光属性スキル、覚醒
魔王城の中は、暗く入り組んだ迷路のようになっていた。
……無理だ。この中を闇雲に探し回っている時間はない。
「がああああぁぁぁああああッ!」
この声は、外にいるルナティックの悲鳴だ!
彼女の元に疾駆する。
ルナティックは空を飛ぶ魔族──デビルに攻撃を受けていた。
城を支えながら交戦しているのだ。避けたり防いだりは無理がある。
「【ホーリースピアッ!】」
「ぐぎゃあああ!」
俺が放った光の槍で、デビルは次々と消滅していく。
『スキル【グラビトンショット】を習得しました』
「【グラビトンショット!】」
続けて大きな重力弾を空に向けて撃つ。
重力で城を引っ張れるかと思ったが、さすがにパワーが足りない。
「大丈夫かルナティック!」
「こ、このくらい平気だぞ……でも、稼げる時間は減ってしまったかもな」
ルナティックが負傷したことで城は落下の勢いを取り戻しつつあった。
「慈愛の天使よ、その壮麗たる癒しの旋律で、かの者に祝福を奏でよ──【ナイチンゲール】」
突然、負傷したルナティックを蒼く優しい光が包む。
この回復魔法は。
「リコ!」
「遅くなってごめんレドくん! 【バリアブルフォース!】」
魔王城の周囲を蒼く透明な壁が囲う。
「おおっ! 痛くなくなったぞ! これが噂に聞く聖女の力か、よーしッ!」
蒼い壁ごとルナティックは城を持ち上げた。
城の落下はだいぶ緩やかになったが、それでも完全には止められない。
「「「ギャアアアアア!」」」
魔王城の中から再びデビルたちが大量に湧いて出てくる。
狙いはやはりルナティックだ。
「【フレアバースト】」
「ぎいいやあああああああっ!」
デビルたちは一瞬で黒焦げになり、光の粒子となって消えた。
火炎弾が飛んできた地上を見やると、見知ったお方が杖を持って立っている。
「久しぶりじゃなレド君。元気しとったか?」
「ジェ、ジェフティム陛下! どうして!」
「どうしてって、娘とその騎士様がピンチと聞いたら出向くに決まっとるじゃろ」
元世界最強と謳われた大賢者は、柔和な笑みを浮かべた。
「ルナのサポートはわしに任せてくれ」
「おおっ、ジェフティムじゃないか! 久しぶりだな! 後でケンカしようぜ!」
「嫌じゃよ。それよりよそ見をせんで城を押し返せんのか」
「これ結構重いんだぞ。あと聖王国の近くだと本調子が出せんのだ」
「ふん、魔王のくせに言い訳しおって」
「い、言い訳じゃないぞ!」
彼らはこんなときでも楽しそうに会話をする。
というかジェフティム陛下。ルナティックとお知り合いだったんですね。
「レド君。ここはわしらがなんとか時間を稼ぐ。だから、君には君にしかできないことをやってもらいたい」
地上にいる陛下から真剣な眼差しを向けられ、俺は頷く。
そうだ、リコや陛下が来てくれたからといって、根本的な解決にはなっていない。
考えろ。
制御室を見つけるのは難しい。
光属性のスキルを撃ち込み続けるのも厳しい。
この城ごとどこか別の場所に吹き飛ばせば。
……別の、場所?
「そうだ!」
俺は光の鎖からジャンプして地上に降りる。
ジェフティム陛下が捌ききれなかったデビルが、地上へ降り立ってきていた。
そのうちの一体が、着地の隙をみせた俺に襲いかかってくる。
「しまっ!」
「【ホーリーチェイン!】」
「ぐぎゃあああ」
デビルの攻撃は光の鎖によって中断させられる。
鎖の主は、光の輪で縛られたままの彼女だった。
「おらああッ!」
動けなくなったデビルにウェイナがトドメをさす。
「二人とも助かった!」
「いいってことよ王子様。それよりこの格好、若干動きにくいから元に戻してくれないか」
俺はウェイナに【メイクアップ】を使ってウェイに戻す。
「サンキュー。やっぱこっちのほうがしっくりくるぜッ! 【パーティカルロンド!】」
ウェイは踊るようなチャラい剣技でデビル二体を斬り伏せ、そのまま戦線に戻っていった。
チャラくてもリコの護衛騎士団に選抜されるだけはある。
「私のほうこそ、情けないところを見せてすまなかったな」
エルゼはデビルと戦っている彼らを見やった。
「俺、セイントウェポンズの武器に変えてマジでよかったぜ!」
「私のこの防具もすっごい頑丈で助かってる!」
「回復薬や強化薬も質が大事だな!」
セバス殿、聖王国の騎士たちや冒険者たち、店主たち、リコの護衛騎士たち。
純情乙女喫茶メイクアップの巨漢店長とその仲間たちも、デビルの群れをバッタバッタと薙ぎ倒している。
あの人たち冒険者か騎士に転職したほうがいいんじゃ……
それぞれがそれぞれのやれることをやり、一丸となって戦っていた。
「皆がこうして戦っているのだ。聖王騎士団長として、弱音をはいている場合ではなかったな」
「エルゼ……」
「レド、名残惜しいがこのフォトンバインドを解除してくれないか」
「その前にちゃんと装備して欲しいんだが」
「腕ごと縛られているからウィンドウはひらけないぞ」
「…………」
俺は彼女に背を向けてフォトンバインドを解除した。
「もういいぞ。装備完了だ」
「わかった、俺からも訊きたいことが……って!?」
エルゼは下着姿で剣と盾を持っていた。
より変態性が増している。
「なんだ、しっかり装備したぞ」
「防具を装備しろ防具を!」
「あ、すまん。最強装備ボタンは防具を加味してくれないんだった。忘れていたよ」
エルゼは今度こそきちんと鎧を身に纏い、俺の雇用主は光の消えた目で冷ややかな視線を向けてきた。
「……レドくん。なんかエルゼ殿下と楽しそうにしてるね。私やみんなが頑張ってるのに」
「これ俺のせいじゃないよな!?」
って、そうじゃない。
俺はデビルを【ソードスマッシュ】で撃破しながら叫ぶ。
「この中で【プリズムゲート】ってスキルを使える方はいませんかっ!」
プリズムゲート。
少し前にカネガスが、エンペラースライムを閉じ込めていた光属性魔法だ。
「それなら私が使えるぞレド殿──ふんッ!」
グレイ陛下が、その身の丈ほどもある長剣でデビルを一体、二体と斬り飛ばしながら来てくれた。
「ありがとうございますグレイ陛下! さっそくですが俺をプリズムゲートに閉じ込める感じで使ってください!」
俺が早口でお願いすると、陛下はなぜか首を横に振った。
「ど、どうしてですか陛下!」
「それではどうも乗り気になれん。もっと私にキツく命令する形でよろしく頼む」
「そんなこと言ってる場合じゃないのわかりますよね!?」
でもこの人エルゼの父親だもんな!
この際もう仕方ない。
「わかりましたよ! ……グレイ、俺にプリズムゲートを使えッ!」
「うむ……これこそが私の求めていた感覚」
「いいから使えよーっ!」
俺は友好国の王になにを言わされているのだろうか。
「レド様の御心のままに──【プリズムゲート!】」
宙空にできた光の空間は俺を飲み込む──こともなく、俺に触れた瞬間に跡形もなく消えさる。
『スキル【プリズムゲート】を習得しました』
よし、これで!
「【プリズムゲート!】」
俺は魔王城を覆うイメージを浮かべながら光の空間をつくった。
だが──小さすぎた。
グレイ陛下がつくった空間よりは大きかったが、城を飲み込むことなんてできない。
「クソッ! 駄目か!」
いやまだだ。絶対に諦めない。
この状況を打破できるなにかが、きっとあるはずなんだ!
『EXスキル【強者喰い】より通知。光属性スキルの習得数が九になりました。あとひとつ光属性スキルを習得することで、好きな光属性スキルをひとつ覚醒させることが可能です』
なん、だって?
頭の中に流れたメッセージを噛み砕くより先に、俺は口をひらいていた。
「みんな! 俺に光属性スキルを使ってくれッ!!」
「わかったわ! 【メイクアップ!】」
俺は純情乙女喫茶メイクアップの巨漢店長によって“レドナ”にされた。
他にもホーリーチェインやらホーリースピアやらが飛んできて、俺はそれらを全て弾いたが、そうじゃない。
「違うんだ! すでに俺が習得しているスキルじゃ駄目なんです!」
「あ、あら……ごめんなさい」
「任せろ王子様っ! 【ホーリーチャージ!】」
ウェイが俺に肩から突っ込んでくる。
「昔オレが聖王国の元カノから教わって習得できたスキルだ……大事に使ってくれ」
それだけ言い残して、ウェイは俺に弾かれるように吹き飛んだ。
『スキル【ホーリーチャージ】を習得しました』
「ウェイーーーッ!」
あいつ……無茶しやがって!
吹き飛んだウェイは、聖王国の女性治癒魔法士に治療されていた。
「あなたみたいな可愛らしい女性に治療されるなんて、オレは幸せ者ですよ」
あ、鼻の下伸ばしてる。全然元気そうだ。
『EXスキル【強者喰い】より提案。光属性スキルの習得数が十になりました。好きな光属性スキル名を読み上げることで、スキル覚醒を行うことが可能です』
システム音声の指示に沿って、俺は甲高い声をあげた。
「【プリズムゲート】だ!」
スキル覚醒がどんなものなのかを俺は知らない。
俺が持っている光属性のスキルの中で、この状況を一番打破できそうなものを選んだつもりだ。
『スキル覚醒を開始──完了。【プリズムゲート】は覚醒スキル【天国の大扉】へ変化しました』
「……も、もう、限界、だぞ……!」
「くっ……!」
魔王城を支えてくれていたリコとルナティックも力尽き。
巨大な塊は、急速に落ちてくる。
頼むぞ【強者喰い】
俺だけの人生じゃない。
ここにいるみんなの人生がかかっているんだから。
「【天国の大扉──!!!】」
俺が手をかざした前から──魔王城を超える大きさの光る扉が顕現した。
いつもお読みいただきありがとうございます!
な、なんと自分でも驚いているのですが、初投稿ながらこちらの拙作が日間10位を達成しました!
本当に応援ありがとうございます!
面白い、笑った、無駄に熱かった(?)など楽しんでいただけましたら、
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