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魔王城が落ちてくる

8/30 エルゼのセリフとそれに伴うレドの反応について微修正しました。展開そのものに違いはありません。

 上空から巨大な隕石みたいな黒塊が落ちてきていた。

 

「お、おい! アレなんだよ!」

「知らねえよ!」

「とにかくここから逃げねえと!」

 

 冒険者たちがパニック陥る中、エルゼがつぶやく。

 

「あれは……間違いない。前に見たときより十倍以上大きくなっているが、ルナティックの魔王城だ」

 

「はあ!? なんで魔王城が聖王国に落ちてきているんだ!」

 

「聖王国には光属性魔法を持つ人間が多く住んでいる。私も含め、彼らが無自覚に放出する聖気が聖王国周辺には常に滞留しているんだ。

 白狼をはじめとした一部の魔物以外には、基本的に聖気は毒だからな。目障りなのだろう……」

 

 光魔法で縛ったピスがぐったりしていたことを思いだす。

 

「それはわかったけど、あれをいったいどうすれば」

 

 このままぼーっと突っ立ってたらこの国、いや、あの大きさなら周囲の森や山ごと吹き飛ばし、余波が俺たちの王都に及んだっておかしくない。

 

「無理だ」

「おいエルゼ、なに言って」

「【パニッシュメント・コントラクション】」

 

 エルゼはいまにも落ちてきている魔王城に向かって光の鎖を伸ばす。

 

 だが、鎖は魔王城に近づいた時点で闇に溶けるように消えてしまった。

 

「あの魔王城は光属性魔法を受け付けないんだ。そして聖王国にいる騎士たちが使える最上位スキルは光属性……これ以上は、言わなくてもわかってくれるか」

 

 そう言って、エルゼは俺の肩にもたれかかってくる。

 

「レドには悪いかもしれないが、あの大きさだ。アレが落ちればお前も生きてはいられないだろう」

 

「なに諦めてるんだよエルゼ! 聖王騎士団長だろお前は!」

 

「団長だからってこんなときまで無茶言わないでくれ」

 

 エルゼはなにを考えたのか、ウィンドウを展開して──着ていた装備を解除し下着姿になった!

 

「ちょっ、お前ホントなにしてんの!? 気でも狂ったか!」

 

 なぜにこの状況で脱ぎだす!?

 狂ってるのはいつもだけど!

 

「ひどいなレドは。私もこう見えて女なのだぞ。だから最期くらい、女としての悦びをお前に教えて貰いたいと思うのは変か?」

 

 俺の両肩に手を置いたエルゼは、瞳を潤ませて艶やかな唇をひらく。

 

「私を、ホーリーチェインで縛ってくれ」

 

「とりあえずお前はいますぐ全国の女性に謝れ。【フォトンバインド!】」

 

「ああんっ! 希望どおりじゃないが……イイっ!」

 

 エルゼは恍惚とした表情で石床に倒れ込んだ。


 脱いだ意味がわからない。いや、たぶんフィット感がどうとか言いだすんだろうなぁ……。


 俺はエルゼを理解しかけている自分自身に深いため息をつく。

 

 光の輪で縛ったのは、エルゼを引き剥がす以外に一応下着を隠す意味もあった。

 断じて彼女の変態性を認めたわけではない。

 

 こんな状況だからか誰も見てる人はいなかったけど。

 

 というかいま本当にヤバい状況なんだって! 変態に付き合ってる場合じゃない!

 

 

「ふんっ!」

 

 攻撃力鬼化薬による赤いオーラを纏ったルナティックが、魔王城に向かって跳躍した。

 

「おりゃああああああぁぁぁぁ──ッ!!!」

 

 そのまま両手を前に突き出し、落ちてくる魔王城を受け止める。

 

 だが。

 

「うっ……駄目だ、長くは持ちそうにないぞ! 聖王国の人間ども、いまのうちにできるだけ遠くに逃げるんだッ!!」

 

 魔王とはいえ小柄な体で、彼女は張り裂けそうな声をあげた。

 

 先ほどまでの勢いはないにせよ、魔王城は徐々に落ちてきている。

 

「くそっ! どうすればいい! 【パニッシュメント・コントラクション!】」

 

 俺はエルゼが使った光の鎖魔法を魔王城に向けて放つ。

 

 エルゼのときとは違い、複数の光の鎖は飲み込まれずに魔王城に刺さった。

 

 しかし、ルナティックの力になってやれるほどの効果はないようで、なおも魔王城の落下はとまらない。

 

「それなら!」

 

 刺さった光の鎖の上を高速で駆けて、ルナティックの横に並び立つ。

 

「お、お前っ! 人間のくせにこの城の瘴気に触れても平気なのか!?」

 

 ルナティックが目を丸くした。

 

 正直言われるまで魔王城が瘴気に包まれてるとか微塵も考えなかったけど、エンペラースライムを倒したときにEX(エクストラ)スキル【毒・瘴気完全無効】を習得したからそのおかげだろう。

 

 などと勇敢な魔王様に解説をしている余裕はない。

 

「この城を押し返せるかやってみる! 【竜突風(ドラゴンゲイル)ッ!】」

 

 シェイプシフターを掲げて強烈な風を巻き起こす。

 

 だが、わずかに城の落下速度が落ちただけで、押し返すレベルには至れそうもない。

 

「【ホーリースピア!】」

 

 白狼から習得した光の槍を突き立てた。

 

 やはり城に飲み込まれることなく刺さりはする。でも刺さるだけ。

 

 いっそのこと城を【永止黒炎(エターナルイグニート)】で石化させて……

 

 いや駄目だ。この状況で使ったこともないスキルを使うのは危険すぎる。

 城が石化したとき今以上に重くなる可能性もあるし。

 

「ルナティック! 魔王城の弱点があれば教えてくれ!」

 

「ひ、光属性だ! 一見吸収しているように見えるが、あれは一旦城の内部に聖気を溜め込んで徐々に消化しているだけなのだ!

 消化が間に合わなければ内部崩壊するぞ!」

 

 光が弱点なのか。

 

 ただこれだけの大きさの城だ。

 内部崩壊させるにしたって相当な光属性スキルを撃ち込む必要があるだろう。

 

「それかこの城のどこかに制御室があるはずだ! そこを押さえれば浮上させて落下を止められる! 

 だがすまん、わたしがロイゲンの誕生日にこの城をプレゼントしたときは、ここまで大きくはなかったのだ。制御室がどこにあるかまではわからない」

 

 誕生日に魔王城をプレゼントとか、魔王の考えることはよくわからんな。

 

「ロイゲンってやつは」

「ピスと組んで聖王国を潰そうとしてるやつだ。たぶんそいつがこの城を」

 

「そうペラペラと喋られては困りますなぁ、魔王ルナティック様」

 

 落下中の魔王城の扉がひらき、一つ目の男……かどうかは魔族だしわからんけど……が姿を表す。少なくとも声は男だ。

 

「ロ、ロイゲン! こんなバカなことをさせるのに城をあげたわけじゃないぞ!」


「バカはあなたですよルナティック様……いえ、ルナティック。魔王でありながら人間とはただケンカをするだけなど、意味がわかりません。

 それにいまこうして魔族の敵である聖王国を庇っている。あなたはもはや反逆者です」

 

「反逆者とか知るか! わたしの人生はわたしが決める! お前は今すぐこれを止めるのだッ!」

 

「なら、その言い分に従ってワタシもワタシの人生を決めましょう。【アシッドポイズン】」

 

「させるかっ!」

 

 俺はホーリーチェインの上で跳躍し、ルナティックに飛んできたアシッドポイズンを体で受けた。そのまま別の光る鎖の上に着地。

 

「なッ! 人間風情がどうしてワタシのスキルを無傷で受けられる!」

 

 ロイゲンは一つしかない目を大きく見ひらく。

 

 その反応を待っていた。

 

 隙だらけに見ひらかれたロイゲンのでかい目玉をじっと見つめる。

 

 もはや禁止スキルとか言っている場合ではない。

 

「【チャーム!】」

「ぬおぅっ!?」


 よし、確実にロイゲンを捉えた。

 

 スキルウィンドウに書いてあったチャームの説明文はこれだ。


 ーーーーーーーーーー

 魔力を消費し、目が合った対象を魅了して骨抜きにする。効果時間は十五分。

 ーーーーーーーーーー


 スキルウィンドウはアバウトだがウソはつかない。

 男には絶対に使いたくない説明文。

 

 だがいまは俺個人の意見など気にしていられる状況じゃない。

 

 こいつで魔王城の制御室の場所をロイゲンから訊きだす。


「ロイゲン! 魔王城の制御室の場所を教えろ!」

 

 俺は【チャーム】のかかったロイゲンに接近した。

 

 こんなバカでかい城の制御室を無作為に探していては、見つけるよりも先に城が聖王国に落ちてしまう。

 

「な、」

「な?」

「なんて魅力的な男なんだ貴様はあああぁぁぁあああッ!」

 

 ロイゲンは俺に抱きつこうとしてきた。

 

 もちろん身を捻って躱す。

 

「あ、あとでいくらでも抱きついていいから制御室の場所を教えてくれっ!」

 

「【グラビトンショット!】」

 

「ちょっ!」

 

 ロイゲンの手から放たれた重力弾をすんでのところで避けた。

 

 こいつ、俺にスキルを撃ってきたぞ!

 魅了されてるんじゃないのか!

 

「ワタシはお前を愛している! お前を殺したいほどにな!」

 

「くそっ、そういう性癖の持ち主だったか!」

 

 これだとロイゲンから制御室の場所は訊きだせそうにないぞ。

 

「【ホーリーチェイン!】」

「ぐおおおおお好きだあああああああ殺すううううううっ!」

 

 とりあえず万能変態鎖魔法でロイゲンを縛り、魔王城の中を覗いてみることにした。

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