第一章10話 ???? 決闘式②
何が起きているのか。
なぜキングガリルの部下たちは、姫の部下へと襲いかかったのか。
種明かしをすると、こうだ。
結婚式の直前。
僕はガリルメイジに「余興の準備をさせる」と告げ、姫側の部下には「楽しみにしてほしいから」と理由をつけ、人払いをした。
その後――
キングガリルの部下だけを集結させ、こう宣言したのである。
「この式の真の目的は、キングと姫、どちらの軍団が真の至強なのかを決める『決闘式』である!!
キングガリルの名に泥を塗るような真似はしてくれるな!
開戦とともに、完膚なきまで叩きのめせ!!」
最初こそ、部下たちは動揺していた。
しかし、それも束の間。
次第に興奮が伝播し、やがて歓声が上がった。
なぜ彼らは、疑問を抱くことなくキングガリルの言葉を信じたのか。
今一度、ガリル種の特徴を思い出してほしい。
ガリル種は、とにかく戦いを至上とする種族である。
知能が高い上位種へと進化した姫たちですら、好んで戦場へ赴くバトルジャンキーだ。
ましてや、キングガリルの部下たちは戦場で戦うために鍛え抜かれた肉体を持つ。
戦場慣れしており、何より戦うことが大好きなのである。
そして決定打は――
彼らは、その武力とは裏腹に、知能が極めて低い。
中にはガリルファイター、ガリルナイトへ進化した者もいるが、
ガリルメイジと比べれば知能は数段劣る。
下等種に至っては、「結婚式」という概念そのものを理解していない者すらいる。
これだけ条件が揃えば、あとは――
王自らが「戦う理由」を与えるだけでいい。
忠誠心の高いキングガリルの部下たちは、信じるしかないのだ。
こうして、姫の部下とキングガリルの部下による同士討ちは成功した。
ただし、この作戦には一つ問題がある。
(この作戦は、部下たちの信用を保つためにも、絶対的な王者である「キングガリル」が発言し、
王自ら戦場の先頭に立つ必要がある。
だから『完全顕現』を解いて戦うことはできない)
つまり――
「キングガリル」で勝利することが条件だ。
もし完全顕現を解けば、部下たちは偽の王に騙されたと気付き、
たちまちこちらへ牙を剥くだろう。
「我らがキングに勝利を!!!」
開戦の合図とともに、キングガリルの部下たちは一斉に姫の部下へ襲いかかり、蹴散らしていく。
状況を把握できていない姫の部下たちは、
臨戦態勢を整える間もなく、その数を減らしていった。
やがて数的不利が覆った頃、ようやく姫側も反撃を開始する。
「な、な、な……何をしているのですか、王よ!!
結婚式は?! なぜ我々が戦う必要があるのですか!!」
ガリルメイジが慌てふためきながら叫ぶ。
「何って?
……気に食わないからだよ。お前らの存在、全部な。
大体、あんなブスと誰が結婚するか!」
「なっ……そんな……」
ガラガラッ――
「誰が……誰がブスですって……?」
瓦礫を押しのけ、先ほど吹き飛ばした姫が、ゆっくりと立ち上がった。
「この超絶美少女に向かってブスなんて……
コロス……コロスコロスコロスゥ!!」
全身の毛を逆立て、ぶつぶつと詠唱を始める。
「お前は魔法に滅法弱いってことは知ってるのよ!
消し炭になりなさい!」
怒りに満ちた掌をこちらへ向けると、
直径五メートルほどの巨大な火球が放たれた。
(流石だ。この軍団を束ねているだけあって強い……でも)
迫り来る火球を前に、一歩も退かず重心を落とす。
拳を引き、「衝撃波」を纏わせ、正面から殴りつけた。
火球は霧散し、火花が宙に散る。
「まだまだだね」
(火球が届く前に衝撃波を壁にすれば、魔法だって怖くない)
得意の魔法を打ち消され、姫は一瞬、思考が止まったようだった。
「なにアホ面かましてんの?」
「猪突猛進」で一気に距離を詰め、膝蹴りを顔面に叩き込む。
「グハァッ!」
怯んだ隙を逃さず、腹、肩、顔――
容赦なくラッシュを浴びせる。
「姫から離れろ!」
姫の側近が威嚇射撃の魔法を放ってくる。
魔法は脅威だ。距離を取る。
「ハァッ……ハァッ……なに、こいつ……ムカつく!!
メイジ! 私に力を貸しなさい!」
「ハッ!」
ガリルメイジが詠唱し、姫にバフをかける。
「僕が黙って見過ごすわけ……あぶな!」
詰め寄ろうとした瞬間、側近たちが魔法や矢で牽制してくる。
「近付けさせるな!
遠距離から攻撃しろ! 奴は接近戦しかできぬ!」
「……それ、誰が決めた?」
「王者の覇気」を解放し、敵を恐慌状態に陥れる。
拾った小石を指で弾くと、弾丸のように飛び、側近の頭を吹き飛ばした。
震え上がった側近たちは、再度の「王者の覇気」で逃げ出していく。
「貴様ら! 背を向けるとは情けないぞ!」
「……後で処刑ね。でも準備は整ったわ」
姫を見ると、全身が岩の鎧で覆われていた。
「この鎧は魔法でできているの。
魔法能力の低い貴方には壊せないわ。それに――」
「グフッ……」
姫が消え、背後から衝撃が走る。
「速度強化の魔法も使っているのよ」
右、左、背後――
消えては殴り、消えては殴る。
「遅い遅い。このまま嬲り殺してあげる」
正面から拳が迫る。
(避けられない……なら!)
「グォォォォー!!!」
地面を踏み砕き、揺れで姫が一瞬止まる。
その隙に「猪突猛進」。
「知ってるわよ!
その能力は直線しか速くならない――」
直角に方向転換し、再発動。
「なっ……!?」
右へ、左へ、ジグザグに追尾し距離を詰める。
「直線距離に制限はない。
数メートルでも、数センチでも直線は直線だ」
殴りかかる。
「鎧は壊せない……なのに、動けない!?」
「いいこと教えてあげる。
『衝撃波』は、ダメージ量と怯み確率は無関係なんだ」
背後からホールドする。
「能力の限界を勝手に決めたのは君だ」
「ずるい!!」
「ずるじゃない」
膝を曲げ、力を溜める。
「『猪突猛進』は――真・上・にも有効だ」
天井近くまで跳び上がり、重力に従い落下。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
ドッカーーーーン!!!
地面に深い亀裂が走り、
その中心には、頭から突き刺さった姫の姿があった。




