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20.最後の女王の告白(もしくは暴露)

 

「初めは死ぬ気だったのよ? 地下牢の凶悪犯の手に掛かって。そうなったら、どうなると思う? わたくしが居ないと帝国との条約は効力を発揮しないでしょ? そうなったら……」


「え? それはどうして? グレース様が居ないと効力を発揮しない、とは?」


「帝国との条約には但し書きがあってね、曰く『帝国はフェリシア女王とその子孫が存命な限りロックハート国に援助を行う』ってのがあったはずなんだけど」


「マジすか」


「帝国の皇帝陛下はわたくしを女王に仕立てて、ご自分はその夫になる気満々だったみたいよ。わたくしに自分の子どもを生ませて、その子に国を統治させる。ぶっちゃけ乗っ取りよね」


「マジすか」


「でも肝心のわたくしが居ないから、帝国は援助する必要も無い。当時のロックハートは財政破綻ギリギリのところで保ってた国でね、帝国の援助が無かったら破滅まっしぐらだなぁと」


「当時のグレース様は王子という婚約者持ちだったはずですが」


「ね、怖いわよね? 皇帝陛下のわたくしを見る目はキモかったわよ! このセクハラ何処に訴えればいいの?! ってマジで思ったもの!

同盟締結後に誰か送り込んで殿下を暗殺する算段だったと思うわ~ホントっ王族とか権力者ってロクデナシの宝庫よね~」


「その辺りを理解した上で、グレース様は表舞台から失踪したんですね」


「そうなるわね」


「ん~? でも、なんで殺されるつもりだったんですか? 失踪でいいじゃないですか、穏やかじゃないですよ」


「ヤケクソよ」


「ヤケクソ」


「そう。裏切られた! 何も信じられない! もうヤダ! 全部滅びてしまえ~って、脳内は暴走モードに突入してたわ。ジオフロ〇ト占拠して暴れた初号機状態よ!」


「うぉぅ……エヴ〇ですか……“あんた馬鹿ぁ?”って誰にも突っ込まれなかったんですね」


「当時、リリアーヌちゃんが居てくれたら!」


「すいません、遅く生まれてきて……こんな時、どんな顔したらいいのか解らないです」


「笑えばいいと思うよ?」


「えぇーと、話戻しますね~

ヤケクソで、自暴自棄になったグレース様は殺される覚悟で地下牢へ向かったと?」


「そうよ」


「でも生きてらっしゃる」


「そうね」


「その経緯は? 誰に助けられたんですか? 確かグレース様のバラバラ死体が発見されたはずですが」


「あら詳しいのね」


「ロックハート王国の終焉は卒業論文のテーマで調べ尽くしました」


「あらやだ。詳しい筈ね。迂闊な事言えないわ」


「いえ! この際、ジャンジャン暴露して下さい! オタクにはお御馳走です!」


「“お御馳走”。ご馳走の上にさらに“お”までつけるのね。スゴイわ」


「……で、誰に助けられたんですか?」


「マックスたちよ。当時の地下牢に収監されていた政治犯で死刑囚の」


「え?????? ちょ、ちょっと待って下さいっ! マックスってロベスピエール閣下の事ですか?」


「閣下だなんて呼ばれてたかしら」


「我が家では閣下呼びは定番です! や、そうではなく! 話を戻します!

政治犯で? 収監されてたんですか?」


「そうよ。当時のロックハート王国はあちこちガタついてたって言ったわよね、地方によっては暴動も起こりかねないほど疲弊し飢えていたわ。マックスたちはその現状を訴えて改善要求をしてたの。結局そんな正攻法だと『凶悪な政治犯』として騎士団に捕縛されちゃった訳で」


「で、死刑囚扱い」


「そう。彼らは彼らであの日は脱走計画を立ててたらしくて。丁度学園の卒業記念パーティーで警備が手薄になるから、牢番を買収して仲間の一人とスリ代わってね。丁度良いからわたくしも一緒に逃げちゃった」


「丁度良い」


「そう」


「──バラバラ死体は?」


「わたくしのドレスを着せた他人よ。凌辱された胴体は娼館で無茶されて死んでしまった娼婦。頭部も隣町で遺体になってた金髪の少女。顔をじっくり検分されないように細工したって言ってたわね。その近辺に切ったわたくしの髪を散らして。バラバラの部位を寄せ集めて一人分に誤魔化したのよ。当時は王都をちょっと離れると治安も悪くてねぇ……餓死した遺体とかゴロゴロしてたの。本物だったのはわたくしの髪の毛だけね。DNA鑑定とかないから出来た無茶だわ♪」


「あぁ……、拷問を受けたんじゃなくて、身元を誤魔化すために欠損遺体を搔き集め細工したと……」


「そうね。髪とか爪とか、身分が判明し易いものだしね。特に、わたくしのこの瞳は一目瞭然だもの」


「あぁ、目を抉り抜かれてたって記録読みましたよ」


「ホント、詳しいわね」


「卒論のテーマでしたから 」


「でも帝国との友好条約文書は未読なの?」


「あれ、とっとと棄却されて現存してないんです! 我が国では! 帝国側では保存されてるかもですけど、他国の一介の学生には閲覧許可は降りません。新政府の手によって新しい条約が……えぇと、友好通商条約っていうグレース様の存在の有無を問わない形に変更してるんです」


「あらまぁ。それは知らなかったわ。マックスたち、そんな事してたのね」


「そのマックスさんたちって……再度確認しますがロベスピエールと4人の革命家……ですよね」


「彼らにそんな御大層な二つ名があるの?」


「時代の風雲児として彼らは超有名人です。彼らの活躍のお陰で今のフォーサイス共和国は建国されたんですから!」


「投獄された死刑囚だったんだけど」


「おぉぅ……」


「世の中なんて、どう転ぶか分からないものね。……わたくしはロックハート王国の礎になる為に教育を受けて、王妃となってかの国を背負うつもりだった。でも裏切りにあって一転、王国を終焉させる為に行動する事になった……ホント、まさかこんな事になるなんて、あの頃は思ってもいなかったわ」


「ん? 待って下さい、王妃になるつもりだった? 女王でなく?」


「? そうよ? だってあの頃のわたくしはジョンの婚約者だったのだから」


「記録によると、アーサー王はあなたを女王にする気満々でしたよ?」


「え?」


「え?」


「王が……わたくしを、女王に?」


「はい」


「あら  やだ。70年経って初めて知る真実、だわ」


「ジョン殿下が……レオン・アンドリューの実子でない事実は?」


「え?」


「それも初耳、なんですね」


「あらぁ……あぁ……そう言えば、彼……青い瞳だったわねぇ……」


「気がついてなかった?」


「だって、卒業パーティーの時がほぼ初対面だったんだもん……あの時は怒涛の展開だったしぃ……」


「だもんって……ほぼ初対面の彼なのに、結婚しようとしてた?」


「だってそういうモノだと思ってたんだもん……」


「そういう価値観だった、と?」


「……そうね。ガチガチだったわ」


「それが崩れたのが、卒業記念パーティーでの断罪劇だった」


「劇」


「違いますか?」


「……いいえ。その通りだわ。……あれは各々役割があって、それに当てはめられた役があった。だってあの時言われたんだもの。“悪役令嬢はここで退場”って」


「はい?」


「男爵令嬢のマリアよ。あの子も転生者だったから」


「はいぃ?!」


「この世界は乙女ゲームの中の一節なの」


「はぁあ?!?!?!?!??!?!!!??」


「わたくしもよく知らないんだけどね。マリアの言い分を信じるなら、そういう事みたいよ? マリア視点で見ると、学園入学して王子攻略して、悪役令嬢を断罪して、王子と結婚、ハッピーエンド……って事なのかなって。わたくしは前世の知識として乙女ゲームは知ってるけど、それだけなのよね」


「国王陛下による断罪は知ってます?」


「一応、知ってるわ。マックスから聞いたもの……だいぶ、時間が経ってからだけど」


「どう思いましたか?」


「まさかアーサー王に敵討ちして貰うとは、思ってもいなかったし、マリアが処刑されたのにはもっと驚いたわ。あの子、ヒロインだったはずなのにって……それとも王子と結婚するとみせかけたバッドエンドとかあったのかしら」


「どんだけ底意地の悪いシナリオですか、それ」


「そうよねぇ。当時のわたくしはマックスたちと只管この地、辺境伯の領地へ向けて逃走してたわ」


「えぇと……投獄された後の行動を聞いても?」


「マックスたちと意気投合して、その晩のうちに脱獄したわね。わたくしとマックスとアンジーは辺境へ逃走。他の子たちはわたくしの死体工作とそれを地下牢に戻した後、同じく逃走」


「アンジー……アンジー・スチュワートですね。ロベスピエールの腹心の友。彼の手記ではロベスピエールとは幼馴染だと書かれていました」


「そうね。

わたくしたちは逃走資金にわたくしの付けていたお飾りとか売っ払って、ここに来たわ。そしてわたくしの指輪(印章)とわたくし自筆の手紙をマックスに持たせて辺境伯へと面談させたの。手紙には『今この手紙を読んでるという事は、わたくしは亡き者となってる事でしょう』で始まって、」


「あぁ! 『ロックハート最後の女王からの手紙』で最後を飾る文章です! 自身の身の危険を感じ取っていたフォーサイス公爵令嬢が、“こんな事もあろうかと”って最後の願いを辺境伯に綴って……あれ?」


「ふふっ。内実を聞くとガッカリするでしょ? 先見の明があった訳じゃないのよ?

辺境伯はロックハート王家と遠縁でね、ガタついた王家を打倒して、辺境伯が主権を担って下さい! それがグレース・フェリシアの最後の 願いですって、伯に国家を託そうと思ったのは、本当よ」


「……ですが、辺境伯はロベスピエールを使者として立てて、本人は王都に乗り込まなかったですよね」


「あの方……当時の辺境伯はガチガチの王国血統主義だったのだけど……、“グレース(あなた)様を守れない現王家など滅びれば良い。私はグレース(あなた)様の意志を補佐するのみ”って譲らなかったわ。……あぁ、今思うと、あの方はわたくしを正統な王位継承者として見てたのね……」


「グレース様の偽装死亡の件、辺境伯にはバレてたんですか?」


「初めは騙せてたんだけど、後から来たフレディ達のせいでバレちゃった☆」


「おぉぅ……別行動した4人の革命家(なかま)のせいっすか……」


「辺境伯の前で私の話題をベラベラ話してたって」


「そりゃあ、仕方ないっすねぇ。

辺境伯家の専用騎士団を王宮へ送り込んでのクーデターに、貴女が旗印として担ぎ出される事はなかった? それこそ正統な王位継承者だったのでは?」


「無いわ。王都でのわたくしの扱いは死人だったもの。お葬式もひっそり行われた後だったし。その後でのこのこと『私が本物です』と乗り込んだところで偽物扱いされるのが落ちよ。……まぁ、一番はわたくしが強固に拒んだせいだけどね」


「本人が、拒んだ」


「だって疲れちゃったんだもん」


「だもんって……」


「わたくし、幼い頃から各国を渡り渡って働き過ぎて、もう本っ当に色んなことから解放されたかったの。マックスも辺境伯も、そんなわたくしのワガママを認めてくれて……ここに隠れ住む事になったわ。

ロックハート王国を終わらせた後、辺境伯が国王を名乗らないなら、どうすればいいかと聞かれたから、王族の血による支配ではなく、会議で選出された人が行う共和国政治にすればいいと提案したわ」


「おぉう……転生知識チート」


「無血革命が出来たのはわたくしの助言だけでなく、レオン殿下の政治に対する嫌厭感も大きかったって、マックスが言ってたわ」


「あぁ、文献でもありました。レオン・アンドリュー王太子が抵抗せず、粛々と事態を収め、と言うかほぼ自主的に主権を放棄したって」


「……フォーサイス公爵は歴史的にはどんな扱いなの?」


「彼はロックハート王国終焉後の暫定新政府の議長です。一度は君主として推薦されましたが、辞退して、その後は議長として新政府を纏めました。ロベスピエールを買っていて彼の後ろ盾となってフォーサイス共和国建国時には彼を首相として推してました。歴史家は、“彼は家名を国名として残す事で満足していた。自身が権力を振るう事を良しとせず、野心家とは一番遠い所にいた。”と、評価しています」


「そう……。公爵家自体は解体されたって聞いたけど、本当?」


「貴族制度が無くなりましたから。

血筋としては、グレース様のお兄様が家を継いで続いてるはずです……連絡を取り合ったりは、してないのですか?」


「わたくしは死人だもの。連絡なんて、出来ないわ。……お父様には……ご迷惑をお掛けしたわねぇ。……今となっては謝る事も不可能だけど」


「父親とは、娘を心配する生き物なんだそうですよ」


「…………そう」


「はい。そういう生態なので、(こっち)にはどうする事も出来ません」





「あー、最後に質問デス。

婚約者のジョン王子は、グレース様にとって、どんな人でしたか? 10年間、手紙を送り続けてましたが 」


「……日記の送り先……かしら」


「“手紙”じゃなく、“日記”、ですか。特に思うところはなかったと?」


「うーん。そうねぇ……少女の頃は仲良くしたくて手紙を送ったわ。わたくしが忙し過ぎて満足に会った事もなかったし。でも、そうねぇ……」


 ここでグレース様は初めて言葉を切り、遠いところを見る目で天井を見つめた。

 私は彼女の言葉の続きを黙って待った。



「一度、王宮の温室で面会が叶うかもって時があって……でもすっぽかされちゃった……その時思ったの。“きっとこの先も王子とはずっと会えない”って。なんでかしら……会った時は、きっと……何かが終わる時だろうって予感があった……だから、会いたい気持ちと、会えなくてこれで良いんだって気持ちがあって……それを打ち消す為に手紙を書いてた……ような気がするわ……」


「何かが終わる予感、ですか」


「そう、ね。今改めて考えると……そんな感じ。上手く説明出来なくてゴメンなさいね。

でも、まぁ、学園での所業を聞いて『うわぁ、アホ王子~』ってなって……ちょっと乙女ゲームっぽくね? って気がついて……国王の影にお願いしていたの。レポート纏めたら先にわたくしに読ませてって。卒業式の時にそれを貰って……読んで驚いたわ。わたくしの侍従がアホ王子に近づいて、ありもしないわたくしの悪行を告げ口してたし……なんか、もう、情けなくってねぇ……」



 カモミールティーはすっかり冷めていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 前世の記憶が強くなってるせいなのか、喋りが若々しいですね
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