教育の予行練習
「この辺りには貴重なアイテムがとれる採取場所があって……うん……?」
一番先頭に立っている盾持ちのカナンは、私たちの姿が視界に入ると身構えた。
「ダンジョンの深い階層にプレイヤーがいるとは、珍しいこともあるのだな」
「ひとりだけ、みゅー?」
アマノハクが困惑したのと同時に、足音が聞こえてきた。
ルイービアとアミカルが、やや遅れてやって来た。
「カナン、とにかく気を付けろ。てか、どこかで見たような……」
「ルイー君に見覚えある?」
「そうだな……カボチャを抱えている子は知らないけど、もう一人はどこかのダンジョンマスターかも。ここは戦力的撤退が望ましい」
「ここで引いちゃうとは、まさかわたしとおデートですか?」
むぎゅー。
アミカルに左腕を掴まれてしまったルイービアが、ため息を漏らす。
「あのさぁ、放してくれないか?」
「二人とも、はしたないぞ」
「ほら見ろ。カナンがそう言ってるし」
「なんかわたしに対して、当たりが酷いような気がしますけど!」
「それは、当たり前だろ? というか、なんで普段から俺に執着するんだ?」
「ルイー君が面白い男だから」
「なんだそれ」
「言葉の意味、そのまんまだからさー。それとも、今すぐダンジョンから帰ってわたしとおデートしたいですか?」
「だから、お前の脳内はどうしてそうなるの!」
「二人とも、変なイチャイチャはそれくらいにしてくれ。いまはただ、気持ちを切り替えてくれないか?」
カナンは私たちに視線を向けると、鋭い目つきに変わった。
「最初からそのつもりだよ」
「おデート断られちゃいましたからね。やるからには本気で倒しに行きますよ!」
ルイービアとアミカルも、目つきが変わる。
どうやら、戦う気満々の様子だ。
対戦相手に本気の目が少なからずある方が、私自身は何かと戦いやすい気もするけど。
「みゅー。一応、今回は予行練習ということで、前衛と後衛の役割を果たせるような動きがしたいのですが……」
「それを私と二人でやるのかな?」
「コルテは戦力にならないので、お願いします」
カボチャを地面に降ろしたアマノハクは、スキルを発動しようとしていた。
とりあえず、こちらに突っ走ってきた盾持ちのカナンの動きを止めるところからやってみる。
「エグゼクトロットっ!」
素早く投げて、エグゼクトロットをカナンが持つ盾の中心部分に刺しこんだ。
ただ、投げる際にちょっと力んでしまっていたのか、盾にひびが入ってピキピキと音をたてた。
これは、装備品の破壊へと繋がる。
「このままでは……だが……」
危機感を感じ取ったのか、カナンは一度足を止める。
「スキル発動、ディフェンスアップ!」
防御力を上昇させて、守りをより固められるノーマルスキルの発動を感知した。
これならすぐに盾は壊れなさそうだ。
「頼みましたよ、アマノハクさん!」
「世界に在りし数々の原子たちよ。拙者の声に耳を傾けたまえ」
アマノハクは、ダンジョンの天井に向かって元素精霊を解き放った。
その精霊たちの輝きは雷帝となりて、稲妻を地に降り注がせる。
「ぬっ、このくらい……!」
「ぐっ!」
「きゃぁっ……!」
アマノハクの攻撃は、敵全体を巻き込む魔法に匹敵した。
「アミカル、大丈夫かっ?」
「体が痺れて、動けない……!」
「二人とも気を付けろ。少々痛いが、盾役であるアタシはまだ動ける」
カナンは後方の二人に気を使って振り向いた。
これでは、盾役が私とアマノハクの立ち位置を把握することなんて出来ない。
この一瞬の隙を逃さない。右手を伸ばした私は、エグゼクトロットを水の姿に変化させて回収する。
「ふむ、動けるのですか」
私は天使の羽を広げて、カナンの元に飛んで行く。
実体化したエグゼクトロットの先端を、カナンの首に狙いを定めて。
「遅いですよ」
「えっ?」
盾の背後に回り込んだ私はエグゼクトロットで振り払い、頭と体が離れたカナンはリスポーンした。
「カナンさんが、一瞬でやられてしまいましたよ。これではわたしとおデートコースですかね」
「今はそれどころではないだろ?」
「それもそうですね。てか、痺れの状態異常が厄介ですね……!」
必死にもがくルイービアとアミカルは、まだ動けない。
アマノハクによる次の攻撃の準備はもう始まっている。
「いでよ、金の雨っ!」
アマノハクの声に元素精霊が答える。
金色に光る小粒の雨が、ルイービアとアミカルに向かって降りそそぐ。
「動けない俺たちに遠距離攻撃か。厳しくなってきた」
「痛いですね……。でも、このくらいならまだまだやれますよね!」
「みゅー? この金には不純物が混じっていますので、毒が回りますよ?」
「なっ!?」
「そんなっ!」
アマノハクの言葉に対して、敵である二人に衝撃が走る。
そして、アマノハクの言った通りに、毒が体を蝕む。
急激に老朽化が進行して、あっという間にルイービアとアミカルが白骨化した。
冒険者二名がリスポーンした。
そんなログが流れたことを確認した私は、ほっと息をつく。
「アマノハクさん、シクスオでの戦闘お疲れ様でした」
「みゅー。パルトラさんもお疲れ様です。転生前と戦闘スタンスがまるっきり変わってしまったので、立ち回りでまだまだ苦労しそうですが……」
『お嬢様、アレはどうするのですかっ! 敵のヒューマノが骨になってしまいましたけど!』
「みゅー? それはパルトラさんがなんとかかんとか」
「コルテさん、あれは素材にします。私、ダンジョンマスターなので」
笑顔になることが抑えきれない私は、白骨化した冒険者を見つめるコルテに視線を送った。
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