35-2.あんなモノまで“印刷”できる! ――プラモデルから未来まで
前項では、3Dプリンタの原理について語らせていただきました。
本項では、3Dプリンタの秘めている可能性、これに考察を巡らせていきます。
ここで、ちょっとだけ道草を。ですが大事なお話です。
これは型に素材を流し込んで作る、いわゆる射出成形の技術です。要はプラモデルの成形の話と考えていただいて結構です。
多色成形技術(※1)というものが存在します。
ただの色分けでしょ? ――などと侮っていられる段階ではありません。
『機動戦士ガンダム』シリーズのプラモデル、いわゆる『ガンプラ』で知られるバンダイ(バンダイナムコホールディングス)は、プラモデル成形技術ではもはや押しも押されぬ最先端企業となっています。
この多色成形技術を活かして実現するのは、例えば塗装しなくても見栄えのする胸像プラモデル(※2)がありますが。
実はこの技術、ここで終わらないのがいいところ。
人型ロボットのプラモデル――あるいは玩具でも構いませんが――を触ったことのある方ならば、まずもって抱いたであろう夢があるはずです。
すなわち――指を自由に動かしたい! というもの。
20世紀のロボット・プラモデル、手と言えばまずもってカタマリみたいな握り拳に穴が空けてある――それがせいぜいでした。よくても2分割、銃やサーベルを挟みこむのが関の山。自由に可動する指パーツはあっても、その関節に応じたパーツ数に悲鳴を上げた方もおいでではないかと思います。
そう、成形と組み立ては完全な別工程でした。理由は簡単、成型の段階では材料が溶融していて混ざり合ってしまうからです。それが常識でした――これまでは。
そう、多色成形技術の進化が行き着く果て――生まれた成果として紹介するに、これほど相応しい例はないでしょう。
その成果というのが、“組み立てなくても五本指が自在に可動する手パーツ”というもの(※3)。これ、実際に画像をその眼でご覧いただくと、ものすごさが伝わるものと思いますが。
手指の関節は、ちょっと数えてみただけでも実に15を数えます。これが実に“1パーツとして再現されている”のです。切り出すだけで手指が自在に動かせるという一つの夢が、ここに実現しているのです。
これが意味するところは――接着するもしないも自由自在、“成形と組み立てが一度に行える”、その可能性です。
さて、ここで話を3Dプリンタに戻します。
では、3Dプリンタのどこが違うのかと言って。
弱点は成形速度くらいのもので、自由度では格段に3Dプリンタが勝ります。
先ほど申し上げたように、もはや成形(“印刷”)と組み立ては一度に行えます。つまり複雑で自由自在に可動するロボットも、3Dプリンタで“印刷”が可能なのです。
それだけでは終わりません。
先ほどご紹介した多色成形技術のどこが見どころかと言えば。
“色違いのプラスティック”を“別素材”に置き換えて考えてみると、見えてくる景色が激変するというところです。
2Dプリンタではノズルを複数並べ、多色インクで複雑な色合いを再現する、これはもはや常識の域にある手法ですが。
ではこのノズル群、インクの代わりに全く異なる素材を割り当てたとしたら――?
家を3Dプリンタで“印刷”することも、もはや不可能ではありません(※4)(※5)。
これは“異種素材を、同時並行で、立体空間上に配置していく工程”に他なりません。骨組みとそれを覆う断熱材や壁材を同時に“印刷”していくのです。
言葉を代えれば、構造材の生成・加工と組み立てを同時に行う――そういうことになります。
これのどこがすごいかと言って、“あるべき位置に部品を生成・配置できる”ところがその真骨頂。
これはボトルシップ(※6)を空間上に“印刷”してしまうにも等しい――といえばそのすごさが伝わるでしょうか。どんなに組み立ての難度が高かろうとも、“あらゆる部品を、あるべき位置に“印刷”してしまう”のです。
言い方を工夫するなら、こういうことです。
完成品を構成する部品も素材も、原子レヴェルまで細分化して見るなら粒子の集合体、その立体的配置に過ぎません。
ならば、あるべき粒子をあるべき位置へ配置していけば――?
3Dプリンタの思想が優れているのは、この部分にあります。
じゃ、その粒子とやらはどこまで細かくできるのよ? ――というところに興味が湧いては来ませんか?
精密金属部品を3Dプリンタで“印刷”する実例(※7)があります。ここで紹介されているGE(General Electric)社の実例では、ジェット・エンジンの中核部品すら“印刷”してしまっています。それどこれか、もはや3Dプリンタでなければ成形できない形状の部品さえあるといいます。例えば削って加工しようにも刃さえ届かない入り組んだ形状であったり、あるいは加工しようとしても複雑過ぎる形状であったりとかですね。こういう代物も現実空間上に“印刷”していけばいい、という発想ですね。
よって。
骨格部品――得意分野ですね。どんなに硬くて削りづらい素材であろうとも、“印刷”してしまえば完成形は意のままです。
動力機関――これももはや“印刷”可能です。事実、GE社ではジェット・エンジンの部品を“印刷”しているくらいですから。
複雑に入り組んだ三次元電子回路――はっきり申し上げて射程距離内です。
――何を申し上げたいのかと言えば。
3Dプリンタの秘めた潜在能力は、ロボットそのものですら“印刷”し得る――その可能性です。
家でさえ“印刷”できる3Dプリンタの可能性は、巨大ロボットをも射程に捉えていると申し上げて過言ではありますまい。
ですが、私が提示したい可能性はむしろ逆方向にあります。
マイクロマシン、ナノマシン――そういう方向性です。限りなく微細なロボットを“印刷”で作り上げるのです。
細かすぎて削り出すこともできない形状・素材であろうとも、3Dプリンタは空中に生成・配置してのけます。
従来の加工法のどこがネックになるかと言って、それは加工のために力や熱を加えなければならない点にあります。微細な形状や柔らかい素材は、力や熱を加えることで変形してしまうわけですね。変形で済めばまだいいところ、耐え切れずに壊れてしまうほどに細かったり脆かったりしたら――従来の加工法の限界は、ここを超えられないところにあります。
突き詰めた話、完成品の“原子や分子を空中に配置していく”というのが3Dプリンタの思想というわけです。
マイクロマシンやナノマシンが何の役に立つかと言って。
『∀ガンダム』(富野由悠季監督)では自在に組み合わさり、周囲へいかなる影響をも及ぼす夢の(悪夢の)技術として描かれていましたが。まああれはちょっと行き過ぎでしょうけれども。
例えば『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』では、脳細胞に接触して自在に信号をやり取りする電脳化(“ハード・ワイアド”)の手段として使われています。
極限まで小型化されたロボットは、数々のSF技術をものにする可能性を秘めているのです。
そして極限まで微細化された機械は、3Dプリンタによってこそ実現するであろうという、これは考証なのです。
さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。
【脚注】
※1 http://www.yamashita-denki.co.jp/product/plastics/dm/dm02.html
※2 http://www.gundam.info/topic/15419
※3 http://49832274.at.webry.info/201509/article_4.html
※4 http://www.huffingtonpost.jp/2017/04/08/passivdom_n_15891074.html
※5 http://youpouch.com/2017/03/25/421876/
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97
※7 http://gereports.jp/post/150156478384/3d-printers-at-cata?utm_source=outbrain&utm_medium=outbrain&utm_campaign=2016-04&utm_content=65881089
著者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n0971dm/
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