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波乱の大阪旅行 その九

ムーンライトに詳細置いてますm(_ _)m


「う〜ん。なんか、思ってたのと違うなぁ」


 取り出したのは例のベビードールだ。


 ベビードールは一言で言うと、勝負下着のようなもの。実は私もつい最近までは知らなかったけど、可愛いのから、セクシーな物まで大量の品物を取り扱っている。

 同性の私から見てもこれは際どいんじゃないの? というものでも、モデルの人が着ているとすごく自然でカッコイイ。

 問題は、ちんちくりんの私が着た所で似合うのか?


「えっちな下着って買う時は勢いなんだけど、いざ着るとなるとやはり勇気が……」


 でもパジャマの下に着てしまえばバレないし、バレるにしても、下着ですってことにしちゃえばいいよね。

 俊ちゃんは長風呂タイプなので、その間に……と、ベビードールに手をかける。

 胸元には純白のゴージャスな花柄模様のフリル。サイズが大きいのか、胸の部分が少しだけ余る。へそ周りはシースルーのレース素材で、肌がうっすらと透けて見える構造だ。

 下着はお揃いの白で、しかもややTバック気味。


(こ、こんなのは履けない!さすがに下着だけは変えよう……!)


 胸元がゆるゆるしているのを見て、残念なため息をつく。そりゃあ、モデルさんと私の体型なんて──あってるのはウエストくらい?


「胸のサイズは仕方ないよね……はあ、これじゃあ色気も何も……」


 床に座り込んだままベビードールの胸元にある黒い紐をリボン結びにしていると、背後でガタガタンと何かが壮大に落ちる音がした。


「ん……し、俊ちゃん!? な、な、な……」


 音のする方向を見やると、そこには目を見開いている俊ちゃんの姿が。


(って、何で今日に限ってお風呂上がるの早いよ! まだ準備してないって言うか、全然サプライズじゃない)


「あ、晶……その恰好……」

「で、ですよねー。ですよねー? に、似合わないのは分かってるの! 勢いで買って、俊ちゃん喜ぶかなー? とかさぁ……あ、ははっ」


 そう。勢いと、俊ちゃんに喜んで貰いたくてヘラヘラ妄想して買ったのよ。実際に試着したのが今日初めてだから、まさか……こんなにもモデルと体型が違うなんて思わなかったけど。


「あははっ、に、似合わないよね? ちょっと、勢いって奴? こ、この上にパジャマ着るし、見なかった事に──」


 床に畳んだままのパジャマを手に取ると、背後からぎゅうっと抱きしめられた。──えっと、これって?


「……晶、可愛いすぎや」


 心底嬉しそうな甘い声。彼は私の身体を反転させると、上から下まで舐めるように見つめてきた。

 ──なんか、査定されると尚更恥ずかしいんですけど。


「えっと、特に深い意味無いし。だから、あのね……」

「晶はオレの為に買うたんやろ? そんで、オレの事考えてこれ着たんやろ?」

「そ、そうだけど……」


 おずおずとそう答えると、いつもより激しく唇を重ねられる。一瞬それは離れたと思いきや、再び角度を変えて深く吸い上げられる。


 私は軽々と身体を持ち上げられ、ベッドの上にふわりと降ろされる。その上には優しい笑みを浮かべる肉食獣の双眸が映る。


「晶、可愛い……オレだけの晶や」


 愛おしいものを見るように目尻を下げた彼は、何度も私の瞼に唇を寄せる。器用な手は胸元の黒い紐を既に解いていた。


「脱がせて……って言ってるみたいな服やな」

「そ、そんなつもりじゃあ……」


 嬉しそうに笑う肉食獣の顔が近づく──。


 本当に、理性を崩壊させるベビードールの破壊力は凄まじい……。


────────


 薄暗い朝の光と共に目が覚めて、ふと携帯に手を伸ばす。


「んっ……4時……?」


 激しい情交の所為で下半身の感覚がかなり乏しい。隣で眠る俊ちゃんを起こしたくなかったが思うように歩けない。

 以前のようにお姫様抱っこの必要性は無くなったとは言え、赤子のように這いずる姿は少し情けない。


 お互いの理性を崩壊させたベビードールの上には、パジャマが着せられている。風邪をひかないように俊ちゃんが着せてくれたのだろう。


 苦笑しながらティッシュを手にとったところで、右手の薬指に銀色に輝く見覚えのない指輪がはめられていることに気づいた。


「えっ──?」


 夢かと思い、頰をつねったりして確認する。


「まさか……!」


 トイレから出て手を洗った後、まだ気持ち良さそうに眠っている俊ちゃんに抱きついた。


「俊ちゃんっ! これ、誕生日プレゼント?」

「おう。オレが晶の為に選んだんや。似合わんわけない」


 突然私が抱きついても全く動じることなく、俊ちゃんはニヤリと笑いながら私の前髪を梳く。


「誕生日おめでとう、晶」


 甘く優しい囁きと共に、俊ちゃんの唇が触れ合う。

サプライズが嬉しくて、私はにやける顔を抑えられないまま、俊ちゃんにぎゅっと抱きつく。


「──晶、まだ足りない?」

「えっ!? め、めっそうもない! そうじゃなくて──」

「狼は寝起きが悪いんや。陣地にウサギが入ってきたらそりゃあ……なぁ?」

「なぁ? じゃなくって! ちょ、ちょっと! ボタン外さないでっ──あ」


────────


 その後も2回程昇天させられた私は、西心斎橋にいく予定だったのに全く歩く事が出来なかった。詫びる俊ちゃんに見守られながら、ほぼ一日彼のベッドの上で過ごすことになった。

 最終日にようやく足が動くようになり、新大阪駅に向かう前に、2人きりの買い物デートをたっぷり楽しむ。


 駅で別れ際にキスとハグをしてひと時のお別れ。──ここは日本で、そんなバカップルを見つめる周囲の好奇の視線。そんなものなんて、どうでもいい。


 また3カ月後……後ろ髪を引かれるけど、私も仕事があるから帰らないといけない。


 見送りをしてくれる俊ちゃんに笑って手を振り、東京へ帰る新幹線に乗り込む。

 いつも寂しい私の右手薬指には、銀色に輝く指輪がはめられていた。──そして、その裏には、しっかりと私と俊ちゃんの名前が刻印されている。


「婚約指輪だったりして。なあんて……ね」


 指輪を光に翳して幸せを噛み締める。その後の品川までの道中を幸せな気分に包まれながら、瞳を閉じて過ごした。

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