染まる視界。思考も同様だ。

 一体何が起こった?

 これはなんだ?

 これが──ビーム? 

 やがて身体の痛みが和らぎ、世界が輪郭を取り戻してゆく。


「……ビーム……」


 マリィが巨剣を前方へ突き出したままの姿で立ち尽くしていた。

 その手が握るクィーンデッドの刃の先には──何も無かった。

 気持ちの良い丘も、小動物達が駆け回る草原も、豊かな森も、巨大な円筒形の何かに抉り取られたかのように、何も無かった。ただただ焼け焦げた寂寥とした大地が遥か彼方にまで続いているのだ。遥か彼方にうっすらと地平線が見えている。熱の残滓が白煙を吐き出し、陽炎と共に漂っているその情景は、まるで噴火の跡地だった。

 エヴァン渓谷の山々は確かに標高が低く、緩やかな土地だ。それでも山なのだ。それを吹き飛ばしたのではなく、瞬間的に蒸発させたのか──?


「……一体どれほどの熱量なんだ……? 本当にビームだったのか、あの光は……?」


 無論、ゴブリンなんて影も形も無い。

 戦慄するしかなかった。

 俺はなんてモノを夢見る無垢な少女冒険者に渡してしまったのか。こんなのは武器ではない。天金級の熟練魔術師が操るあらゆる攻性魔術が児戯扱いできる大量破壊兵器だ。

 俺は痛みを無視してマリィに駆け寄った。


「マリィ! 大丈夫か!?」


 肩を掴んで振り向かせると──。


「うぁあああああああああああああなにこれなにこれなにこれなにこれぇえええええええええええ!!!」


 涙と鼻水で顔面を崩壊させながら抱きついてきた。

 クィーンデッドを握り締めたまま。

 その刀身を何故か再び光らせて。


「待て待て待て待て待て待て! また光ってる剣光ってる! ビームが出そうだ熱い熱い仕舞え鞘に納めろ!」

「ホントだなにこれ怖いよぉ助けてエイジぃ! 可及的速やかに急いで迅速に無駄無く今この瞬間に助けて!!!」

「重複表現的動詞連発はいい! とにかくクィーンデッドを手放せ! それで止まる!」

「手がガチガチになってて動かないのぉ~!」


 極限の緊張状態で指の筋肉が硬直してしまったのか!?


「だったら納刀するぞ!」

「ど、どうして!?」

「アクティブスキルは納刀すると強制解除される! 原理は知らんが気にするな!」


 ゲームのような世界で本当に良かった。

 錯乱して暴れているマリィから鞘を奪い取る。うおクソ重いぞこの鞘!


「鞘はこっちだこっち! ゆっくりだ、ゆっくりと前進しろ!」

「ゆっくりぃっ! ゆっくりぃぃぃぃ~……!」


 特大剣を腰だめに構えたマリィが、生まれたての小鹿もかくやといった足取りで歩み寄ってくる。

 ゆっくりと近づいてくる巨大な剣の尖端へ、俺は爆発物を解体する心境で鞘を添えた。

 そのまま慎重に鞘の中へ剣を誘導していって、最後にチンッ、と小気味の良い金属音を鳴らし、納刀を終えた。


「ビーム……これがビーム……! 私が知ってる魔術師の魔術と全然ちがぁう……!」

「同意見だ……! 怖い思いをさせてすまなかった、マリィ……!」


 まさかUR武器の武器スキルがこれほどとは。神創武装とはよく言ったものだ。確かにこれは人知を超えている。


「不可抗力であったにしろ、これは俺の責任だ。この破壊について何かしら罪に問われる事態になっても君に一切の咎は無い。何かあっても俺が悪いと言え」

「そ、そんなのダメよ! これは私のクィーンデッドのスキルが起こした事なんだから!」

「だが、俺が『最終限凸』で君にそのUR武器を使えるようにしなければこうはならなかった」


 山を二つ三つ吹き飛ばして地平線が見えてしまうほどの破壊の惨禍を撒き散らす武器を目覚めさせてしまったようなものだ。生まれてこの方ずっと無神論者だが、さすがに神に懺悔の一つもしたい。

 いや、待て。このイカレた特大剣を造ったのはエヴァンシェリン神に間違いないだろうから、この世界で神に懺悔したところで無意味なのでは?


「ど、どうしよう、コレ……!」

「今すぐにでもエヴァ教会に持ち込むべきだ。君には申し訳ないが、こいつはヒトが扱ってはいけない武器だ」

「うぅ……うぅぅぅうぅぅぅぅううううぅ~~~……!」

「君のクィーンデッドへの拘りは理解している。だが、こいつは危険過ぎて──」


 その時、ピロリン♪ と軽妙な音が鳴った。スマホのSNS着信音に近い。

 音の出どころは、鞘に納めたクィーンデッドを抱き締めて座り込んでいるマリィだった。


「え? な、なに? 何の音? もしかしてクイーンデッド!? またビーム出るの!? やだぁぁああああああああビームやぁあああああああああ!」

「落ち着け、発狂するな! 今のは冒険者のギルドカードの通知音だ! カードを出してみろ!」

「ギ、ギルドカードって……えっと、これ?」


 半泣きまま、マリィが腰のポーチから掌サイズのカードを取り出した。先ほどの世界観をぶっ壊すような電子音は、このギルドカードの情報が更新された通知音だ。少なくとも三体のゴブリンを撃破したのだから、それによって得られた経験値で冒険者レベルが上がったのだろう。

 と、思ったのだが。


「なんなんだ、これは……!?」


 非常事態の宣言を示すかのような赤文字で、見慣れない文書が大量に書き込まれてゆく。

 そう、現在進行形で──マリィのステータス情報が更新されてゆくのだ!


《UR武器『クィーンデッド』の武器スキルが解放されました。》

《装備者には装備している限り、永続的に以下のデバフ発生します。》

 【武具装備不能】

 【生命力10】

 【運0】

 【弱体耐性0】

 【敵対者ヘイト値最大値】

 【全属性耐性0】

 【物理耐性0】


「…………」

「えぇ!? なになに!? 私のカードに何かあったの!?」

「…………」

「エイジ!? 顔面真っ青よ!? 麻薬キノコ食べたオジサンみたいな顔になってる! し、深呼吸よ、深呼吸しましょう!

「…………」

「いや何とか言ってよ怖いよぉおおおおおおおおお母さぁあああああああああああああああああああああ~~~~ん!!!」


 UR武器──いや、神創武装を作ったらしいエヴァンシェリン神。


「これでどうやって冒険者を続けろって言うんだ、あんたはっ!?」



ここまでお読みいただきありがとうございました。


このお話は数年前に習作として書いていたもので、それを修正して投稿させていただいた形です。

内容的にはタイトルにフックはあったものの、1話辺りの内容がミクロ過ぎて話が前に進まず、触っていただけたのに楽しんでいただく事が難しい内容だったと感じています。この辺り、次回作があれば改善していこうと思います。


17話までお付き合いいただいた方々、ありがとうございました。

重ねてお礼申し上げます。

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