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力になってやりたい

 武器と防具と回復薬・強化薬をいただいたお店を宣伝するべく、俺はさっそくリコにちょっとした頼み事をしにいった。

 

 俺のクソダサい剣技で白金ドラゴンが真っ二つになる瞬間を【ムービー】でミリスに見せて欲しかったのだ。前は恥ずかしかったが、いまはもう慣れてしまっている。

 

 リコは“ちゃんと休んでくれるんだよね”と言いたげなジト目を向けてきたが、忙しかったのか素直に聞いてくれた。

 

 やりたいことをやりたいようにやることは、休むことだと俺は思う。

 

 これで準備は整った。

 

 

「おいレド、ちょっと待て」

「どうしたウェイナ」

「どうしたウェイナ、じゃねえよ! なんでナチュラルにオレに【メイクアップ】したんだッ!」

 

 ウェイナは艶やかな茶髪のツインテールを振り乱して叫んだ。

 

「ウェイには道具屋で主に回復薬を宣伝してもらいたいんだ。回復薬の購買層は主に男性だし、だったらその姿のほうがウケがいい」

 

「くっ、言ってることが合ってるせいで否定できねぇ……! けどそれを言うなら武器屋も防具屋も男客がメインだろうが! お前もレドナになりやがれ!」

 

「俺は闘技場でエルゼとジークと戦ってそれなりに有名なんだ。レドナになったらその宣伝効果が使えなくなる」


「理屈はわかるけどよ……」


「頼むよウェイ。お前にしかできないことなんだ」


「……あーもうわかったよ! その代わりめっちゃ可愛い女の子紹介しろよな! もちろん【メイクアップ】なしの!」

 

 騒ぎ立てながら三人で店に向かう。

 

 

 武器屋“セイントウェポンズ”

 防具屋“絶対死守”

 道具屋“ホーリー商店”

 

 この三店はひとつの家屋で営業されている。

 どの店も売り物が違うから客を取り合うこともない。

 

「お久しぶりです皆さん!」

 

「おお、これはレド様。どうでしょうか、可変杖(かへんじょう)シェイプシフターの使い心地は」


「語ると長くなりそうなので手短に伝えさせていただくと、控えめに言って最高です」

 

 俺はシェイプシフターに魔力を込めて剣の形へと変えてみせた。

 

「んんっ? レド様、ちょっと失礼」

 

 するとセイントウェポンの店主──バザックさんが眉間に皺を寄せながら、シェイプシフターの剣身を観察し始めた。

 

「……間違いない。シェイプシフターにはこのような魔法紋はなかった。いや、そもそもこれは魔法紋なのか」

 

「どういうことですかバザックさん」

 

「レド様、シェイプシフターをどなたかに手入れしてもらいましたか」

 

 俺が首を横に振ったのを見て、バザックさんは難しそうな顔をつくる。

 

「私がレド様に渡したときは、このような紋は刻まれていなかったんですよ……グモール、ちょっと見てくれんか」

 

 バザックさんに呼ばれて、絶対死守の店主であるグモールさんも剣身を見やり首をひねった。

 

「こんな紋を見るのは俺も初めてだ……もしかしてアサシンズローブも同じことになってんじゃねえか」

 

 俺の纏っている黒衣を見やったグモールさんは目を細める。

 

「やはりな。敏捷性と属性攻撃を軽減する魔法紋が、別の紋に書き変わってやがる」

 

 バザックさんとグモールさんは互いに顔を見合わせた。

 

「実は、レド様に差し上げた二つの装備は、相応しい者が現れたときに渡してやれと、私たちの師匠から譲り受けた物なんですよ」

「ああ、だから師匠に訊けば、魔法紋が書き変わった理由もなにかわかるかもしれねえ」

 

 グモールさんは店のカウンター奥に引っ込んだ。

 

 彼らの話をまとめると、俺が装備をしたことで魔法紋が書き変わってしまったのか、はたまた別のなにかがあるのか。

 

 カウンター奥に引っ込んだグモールさんが、一枚の羊皮紙を持ってくる。

 

「これは師匠への紹介状だ。こいつを師匠に見せれば、レド様の話も聞いてくれるはずだ」

 

 紹介状をアイテムウィンドウにしまう。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 鍛治士クロウズへの紹介状 × 1

 

 ーーーーーーーーーー

 

 その名を見て、俺は目を疑った。

 

「えっ!? この鍛治士のクロウズって、かつて存在した大英雄の装備をつくっていたというあの伝説の鍛治士クロウズ・アイアンですか!?」

 

 俺が驚いて訊くと、二人はうんうんと頷く。

 

 クロウズ・アイアンと言えば、剣を志す者ならいざしらず、前線で戦う人でその名を知らぬ者はいない超有名鍛治士じゃないか。

 

 まさか彼の装備を使っていただなんて……一生分の運を使い果たしたかもしれない。

 

「ク、クロウズさんは、いまどちらにいらっしゃるんですか」

 

「その反応だと知ってると思うが、師匠は特定の店を構えねえからなぁ」


「いろんな国や街を渡り歩いては、その場その場で武器や防具をつくって絶賛されていると風の噂で聞いています。もう私たちも五年以上連絡をとれていません」

 

 まぁ、もし奇跡的に会えたらその紹介状を渡して見てもらうといい。

 そう言ってグモールさんとバザックさんは笑った。

 

「ところでレド様、今日はべっぴんさんを二人も連れてこんなところに何しにきたんだ。デートスポットにしちゃあここは色気がなさすぎるぞ」

 

「もしかして、リコリス殿下がいながら浮気ですか?」

 

 道具屋ホーリー商店の若い女店主──パーラさんがにやにやしながら会話に入ってくる。

 

「お、俺とリコはそういう関係じゃないですし、そもそもデートじゃないですから」

 

 コホンと咳払いをして、おかしな会話の流れを断ち切る。

 

「こんな素敵な装備やアイテムを貰って、しかも紹介状まで……さすがになにも返さないわけにはいきません。

 だから今日は、皆さんの店の宣伝をさせてもらいにきました!」

 

 俺が元気よく発言すると、三人の店主は目を丸くした。


「いいんですか、もちろんレド様に宣伝いただけるのはありがたいのですが」

 

「いいやバザック、ここはレド様のお力を借りる場面だと俺は思う」

 

「そうねぇ……レド様たちが力を貸してくれたら、なんとかなるかもしれないし」

 

 三人は深刻な表情を見せている。

 

「なにかあったんですか?」

「アレだよ」

 

 グモールさんが向かいの大きな店を指さす。

 

「最近できた量販店でな。宣伝ばかりに金をかけて粗悪品が多い店なんだが、いかんせんとにかく値段が安い」

 

「おかげで私たちのお客も結構な数が流れてしまいまして……」

 

 なるほど、それは確かに大きな問題だ。

 

 それに武器や防具、アイテムは購入者の命に関わる物である。

 宣伝に金を使うのが悪だとは思わないが、粗悪品とわかっていて売るというのも個人的には賛同しかねていた。

 

「安心してください。俺たちがお店を盛り立ててみせます!」

 

 さっきの話を聞いていたからか、俺の言葉にウェイナとミリスも力強く頷いてくれる。

 

 こうして俺たちによる顧客奪還作戦が幕をあけるのだった。

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