11話
錬金術師のスキル『物質調査』を武器に使うと、武器の希少価値や武器スキルを把握できるのだが、その鑑定の結果は予想の斜め上をすっ飛んでいくモノだった。
「物干し竿にされていたこの特大剣の希少価値はURだ」
「そ、それって一番凄いって事……!?」
「UR武器は古代遺跡から出土するか、生還率5パーセント以下の超々高難易度迷宮の最下層に出現する魔物が1パーセント以下の確率でドロップするか、そのどちらかだ」
「ごめんなさい。どれくらい凄いのか分からないわ。山育ちの私にも分かるように言って」
「クィーンデッドを換金すれば、君の出身地ヌーヴェル地方の十倍の土地を買い取れるほどの金が手に入る」
冗談抜きで国が買えるだろう。それも一つではない、ダース単位だ。
「UR武器は別名『神創武装』と呼ばれている。エヴァンシェリン神がこの世界と共に創造したとエヴァ教の聖典で語られている。無論、ただの御伽噺だろうがな」
「…………」
「しかし、極めて強力な武器スキルを備え、経年劣化もしないらしい。『人知を超えた武器』だから『神創武装』などと仰々しく呼ばれている理屈は分かる」
「…………」
「これまで発見されたUR武器は全部で三つ。すべてエヴァ教の総本山『聖ミドラーシュ大聖堂』に保管され、年に一度の生誕祭に一般公開されている」
「……つまり……クィーンデッドは……」
「世界的な大発見だ。歴史書に掲載されるレベルの話で凄い。回れ右してヘムズガルドに戻り、エヴァ教会に持ち込めば雲孫の代まで遊んで暮らせる金を貰えるだろう」
「うんこ?」
「君から八代先の末裔という意味だ」
無論、豪遊を繰り返せばその限りではないが。
「…………」
雲孫の意味を理解したのか、マリィは口を閉ざした。やがてゆらゆらと海底で揺れるワカメのように近くの針葉樹に歩いて行く。
それは実に立派な樹だった。建築材としてヘムズガルドの人々を助けている天然資源である。
「ふん!」
その針葉樹に、マリィが額を叩き込んだ。
「ふん! ふんふんふんふんふんふんふん!!!」
怒涛かつ高速の頭突き。とてもレベル2の冒険者とは思えない熟練の頭突き作法に俺は言葉を失うしかなく、針葉樹の逞しい幹には瞬く間に亀裂が駆け巡る。
マリィのしなやかな身体が弓なりにしなる。限界まで引き絞られた矢を放つがごとく、マリィ渾身の頭突きが炸裂した。
ドゥン! というおよそ人が放てるモノとは思えない打撃音が響き、針葉樹は叩き折られた。樹木が裂け、支えを失った幹から上が轟音と共に地面に沈む。鳥達が一斉に飛び立ち、小動物達は蜘蛛の子のように方々へ逃げ惑い、突然の破壊の惨禍に平穏だったエヴァン渓谷はざわめきに満ちた。
その元凶である少女は、舞い散る土や塵を背にして俺に歩み寄ってくる。割れた額から血が流れ、獰猛な笑みで歪む表情をより凄惨なものに変えていた。
自分が背負っていたモノがUR武器と分かって気が触れたのだろうか? 無理も無いが、無意味は破壊活動はやめて欲しい。エヴァン渓谷はヘムズガルドの商人ギルドが厳しく管理しているのだ。
「一瞬でも売っちゃおうか考えた自分を捻じ伏せたわ。突然の強敵出現にビックリよ」
「君は一体どんな環境で育ったんだ?」
「実家は普通の宿屋だけど?」
マリィが不思議そうに眼を瞬かせた。
「……まぁいい。とにかく君は金よりもクィーンデッドを振り回す危険な冒険者生活を選ぶ訳だな?」
「ええ! 私はお金の為に一カ月半もかけてヘムズガルドに来た訳じゃないもん! クィーンデッドと一緒に世界を旅する冒険者になる夢を叶えに来たの!」
「……そうか、君は凄いな、マリィ」
金への欲望を叩きのめして初心貫徹する。得られる金額を考慮すれば、その夢を投げ捨てたとしても誰も彼女を批難できないだろう。
好感が持てる少女だ。尊敬できると言ってもいい。些か変な方向に我が強いが。
「そんな君に朗報だ。クイーンデッドの武器スキルも判明しているぞ」
「ホント!?」
「やはりUR武器だな。他に類を見ないぶっ飛んだ武器スキルだ」
「ねぇエイジ!」
「なんだ?」
「武器スキルってなに!? さっきも言ってたけど、私全然分からないわ!」
眼を輝かせるマリィ。その無邪気さに思わず苦笑する。
この子はこの知識量でどうやって冒険者の免許証を取得したのだろうか? ヌーヴェル地方の冒険者ギルドセンターは大丈夫なのか?
「分からない事を質問した君は偉いぞ、マリィ」
「はい、先生!」
コホンと咳払いを一つ挟んで続ける。
「武器スキルとは武器の核である宝玉に秘められた力の事だ。ジョブスキルの武器版と思ってくれていい」
「固有の能力……切れ味が良くなるとか、そういうの?」
「そうだな。R武器はそういうシンプルなスキルが多い。『剣闘士が装備した場合、攻撃力が30パーセントアップする』といったようなものだ。武器の希少価値が上昇すると、比例してスキルも強力になる」
「攻撃力100パーセントアップとか!? なんでもスパスパ切れちゃいそうだね! それでクィーンデッドの武器スキルってなんなの!?」
「『装備者の適性武器が手斧である場合、ビームが出る』」
「…………」
「『装備者の適性武器が手斧である場合、ビームが出る』」
「二回繰り返してくれてくれてありがとう。でも意味が分からないわ」
「端的に言うのなら、君ならクィーンデッドでビームが出せる」
「端的の意味が分からないわ」
「だが、これ以上詳細を省いて説明できない。ビームが出るんだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ビームってなに?」
異世界の人間にはどう説明すれば伝わるだろうか。




