帰国
宴は三日も続いた。
その後、グレイ陛下がどうしてもと言って聞かなかった受勲式に、代表として出席したあと、俺たちは一度王都クレインベルグに帰ることとなった。受勲式を「面倒くさい」の一言で断ったルナティックが、仕切りにケンカをせがんでくるのを断るのが面倒くさかった。
……父上について、昨日ジェフティム陛下に詰め寄られてすべて話してしまったけど、どうなったんだろうか。
そんな気持ちを少しだけ抱きながら王都に帰ってくる。
帰ってきた途端。
「レ、レド様!」
「よくご無事で! 結婚してください!」
「英雄レド様が帰ってきたぞ!」
おいおいなんだこれ。
俺が王都を飛びだしたときと全然態度が違うぞ。
確実にジェフティム陛下の仕業だろうなと思った。
笑われるよりかはいいかもしれないが、これはこれで気恥ずかしい。
「レド様! 付き合ってください!」
「……モテモテだね、レドくん」
気恥ずかしさがどこかに吹き飛んだ。
俺の寿命のためにも、あとでジェフティム陛下に掛け合っておこう。
「あー! なんでレドばっかり! オレだって割と活躍したのに!」
「おい見ろよ、ウェイ・サークルだぜ」
「ああ……なんか女装して働くことが好きになった変態だって」
「足フェチに女装癖とかいろいろと盛りすぎよね」
「情報操作がひどすぎる!」
ウェイはウェイでいろいろとかわいそうではあった。
半分くらい自業自得な気もするが。
俺たちはいろんな意味で街中を賑わせつつ、ジェフティム陛下の待つ王城へと向かう。
謁見の間で待っていたジェフティム陛下の御前で片膝をついた。
「あーそういうのはいいから。もっとラクな姿勢で話を聞いてくれんか」
俺は横に並んだリコやセバス殿と顔を見合わせる。
リコが普通に立ち上がったのを見て、俺も彼女に合わせた。
「まずは諸君、此度のホーリーナイト聖王国の危機によくぞ尽力してくれた。改めてわしからも礼をさせてもらいたいと思う」
陛下の指示で、使用人が俺の前に一本の白い長剣を持ってくる。
あれ、この長剣って、もしかして……
「──宝剣オルレイン」
「さすがにレド君なら知っておるか」
俺がその名を口にすると、ジェフティム陛下は感心したように微笑んだ。
宝剣オルレイン。
はるか昔に伝説の剣聖を輩出したオルレイン家の元に、これまた伝説の鍛治士クロウズ・アイアンの先祖とされる人物が贈ったとされている、魔を穿つ剣だ。
「けど、どうしてこれをジェフティム陛下が? 確か父上が大切に保管していたと聞いていましたが」
「……レド君。君はまだアルヴァンのことを父上と呼ぶのかね」
ジェフティム陛下の顔に少しだけ怒りと同情の色がうかがえる。
陛下の言うとおり、俺はもうオルレイン家の人間じゃない。
「確かにそうですね。すでに私はオルレイン家の人間ではありません。ですから、この剣は受け取れませ」
「なにを言っておる。オルレイン家の人間はもうレド君しかおらんよ」
「……は?」
ジェフティム陛下の唐突な台詞に、俺は口をぽかんとあけてしまったのだった。




