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僕の日記2  作者: Q輔
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ささやかな幸せ

 令和七年二月四日(火)


「部長、もう少し落ち着きましょう」


 ある日、ある時、ある昼下がり。部下を二人連れて昼食にラーメンを食べたその帰り、車内で一人の部下に苦言を呈された。


「お願いですから、店内でソワソワするの、やめて下さい。正直一緒にいて恥ずかしいです」


 しばらく自分が何を注意されているのかよく分らなかった。


「部長、厨房の方ばかり気にしてましたよね。『あ、ほら、あのラーメン。A君のラーメン。今作ってるよ』とか、『あのセットはBさんが注文したやつだ。から揚げがチラッと見えたもん』とか、『あ、僕のラーメン来た。来た。来た。……と思ったら別のテーブルうううう」とか、マジでああいうのやめてくれません? 大人なのだから静かに待ちましょう。心配ぜずとも注文した料理は必ず出て来ます」


 僕より五歳年上のその部下は、日頃からお兄ちゃんが出来の悪い弟をいさめるように小言を申してくる。てか、君たちがスマホばっかいじってっから、こっちは退屈なのかなと思うじゃねえか。こっちは少しでも楽しいランチにしようと思ってだな。てか、おごってもらっといてなんだその言い草は。てか、先ずはごちそうさまだろバカヤロー。と、喉まで出かかって、まあ、言える筈なく。


「たはは、ぽっくん、お育ちが悪いもんで。だもんで。だもんで。面目無い」なんつって意気消沈。


 そんなことがあって。しばらくして。


 ある日、ある時、ある昼下がり。僕は家族とあの時と同じラーメン屋にいた。それぞれ食べたいものをオーダーして、料理を待つ。隣のテーブルでは、僕等と同世代の夫婦が高校生ぐらいのお子さんを二人連れている。お父さんはスマホの番。お母さんもスマホの番。お兄ちゃんもスマホの番。弟はゲームに夢中。


……なんかしゃべれ。


 いや、失敬。今はこれが普通なのでしょう。あと数年したら我が家もこんなんなっちゃうのかねえ。


 虚しい。静寂。


 んが、次の瞬間、耳をつんざく金切り声。


長女「あ、ほら、あのラーメン。私のラーメン。今作ってるよ」


次女「あのセットは私のお子様セット。ゼリーがチラッと見えたもん」


妻「あ、ママのラーメン来た。来た。来た。と思ったら別のテーブルうううう」


 うちの家族、漏れなく厨房に夢中。あはは、家族だねえ。家族が君たちでホントよかったよ。と、喉まで出かかって、まあ、言える筈なく。


 そのかわり、


妻「ほら、あれ、多分あんたのラーメンだよ。ほら、店員がこっちに運んできた」


僕「おお。パパのラーメン来た。来た。来た。と思ったら隣のテーブルうううう」


 なんつって大爆笑する。


 んで、ラーメンにかけたコショウで、くしゃみを、ひとつ。


 ある日、ある時、ある昼下がり、


 ささやかな幸せ、ひとつ。


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