火の鉄道都会フェニクル
周囲に雑居ビルが建ち並び、道路が左右に続いている。その道路は、戦車二台分くらい横並びしても接触しないくらいには道幅はあるものの、段差が目立って走行出来るかというと怪しいくらいには荒れていた。
その代わりと言って良いのかわからないけど、ビルの隙間から高架が見えており、いかにも電車が走ってきそうな雰囲気があった。
「はい、ここが火の鉄道都会フェニクルよ」
交戦した結果だと思えるプレイヤーの死骸が何体も転がり込んでいたせいなのか、周囲を警戒を怠らないトワは、大きめの銃を構えていた。
「周辺には、敵の反応なし。……最も、ステルス能力がある私には、ほぼ意味をなさない行為なんだけど」
銃口を下げて、トワはひと息つく。
ワープした先が安全地帯ではないということは、スリリングを求めているのか。
そんなプレイ環境を本当に求めているのかは定かではないのだが……トワの記憶の石像は、道路の隅っこにある自動販売機と横並びに設置してあるだけだった。
「トワさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
トワは、不思議そうに私を見つめる。
「トワさん、どうしたのかな?」
「この殺伐としたゲームで、よく平常心を保てているなって……」
「現実世界での仕事の窮屈さと比べても、遙かに自由はあると思いますけど?」
「まぁ、確かにシクスオには自由な要素は多いけど」
トワは、納得の表情を思い浮かべていた。
探せば探すほど、自由な要素が見つかっていくシクスオは、やりこみプレイヤーは勿論のこと、武装禁止となっている一部のエリアでおしゃれ等を楽しんでいるライトユーザーはかなり多い。
「それで、私はこれから西に行くけど」
「トワさんは西ですか……」
発動。――天翔る銀河の創造天使。
この場で、目的地となるダンジョンの位置を把握してみた。
ダンジョンのマスターが建てたものだから、運営が作ったものとは区別はつきやすい。
「あった! ここからみて東になるから、トワさんの進む方角とは逆になりますね。残念です」
「そういうこともあるか。ここでお別れだね」
「そうですけど……。そうだ、今度ダンジョンマスターの交友会をするのですが、よかったら参加してくださいね。皆が参加可能な期間限定のダンジョンをご用意しますので」
「期間限定のユーザーイベントね……。まぁ、ちょっとは考えておくか」
姿勢を低くしたトワは、駆け足で西の方角へ進んでいった。
「あっ、行ってしまいました」
ステルス能力を持つトワは、視界から見えなくなると行方を追えなくなる。
通常のステルス能力であれば、ダンジョンマスターであればダンジョン内に限り把握する手段はある。だが、トワのステルス能力は、私の天翔る銀河の創造天使を用いても位置の特定は不可能だった。
これは何を意味するのかというと、トワのステルス能力は固有スキルであることだ。
詳細はまだ見れないので確信を持てないのだけど、いずれ確認できる機会があるはずだ。
それはそうと、私のレアスキル判別のレベルは3となっていた。レアスキル判別とスポットライトは成長率は同じなので、衣装についているスキルのレベルは片方把握しておくだけで良い。
せっかく天翔る銀河の創造天使を使用したのだから、少なくとも目的地までは飛んでいくのが良さげである。
道中の敵は、エグゼクトロットを投げでは即回収していくのが効率が出そうだ。敵を倒せば経験値が入ってスキルのレベルが上がる。
これで、スキルのレベル5を目指しながら進むことになると思う。
何にせよ、レベル5になるとレアスキルの名称を把握できるようになるから、意識して上げておきたいところである。
スポットライトのほうも、レベル5になると衣装切り替え設定をしている装備を身につけていなくてもスキルが発動出来るようになるので、何かと便利になってくる。
「敵の数は、一、二……全部で三かな」
私は一つずつ狙いを定めで、エグゼクトロットを投げた。
雑居ビルのガラス窓を狙った一投は的中する。敵はすぐにリスポーンされたと通知が入る。
ほかの敵も同様にして、倒していった。
敵が全ていなくなったら、飛んで前に進む。それを何度か繰り返すと、二つのスキルのレベルが5に達したという通知が入る。
その直後、高架の方から物音が聞こえ始めた。
高速で走って行く列車である。
現実世界のものとさぞ変わりない音が響き渡っていた。
それが通り過ぎさると、周囲はもの静かになる。
一応、列車には乗ることが出来るらしいのだが、今はそんなことを探している余裕まではない。
目的地のダンジョンが、すぐ近くに迫っており、男と女の話し声が聞こえてきたからである。
一応、近くに隠れるところなら自動販売機があった。ひとまず、そこに身を潜めよう。
「ねぇ、パパ」
「エマ? 聞きたいことでもあるのか」
「《シックス・スターズ・オンライン》のダンジョンマスターって、結局のところ何する人なのかな? パパの様子をずっと観察していたけどよく分からなかった」
「その、センスが無いんだ」
「何で……?」
「モンスターを見ればわかるだろ」
「ファイヤースライムが一匹いるけど」
「そいつが冒険者に倒されてみろ。ダンジョンはどうなる」
「モンスターがいなくなる」
「そうなったら、今度は誰が狙われる?」
「ダンジョンのボスキャラだから、パパのことかな」
「わかったか?」
「いや、パパは強いよね?」
「確かに俺も固有スキルを持っているが、戦闘面においては強いともいえない。少なくとも娘の固有スキルより利便性に欠けてしまうのが、大きな痛手となっている」
「ふーん、親子格差があるんだね」
「まぁ、そのくらいのハンデは別に構わないと思う。それよりもアレを見てどう思う?」
瓦礫が散乱とする塔の廃墟にいた、男と女が見上げました。
かつてはリスポーン地点と呼ばれていた浮いている島にめがけて、空から無数に降り注いでたのは、不気味な肌の色味をしている人形たちです。
「人間の、滝?」
「あれはBOTだよ。運営が対抗策を実行しなければ、この世界はとっくに滅んでいたというのに、誰も危機感を持ってすらいない」
「大丈夫だよ、パパ。あの敵がパパのダンジョンに向かってたくさん襲ってきた時には、私も一緒になって戦ってあげるからね」
「そうか。それなら俺は、世界を救う英雄にでもなりたいものだし……。これからダンジョンマスターになるエマのことを、頼りにしているよ」
「頼りにしてるって言われても……。現実世界で、ダンジョンマスターを引退するから跡継ぎしてほしいって頼んできたの、パパからでは?」
「そうだったな」
「その話に乗ることにしたのは、私なのだけど」
「無駄話はこのくらいにしておくか。さて……ダンジョンの立て直しをする前に、エマはもっと強くなっておくことが大事になってくる」
「強敵を倒しに行くのかな? その前に、私のイメージチェンジをしないとね」
女は、ゲーム内通貨のひとつである、ポイントを使用しました。
すると、おチビちゃんと呼ばれそうになるくらいには身長が縮んでいき、髪も黒からベージュ色へと変化していきました。
体が小さくなったといっても小学生低学年くらいの女の子になっただけで、探索には一切影響は出ません。
少し短くなった髪はツインテールに仕立て上げて、黒の帽子を被りこんだ。
おしゃれの変身はまだ止まらない。
爽やかな白のワンピースを着こなし、橙色のジャケットをその上に身につける。そこに黒いタイツを履き合わせたので、どことなくボーイッシュさの一面が出てきた。
丸みのある顔にはくりっとした大きめの瞳が並んで、見た目の年齢をより下げていた。
「よし、出来た! 次にやることは、装備品の確認かな」
女の子は武器をひとつずつ取り出してみて、お手入れが十分なのか確かめる。
SSRの双剣――フラムルルシュ。
炎のように赤く染まっている双剣。リーチは片手剣と大差ない。
SSRの双銃――クラインズ・ハート。
黒い外装にピンクのラインが入っている。人の心を打ち抜くことが出来るという噂もある。
SSRのハンマー――イノセントアッパー。
白い見た目をしていて、光沢がある。棍棒のように細いのが特徴的である。
これらを戦闘で巧みに使いこなす女の子が持っていた個性を、ウェポンチェンジⅢと呼ぶ。
三種類の武器を瞬時に持ち替えることを可能とする、器用さが目立つ固有スキルである。
「パパ、私はいつでも大丈夫だよ!」
「そうか。……では、ここから移動しよう。行き先は、この国にあるギルドだ」
男が右手を挙げると、そそくさと立ち去っていく。
「えっと……とにかく。確認かな?」
自動販売機の陰に身を潜め続けていた私は、女の子と男のプレイヤーネームを確認する。
女の子のほうが、エマ。
ダンジョンマスターと言っていた男は、ルーク。
この男のほうはパワードスーツとみられる、黒の縦ラインが入ったグレーの衣装を全身に覆っており、はっきりした表情が読み取れなくなっている。
そして肝心のダンジョンはというと、廃墟の状態になっており、まるで機能してない様子といえた。なので私は、この二名に対して見失わない程度の距離を保ちながら、低空飛行で追いかけることにした。
お読みいただき、ありがとうございます!!
面白いと思いましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。作者の励みにもなるので何卒よろしくお願いします!!!




