父アルヴァンとの再会
街の中でリコとラフィン(本当は巨乳じゃない)と美人(本当は巨漢)と話していると、弟のジーク(会いたくなかった)に見つかった。
「昨日はよくもぶっ飛ばしてくれたなァ。……覚悟しろ」
ジークは背負った長剣を俺に差し向け、周囲の人々が悲鳴をあげる。
さすがに街中で【竜突風】を使うわけにはいかない。
「みなさん下がっていてください。リコ、なにかあったらみんなに回復を頼む」
「わかったけど、レドくんは」
「俺がケガしたときは後で治してくれ」
リコは頷くと、みんなを連れて俺から距離をとってくれる。
「おおっ! そこにいるのはレドじゃないか!」
「親父!?」
ジークが振り返った先に──父上がいた。
ずっと優しかった、そうだと思っていた父上に、血を吐くほど蹴られ続けた記憶。
そのことを俺はまだ許せそうにない。
「探したぞレド。お前に話がある」
「あなたと話すことなんて、俺にはもうない」
「そう怖い顔するな。お前は私の息子なのだから」
俺の気持ちに気づくこともなく近づいてくる父上の前に、リコが立ち塞がる。
「帰ってくださいアルヴァン伯爵」
「り、リコリス殿下っ!?」
彼女の背中が、とても暖かく、大きく見えた。
「で、殿下……すみませんが、息子と二人で少し話をさせてくれませんか」
「……息子、ですって?」
リコを纏っている空気が変わる。
そして。
「レドくんのことをちゃんと見ようともしないで追放したあなたに、親を語る資格なんてない──ッ!」
彼女の激昂に、父上は慄いていた。
それは俺も同じだ。
リコがこんなにも怒っているところを見たことがない。
「で、殿下、落ち着いてください! じ、実はそのことでレドに大事な話が」
「大事な話なら私にもあるんですよ」
震える父上の肩に、一人の男が手を置いた。
あの人、闘技場で司会をしてた人だ。
「あなた、アルヴァン・オルレイン伯爵ですよね」
「そ、そうだが。あなたはいったい」
「名乗るほどのものじゃありません。私は、まぁグレイ陛下の使いみたいなものでして、そこにいらっしゃるあなたの息子、ジーク・オルレイン殿がですね〜」
司会の男は写真を取りだして父上に見せる。
「うちの闘技場をこんな風にしちゃいまして、しかも招待していないのに乱入して」
「なっ……! おのれジークッ!」
「あん? んなもん気にすんなよ。どうせ金なら後でいくらでも入るんだ」
ジークの言葉に俺は頭が痛くなった。
父上も同じだったようで、こめかみに血管を浮かび上がらせている。
「そういう問題ではない! 聖王国は我々の国の友好国。そこの闘技場を乱入して破壊したなどと」
「話が早くて助かります。というわけで……この者を連れていけ」
「レドおおおおおおぉぉぉぉ! 私を助けっ、私の話を聞いてくれええええぇぇぇえ!」
父上は司会の男が率いていた聖王騎士たちに連れていかれた。
「レドくん、大丈夫……ってごめん、大丈夫なはず、ないよね……」
駆け寄ってきたリコは治癒魔法をかけてくれる。
頭の痛みが引いていった。
「……リコが謝ることなんてなにもないぞ。俺のほうこそ、情けないところを見せてすまない」
「情けないなんて思わないよ。……やっぱり、レドくんがボロボロで歩いてたの、アルヴァン伯爵のせいなんでしょ」
彼女はぎりりと歯を食いしばる。
怒ってくれるのは嬉しい。
だけど。
「……えっ?」
気づけば俺は、リコを抱きしめていた。
「リコがいてくれて本当に助かった、ありがとう」
素直な気持ちを伝えてからゆっくり身体を離す。
リコは顔を赤らめながら、いつもの気の抜ける笑顔を見せてくれた。
うん、やっぱり笑っているほうが彼女はずっと魅力的だ。
「……クソ親父もリコリスも、どいつもこいつもレドレドレドって!」
ジークが石床を踏みつけて亀裂を入れた。
床の破片が高く巻き上がり、付近にいた住民に飛んでいく。
まずいッ!
「【ソードスマッシュ!】」
漆黒の杖シェイプシフターを剣に変えて、破片を細かく砕いていく。
アサシンズローブのおかげか体が異様に軽いぞ。
俺はまるで矢のように空中を飛び交い、そうして全ての破片を砕き落とした。
「レド様! ありがとうございます!」
「助かったよ!」
「いえ、これくらいは当然です。今のうちにここを離れてください」
感謝の言葉を伝えてくれた住民たちに避難を促す。
謙遜で言っているわけじゃない。
ジークの狙いは俺であり、この被害も間接的な責任は俺にあると思っていた。
「おいジーク。お前の狙いは俺なんだろ」
「だったらなんだってんだッ!」
襲いかかってきた長剣を、軽く跳躍して躱す。
「ついてこい」
俺は街の外に向かって駆けだした。
ジークは許せないことをしたが、ここで戦っては俺もヤツと同じになってしまう。
戦うんじゃなく、アイツを確実に聖王国から引き剥がす。
そのつもりだったんだが。
「……あれ?」
国の外にでてから振り返ると、ジークの姿は見えなくなっていた。
「これってもしかして、まいちゃったんじゃ」
この展開は予想していなかった。
まいてしまっては逃げた意味がない。
急いでもと来た道を引き返す。
ちょうど半分くらい引き返したところでジークを発見した。
おいおいどうなってんだアサシンズローブ。
剣聖を置いてけぼりにしちゃうなんて……こんなの絶対宣伝しなきゃ。
ジークは辺りをきょろきょろと見回している。
どうしよう……
またワザと見つかって逃げるにしても、後ろを気にしながら逃げなければならないし、ゆっくり走りすぎてジークの間合いにうっかり入ってしまえば、アイツの攻撃がまた街を破壊するかもしれない。
「……アレを使うしかないか」
これも聖王国のためだ。
リコの専属騎士見習いとして、俺は成すべきことを成す。
「【メイクアップ!】」
俺、レドは“レドナ”にフォームチェンジした。




