18.フォーサイス共和国②
辻馬車を乗り継ぎ乗り継ぎ、途中で2泊。
やって来たのは旧ボーダー辺境伯領都フロンティア!
この辻馬車も初代首相さま発案のシロモノ。路線バスよね、要するに。
ってゆーか、自動車があったら直線コースで1日で着いてる距離なのよ! 本来なら!
それをゴトゴト馬車で揺られてあちこち経由して向かうから、まる3日かかるという……
父さんが心配するのも仕方ないかも。
嫁入り前の娘が往復6日かかる旅に出るんだもんねぇ……
で、辺境です。
強大な武力を誇るグリフォン帝国との境は、ロックハート王国時代から変わらずボーダー辺境伯が代々この地を守護してきた。
今現在もこの辺りを管理しているのはボーダー辺境伯の子孫だ。既に爵位など飾りの様な現代においても住民にとって『領主さま』は絶対的な心の支えだ。
帝国との和平同盟は未だに名を変えながら存続している。
ホント、フォーサイス公爵令嬢が生きていてロベスピエールとタッグを組んでいたらどうなったかな!
失われた時代の天才児と突如現れた風雲児。
同じ時代に生を受けながらも共闘しなかった両者!
もっとも、立場が違うからねぇ。片や王族、片や革命軍のリーダー。相反する者だもの。
く~! 父さんじゃないけど、想像すると滾るわ~!!
……これ、友達に言うとドン引かれる案件なの。
皆、ロマンを解さないのよ~ぶーぶー!
やんなっちゃう。
さてさて。
結構栄えてますよ、フロンティア。
特に帝国色が強いかな~。
道行く人、プラチナブロンドで色白さんが多め。
私みたいな黒に近いブルネットは目立つかも。
前世で言う観光案内所は無いかな~、無いよね~っとなると、適当なお店に入って、お買い物して聞き込み開始!
ついでにお宿もゲットしよう。
……なんてヘラヘラしてたけど。
いや~聞き込み、サッパリっす!
何なの? この街の住民は! 皆すっごーーーく愛想は良いの! 人当たりが良いの!
なのに肝心の質問に答えてくれないの!!
『孤児院? なにそれ?』的な。
のらりくらりとケムに巻かれて逃げられちゃう。
どこに行っても誰に聞いても『知らない』『そんな施設あったかなぁ?』『なんであんたみたいな若いお嬢さんが、そんな所行きたいんだ?』と、逆に訊かれ、ジロジロと不審者を見る目で睨まれる始末。
その度に私はロベスピエールの足跡を辿ってる、彼を尊敬している、ロマンを追っているんだ! って執拗くしつこくシツッコク(大切なことだから3度繰り返すわよ)力説し。でも手応え無し。
まるで『オルレアン孤児院』なんて最初から存在しないみたいに。
否。
違う。
そうじゃない。
怪しいわ。逆に怪し過ぎるわ! 寧ろこれは、街ぐるみで孤児院の存在を隠蔽してるのよ! 私のジャーナリストとしての勘がそう教えてくれてるわ!
二進も三進も行かない、こんな時は……
酒場だ!
ヤケ酒だぁ!
アレ! アレ!
飲んだくれてやる……!
幸い食べ物も美味しくてお酒が進む~!
んふ~有難い事に、現世はお酒に強い性質なのよね~♪
顔はすぐに真っ赤になるんだけどね、素面でいられると便利なのよ。何故なら……
ほら来た!
「お姐さん、一人?」
屈強な体躯のお兄さんが二人。どっちも強面ね。
それと……こっちに背中向けて座ってるお姉さんも彼らのお仲間かな~♪ んふ~♪
あちら側からナンパを装った偵察隊ね♪ 来るって期待して待ってた甲斐がありました♪
酒場って古今東西、情報収集には持ってこいな場所。酔っ払って本音で話す場所。
『オルレアン孤児院』を隠したい人達も、なぜ私がこんなに拘っているのか知りたいし、私についての情報も欲しいでしょ?
話しますよ~幾らでも!
こちらに疾しいことは無いからね!
「一人よ~。一人旅なのよ~♪」
ご機嫌な酔っ払いを演じる私。(……演じてるのよ? マジ酔っ払いじゃないわよ)
「俺らと一緒に飲まない?」
「いいよ~♪」
そして酔ったフリして絡みます!
こちらがどれだけの情熱でこの地に赴いたのか、親の代からロベスピエールの追っかけ、違うわ、研究してて彼には心酔してて賞賛しててほんの少しの情報でも喉から手が出るほど欲しいオタクコレクター魂が燃え盛っているかを懇々と切々と、時には情感込めて時には涙目になりながら訴える、訴え続ける!
相手が若干ドン引きしてるのは解るけど、オタクの執着する対象への愛のマシンガントークを舐めないでよね! 訊いてきたのはあんた達なんだからね!
余りにも熱を込めて話し過ぎて「だってここにはオルレアンの乙女が居るはずなんだもん! ジャンヌダルクは実在するのよ! 彼女はシャルルを見破ってフランスを勝利に導くのよ!!」と前世の話までしてしまった……
あれぇ? マジ酔っ払いになったのかしらん。
こりゃ駄目かも
自分でも意味不よ! 否、酔ってないよ!
酔っ払いは皆同じ事を言うよね。
……って、あれ?
目の前に座ったお姉さん……さっき迄こっちに背中向けてたけど……これは……
「ジャンヌダルクに、会いたいの?」
赤い髪に赤い瞳。猫みたいなつり目の魅惑的なお姉さんが、私を面白そうに見つめている。
おぉ! 関門突破か?!
「会いたいの! カタルシスがビンビンなの!」
私の中の冷静な私が“何言ってるのよアンタ”って呆れながらツッコミ入れてるけどスルー! だってこれ、きっと私にとってディャニャソンス!!
「じゃ、質問ね。マザーテレサは、知ってる?」
へ?
「ノーベル平和賞取ったシスターの事?」
お姉さんは、嬉しそうに笑って『合格』と言った。そして再度尋ねる。
「ジャンヌに会って、どうするの?」
どうする?
そんなの決まってる。
「話したいの! きっと、この世でただ一人、私の話を分かってくれるから!」
咄嗟の返答に、我ながら呆れる。
??? なんの話をしてたっけ???
待て待て私。
私はロベスピエールの縁ある人に会う為に来たのよ。ジャンヌダルクに会う為じゃ……
え?
いるの?
ジャンヌダルクが?
あれぇ? どゆこと?
お姉さんは笑った。
不思議な国のアリスに出てくるチェシャ猫みたいね。顔しか残ってないんだもん…………
そこで私の意識はプッツリ途絶えた。




