奇妙な三角関係!? その六
中盤以降はムーンライトへ改稿済み
勢いに任せてマンションを出たまでは良かったが、どこにも行く当てなんてない。とは言え、祝日やイベントシーズンでも無いのだから、ビジネスホテルに転がり込めばいい。
なんだか色々な感情がぐるぐるして気分が悪くなっていた。
(お飲でも飲もうかな……)
1人で酒など滅多に飲まないのだが、ふらりと新大阪駅近くの居酒屋へ足を向ける。
カウンターに通された私はおつまみとビールを頼むと周囲の楽しそうな声を流し聞きしながらぼんやりとしていた。──明日は朝一番で窓口に行って、指定席じゃなくてもいいから、東京に帰ろう。
そう決めた私はスマホで千里さんに連絡をする。
「彼氏と喧嘩でもしたの? って……喧嘩どころか会えないんだって」
先輩からの心配そうなメールに思わず1人ツッコミしながら、『私は大丈夫です。ちょっと彼氏の都合が』と入力した所で着信に妨害される。
しかも発信者は俊ちゃんだ。私はメールを中断して電話に出るか悩む。数コールで切れるだろうと思っていたのだが、それは意外と長い。
別に喧嘩をしたわけじゃないんだから、電話に出よう……。
「も、もしもし……?」
『晶、今どこにおるんや……!』
外に居るのだろうか。俊ちゃんの声は険しいままで、1つだけ違うのはマラソンでもした後のように息が上がっていた。彼は確か九州に出張で……。
「……俊ちゃん、お仕事忙しいのに昨日は電話してごめんね。今日はどこかに泊まって、明日新幹線で帰……」
『帰るな晶! まだ新大阪におるんか? どこにおる? 場所は!?』
「え? えっと、駅から西に5分くらい歩いたトコにある居酒屋だけど……」
『すぐ行くから、帰るんやないで!』
強制的にふっつりと切れた電話を、私はきょとんとしたまま持つ。
昨日の俊ちゃんと態度が違う。もしかしたら、私がマンションから出ていったから、和希くんが心配して俊ちゃんに連絡したとか?
俊ちゃんに会えるなら細かいことはいいや。そう思い、会計を済ませる。
キャリーバッグを引いた私は外の冷たい風を浴びながら俊ちゃんが迎えに来てくれるのを待つ。
「晶っ!!」
声のした方に視線を向けた瞬間、こちらに走り寄ってきた俊ちゃんにきつく身体を抱きしめられる。
「し、俊、ちゃん?」
「晶……ごめんな」
吐息混じりで小さく詫びた俊ちゃんは、私の顎を掴むと深く唇を重ねてきた。冷たい俊ちゃんの唇は少し紫色。それに、私を抱きしめる身体はかなり冷たい。
(もしかして、私を探してくれていたの?)
俊ちゃんの広い背中に手を回し、私は何度もその冷たい背中をさする。
「俊ちゃん……」
「ごめんな、晶……お前を試してしもた」
「試す?」
一体何を試すというのだろうか。私と草間くんの関係なんてもうとっくに終わったのだから正直不安材料なんて何もないはず。
「──和希が……晶は俺の事が好きやからいつまでもしがみついてないで別れろって言ってきてな」
「はぁっ!? そ、そんな訳……」
どこをどう取ってそんな話になるのだろうか。いくら弟に甘い俊ちゃんでも、確認もしないで勝手に解釈するなんて酷すぎる。
「そうやと思ったんやけど、和希の方が晶と歳も近いし、あいつも顔はええやろ。そうしたら……」
まさか、俊ちゃんは自分の弟に彼女を取られるかも知れないとか嫉妬でもしたのだろうか? そう考えると俊ちゃんの悩みはすごく可愛い。
「俊ちゃん、私……怒るよ?」
「……だから、悪かったって」
「私は俊ちゃん一筋なんだから……電話で他人みたいにされてすごく辛かった」
「晶──」
ごめんな、と呟いた俊ちゃんは私の唇を塞ぐ。触れ合う冷たい唇は次第に熱を戻し、生暖かい舌先を絡める。
その間も俊ちゃんは私を絶対に離すまいと、きつく身体を抱きしめていた。
────────
外で熱い抱擁を交わし、冷めない熱を抱いたまま、私達は俊ちゃんのマンションに戻る。
「あれ? 和希くん……」
リビングのテーブル上に1枚の書き置き。そこには丁寧な文字で『ごめんね、ごゆっくり』と記載されていた。
「……あいつ、逃げよったな」
小さく舌打ちをした俊ちゃんは、私のキャリーバッグをさっさと寝室に再び置き、いつの間にか背後に回り込んでいた。
甘いキスの後、2人で手を繋ぎ寝室へ向かう。さらに再び唇を貪り、そのまま転がるようにベッドになだれ込む。
キスの雨をうっとり受けていたところではたと気付く。
「ま、待って! 俊ちゃん。今日は私にさせてよ」
「ん? オレはたっぷり晶を愛したいんやけど」
「だめ……昨日のこと怒ってるんだから。いいから、両手上げて?」
きょとんとしてしる俊ちゃんを私はにっこりと微笑み、弾性包帯を手に取る。
────────
両手をくたりとベッドに投げ出し、全身の力を抜いて瞳を閉じると、瞼の上にちゅっと音をたててキスを落とされた。
余韻に浸り、ふわふわ浮いているような錯覚。その間も俊ちゃんは何度も私の頭を撫でてくれた。
「──優しくされても、まだ怒ってるんだからね?」
「なんや……まだ拗ねてるんかいな、オレのお姫様は」
「そうだよ。他人っぽい振る舞いしたこと、まだ許さないんだから」
私の心からの本音。
どんな理由があっても私は俊ちゃん一筋なんだから。──それを勝手に解釈して、勝手に嫉妬して距離を取るなんて。
「ごめんな」という言葉と共に、唇をそっと塞がれた。
朝まで互いの背を抱いたまま、俊ちゃんは何度も甘い言葉を囁いてくれる。
──ずっと、こうしていられたらいいのに。




