31-1.空を飛びたい! ――ヒトの夢と現実
コメント欄、感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。
空へ羽ばたく――それはヒトが抱く憧れの一つでありましょう。現代では飛行機という手段もありますが、それではヒトが風を肌に感じて羽ばたくという、その可能性は――?
ヒトが羽ばたく翼の明日はどっちだ!?
ヒトの夢には限りがありません。
逆を言えば。夢にも思わないことは、ヒトには実現しようがない、ということでもあります。
今回はそんな夢の一つ、「もしも自由に空を飛べたなら……」という憧れに考察を巡らせる思考実験。よろしくお付き合いのほどを。
空を飛ぶ夢と言えば、古代からヒトは空を飛ぶことに憧憬の念を抱いてきました。
本田宗一郎氏は「いつか飛行機を作ってやる!」という意気込みで本田技研工業を創業したといいますし(※1)、事実『Honda Jet』(※2)は正しくその創業理念を叶えた結晶と言うことができましょう。
その空への憧れはと言えば。
古くはギリシア神話、イカロスの物語に行き着くこともできましょう。
ロウで鳥の羽を固めた翼を操ることで自由自在に飛翔する能力を得たイカロスですが。しかし父ダイダロスの忠告を聞き入れずに遥か高み、太陽(太陽神ヘリオス)へと近付きすぎたイカロスは、熱で翼のロウを溶かされ、遂には墜落して最期を迎えます(※3)。
この神話は技術の過信を戒めるエピソードとしてよく捉えられてはおりますが。ヒトが抱く空への憧れ、その強さを物語るエピソードでもあります。あるいは『勇気一つを友にして』(※4)にあるように、勇気の象徴として捉える向きもありますね。
では飛行機で自在に空を飛べるようになった現代、その夢はすでに過去のものかというと。
どうやらそうとも言い切れるものではないようです。
ヒトは“自らの身に風を受けて空を飛びたい”という願望を抱くもののようなのです。
例えば讀賣テレビ放送が主催する『鳥人間コンテスト選手権』(※5)。これは人力での飛行距離や滞空時間を競う競技ですね。
また無動力のグライダも、“ヒトがその身に風を受けて飛ぶ”という点では飛行機とは違った趣を備えていますね。その感覚をより身近に感じるとなれば、ハング・グライダやパラ・グライダという手もあります。
さて、その願望を当【SFエッセイ】的に叶えようとするとどうなるか。
鳥のごとく羽ばたくことで空を飛ぶ――そんなイメージを抱いてみてはいかがでしょう。
ただしヒトの筋力、これだけでは飛び立つには遠く及びません。鳥の羽ばたき、つまり翼の上下動に直接関わる筋肉は、飛ぶことに特化した鳥の体構造をもってすら、全体重の25~35%にまで及ぶといいます(※6)。
これがどれほどの値かと言えば。
ヒトの体重に占める筋肉の割合(筋肉率)は、体格にもよりますがせいぜい25~39%程度(※7)であるといいます。この一点を鑑みても、全身の筋肉を注ぎ込んでしまわなければ満足に羽ばたくことすらできないのが実情と言えましょう。
つまりは。
『ガチムチ鳥シリーズ』(※8)は飛ぶための筋肉を地上での活動に振り向けたならどのような体格になるか――という一種の妄想ですが。これが文字通りの筋肉隆々、ガチムチになります。このシリーズで視覚化されたイメージは伊達ではないのです。
天使のごとく羽を生やして羽ばたこうとするなら、羽を駆動する上半身はマッチョな筋肉ダルマと化する運命にあるのです。つまり体重の4割近くを胸部からその背面にかけて、しかも追加の筋肉という形で持たなければならなくなるのです。これでは重心が高いにもほどがあろうというもの、不安定感は否めません。と言うか天使は赤子のような姿どころか上半身ガチムチの姿にならざるを得ないのです。白鳥のような羽を持つとされるワルキューレ(※9)にしてもまた然り。ちょっと夢が壊れる瞬間ですね。
では全く夢がないかと言えば。
そうとも限りません。ヒトの叡智、つまり道具に頼ればどうかということになります。翼を動かすパワード・スーツという考え方ですね。
次項ではその可能性について考察を巡らせてみましょう。
【脚注】
※1 http://www.honda.co.jp/environment/face/case36/episode/episode01.html
※2 https://news.careerconnection.jp/?p=10956
※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%82%B9
※4 https://youtu.be/TQVP8VjSbQc
※5 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E9%81%B8%E6%89%8B%E6%A8%A9%E5%A4%A7%E4%BC%9A
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E9%A1%9E%E3%81%AE%E4%BD%93%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0
※7 http://www.okazakigenkikan.jp/kenkoudo/
※8 http://kinnikubaka.com/news/archives/12570
※9 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AC
著者:中村尚裕
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