黒き清らかな渓谷で
わたしと一緒に、大精霊が保管されている隠しダンジョンを攻略してみないか――。
フィールドの空高くを駆け巡り、黒き清らかな渓谷に入ろうとした時、僕の頭の中でソルルが放った言葉が横切る。
「ジェイラさん、私が飛ばしちゃったせいで疲れてしまったのかなぁ……」
パルトラが、僕のことを気にかけていた。
「大丈夫だ。ダンジョンの探索を始めるよ」
すぐに返事を返す。
それから、パルトラより先にダンジョンの中に入っていった。
「ちゃんと目的、わかっています?」
「ごめん。何も聞いてなかった」
「ジェイラさん、私がやりたいことは素材アイテムの採取です。このダンジョンには、ブラッディーベアというレアモンスターが存在しますよね?」
「ブラッディーベアか。遭遇率は低めだが……」
このレアモンスターのドロップ枠に、『暗黒の木切れ』という素材アイテムがある。
おそらくだが、パルトラはそれが目当てなのだろう。
「目的となる素材アイテムは二つありますよ」
「パルトラ、そうなのか?」
「ひとつは採取限定ですけど、取れるエリアに見当がつかなくて」
「この辺りの見晴らしがよくないが、道が肉眼で見えないわけではないからね……。探索していけば、そのうち見つかるのでは?」
「そのアイテムは光っているみたいなので、ジェイラさんの想像通り、見落とすことはなさそうですけど」
「どんなアイテム名なんだ?」
「ホタル草です」
「ホタルのように素材が光るなら、確かにわかりやすそうだが……」
僕は銃を構えて、ダンジョンを進んでいく。
採取ポイントはいまのところなし。モンスターの気配もしない。
黒き清らかな渓谷は薄暗い場所が多いのだが、ダンジョンの入り口付近であれば、警戒を怠らなければいきなりやられてしまうこともないけど……。
少しばかり妙である。
現実世界では深夜帯のはずだが、冒険者の気配がする。
入り口付近だけでも二人から三人程度ならまだしも、直感からしてざっと五十程度は隠れていそうだった。
「そよ風の感覚……」
どことなく、懐かしみのある肌触り。
しかもこれは、大物だ。
「そこに隠れているのは誰だ?」
地面から三角形に突き出されているオブジェクトに、銃口を向けた。
「あーあ。見つかった」
観念したのか、薄紫の髪の女の子がすんなりと姿を見せてきた。
「久しぶりね、ジョーカーのお兄さん」
「その声は……」
僕にとって聞き覚えがあった。
ユーザー名はたしか、キラリ――。
彼女は、神風の集落トルードのダンジョンマスターだ。
シクスオにおいては、パルトラやノアと同等の立場である。
「キラリさん、どうしてこんなところにいるのかな?」
「今回はパルトラさんも一緒だったか。まぁ、敵でないなら良いか」
キラリは、コンパクトな黒い鎌を両手で握っていた。
今回の探索ではパルトラの目的を果たすことが第一だが、キラリの目的も気になってくる。
「私はホタル草と暗黒の木切れを求めてここに来たけど、キラリさんの目的は何ですか?」
「特定の採取ポイント入手できるホタル草を取りに来た」
「えっと、私と目的が一緒なの?」
「偶然にもそうなります」
「それじゃあ、一緒に探索するってことで大丈夫かな?」
「うーん、まぁ良いか」
「二人とも。……とりあえず、進もうか」
キラリの目的を聞きだせたので、場所移動を提案する。
三人集まれば急に襲われることはあまりなさそうだが、念には念を。
確実に言えるのは、このダンジョンに潜んでいるキラリにとって敵となる存在は僕たちにとっても敵ということ。
遭遇したら、遠慮なく倒してしまうだけなのだが……。
「ひとまず道が開けましたね」
「うん。パルトラさんは黒き清らかな渓谷に何度か来たことあるのでは? 自国だし」
「それは、その……いつもならドラゴンに乗ってるから」
「ドラゴン……なるほどね」
キラリはその場で見上げると、鎌を適当に投げたがっていた。
「キラリ、どうした?」
「今の状況、ジョーカーのお兄さんはどう打破しますか?」
「打破……。もしかして、囲まれているのか?」
空が見える渓谷の道には敵がいないように思えるのだが、死角に隠れているとキラリは遠回しに言っている。
ただ、隠れていたとしても高低差がある。
不意打ちができる距離でもない。
威嚇用で一発撃っても構わないが、あまり効果的ではないだろう。
「気にせず先に進むぞ」
僕はなりふり構わず歩き始める。
「えっ。ジョーカーお兄さん、行ってしまうの?」
「当たり前だね。どのみちどっかで出くわすし」
敵が動かないなら、いま相手にする必要はない。
それだけを伝えて道を進んでいく。
「ジェイラさんがそう言うのでしたら、大丈夫そうですね」
「パルトラさんも、本当ですか……?」
キラリは警戒しつつも、再び洞窟の中に入る僕たちについて来る。
このまま何も出会わずに採取ポイントまで行くことができたら気が楽なんだけど。
そんなことはなかった。
「何かいるな……」
銃を構えた僕の目線の先から、鈍い四足歩行の足音が聞こえてきた。
「うーむ。さっきの敵とは、雰囲気が違うというか」
「ジェイラさん、キラリさん、たぶんモンスターだね」
「二人とも、武器は構えておいて」
僕たちが警戒心を強める中、足音を立てている正体が姿を見せる。
『シャーッ』
四足歩行の正体は、バジリスクというモンスターだった。
そのモンスターの背中には、三日月の形をした紋章が刻まれていた。
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