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もらった恩は必ず返す

 ルナティック魔王軍との作戦会議が終わった。

 作戦決行の日は一週間後の朝だ。

 

 相手は七大魔王軍に数えられるだけあって、さすがに準備を整えないと聖王国も厳しいらしい。

 

 魔王城の場所については魔王四天王の一人、ピスに聞きだすことになった。

 

 そんな簡単に教えてくれるものかと思ったが、俺がエンペラースライムのスキル【アシッドポイズン】をチラつかせると首をぶんぶん縦に振りだした。四天王の一人がビビり散らすスキルとか……またこれも禁止スキル行きかな。

 

 ピスの話によれば、魔王ルナティックの城は移動するらしく、特定の場所に滞在しているわけではないらしい。


「こいつは決戦の日まで拘束しておく」

 と、エルゼが対魔物に特化した専用の拘束具を、羨ましそうにピスに取り付けていたのが無駄に印象に残ってしまっている。

 

 

 ひとまず、あの場でやることがなくなった俺たちは、グレイ陛下が貸し切ってくれている宿屋に戻ってきていた。

 

「なぁリコ、魔王軍と戦うって話、本当によかったのか」

 

「聖王国はクレインベルグにも良くしてもらってるからね。ここで恩を売っておくのは私たちの国民にとっても損はないと思うけど」

 

「そういう打算的な話じゃなくて……リコを危険な目に遭わせるかもしれないだろ」

 

「それはレドくんが守ってくれるでしょ?」

 

 リコは目を細めて柔らかく笑う。

 

 そんな顔で見つめられたら、頷くくらいしかできないじゃないか。

 

「それじゃあ、私はお父様や近隣の街に兵の増員を頼んでみるから、レドくんはちゃんと休んでおいてね」

 

「いや、俺もなにか手伝いたいんだが」

 

「私の騎士様は休むことがお仕事です。レドくん、昨日だってちゃんと寝てないし」

 

「それは、そうだけど」

 

 故意ではないとはいえ寝れてない原因は夜遊びだ。

 

 確かに疲労は溜まっていたが、みんなが準備に励んでいるなか、俺だけのうのうと休むというのは気が引ける。それに一週間もあるのなら休むのはいまじゃなくてもいい。

 

「あ、いま俺だけ休むなんて悪い、とか考えてたでしょ」

 

「な、なぜそれを……」

 

「それくらいはわかるよ。私とレドくんの仲だもん」

 

 そう言ってリコは目の前まで迫ってきた。

 透き通る蒼い瞳に吸い込まれそうになる。

 

 否応なしに鼓動が速くなっていくところ、リコはビッと人差し指を立ててきた。

 

「いい、レドくん。治癒魔法は万能じゃないんだよ。睡眠不足と食べ過ぎの二つは、治癒魔法や回復薬でも治せません。

 だから今日、レドくんはお休みの日です。一応言っておくけどこれは命令だから」

 

「わ、わかったよ」

 

 

 

 

 ということで。

 

 リコは自分の部屋に戻って、伝書鳩を何匹も召喚し「お父様や近隣の街に兵の増員を頼んでみる」と羊皮紙にペンを走らせている。

 

「レド様、お加減はいかがですか?」

「気持ちいいよ。ありがとう」

 

 自分の仕える聖女様に「休め」と言われた俺は、二階の踊り場にある椅子に深く腰掛け、元専属メイドのミリスに肩を揉んでもらっていた。

 

 休みながらでもなにかできることはないか考えていると。

 

 

「……いいご身分だな、レド」

 

 顔をボコボコに腫らしたウェイが現れた。

 

 そういやセバス殿にお仕置きされてたっけ。

 

「今回はまた随分と派手にやられたな……あ、そうだ!」

 

 俺はアイテムウィンドウをひらいてあるものを取りだした。

 

 道具屋ホーリー商店の女店主にもらった“フルライブポーション”である。

 

「ウェイ、ちょっとこれを飲んでみてくれ」

 

「えっ、これ回復薬か、しかもかなり高そうなんだが」

 

「いいから気にせず少し飲んでみろって」

 

 確かに顔は痛いけどこんなの飲むレベルじゃないぞ、と言いつつ、ウェイはフルライブポーションを少しだけ飲んでみる。

 

 するとたちまち顔の腫れが引いていき、元のイケメンフェイスを取り戻した。

 

「うおっ! なんだこりゃすげえっ! こんな回復薬俺らの王都にもないぞ!」

 

「そうなのか」

 

「ああっ! まず即効性が半端じゃない! その辺に出回ってる回復薬じゃここまでの回復スピードはねえ。

 あと見ろこの傷の治り方。普通の回復薬はこんな綺麗に治るもんじゃない。多少はどこか傷や腫れが治ったとわかる跡が残るもんだ」

 

 ウェイは踊り場にある鏡を見ながら力説する。

 

「まさか姫殿下の治癒魔法と肩を並べる回復薬がこの世にあるなんてな……。

 それとさっき飲んだ量もポイントだ! オレはほんのちょっと口をつけただけだが、それで完治した。

 値段にもよるが、この量の使い方ならかなりコスパもいいと思う」

 

「なんでそんな回復薬に詳しいんだ」

 

「姫殿下護衛隊に入ってセバス殿に目をつけられてから、いろいろと回復薬を飲み比べしたんだよ。そこらの薬士より詳しい自信あるぜ」

 

 白い歯を見せて自慢げに胸を張るウェイ。

 

 どれだけ怒られてるんだコイツは。

 しかも全然懲りてないっぽいし。

 

 ……それはともかく、これで俺にもやれることができたぞ!

 

「ミリス、さっきウェイの顔が回復したところは見てたか?」

 

「ええ、見てましたけど」

 

「ミリスは【ムービー】が使えるよな。よかったらちょっと手伝ってくれないか」

 

 彼女はこくりと頷く。

 スキル【ムービー】は、自分の見た光景を映像としてウィンドウに流せるスキルだ。

 

「ウェイも暇なら力を貸してくれ」

 

「お前には言いたいこともいろいろあるが……回復薬の礼もあるしな。いいけど、なにをするんだ」

 

 俺は口の端をつりあげる。

 

 全身漆黒の服装も相まって、魔王の幹部にでも見えるかもしれない。

 

「武器屋“セイントウェポンズ”に、防具屋“絶対死守”に、道具屋“ホーリー商店”」

 

 可変杖(かへんじょう)シェイプシフターを掲げ、魔軽装アサシンズローブをはためかせ、フルライブポーションの入った瓶を持ち上げてみせた。

 

「へぇ〜、知ってるのかレド。さっきお前が言った店ぜんぶな、聖王国でも知る人ぞ知る名店だぜ。

 ……ってまさか、お前のいまの装備に、さっきオレが飲んだ回復薬って」

 

 

「そのとおりだ。これから俺たちで、その三店の宣伝活動を行う!」


 どうせしばらくは他にやれることもないのだ。


 待っていてください皆さん。


 リコリス殿下に誓ってこのレド。必ずやお役目を果たしてみせます!

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