表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ23.もっと手軽にVRとAR! ~VRとARの普及を加速する可能性~
49/79

23-1.昔と今――力と技の積み重ね

 感想欄を始めとして、読者の皆様からとても刺激的かつ示唆に富んだヒントの数々をいただきました。読んで下さいました皆様へ、そしてご意見を寄せて下さった皆様へ、感謝を込めて。


 『VR元年』を謳った2016年。VRデヴァイスの発売が相次ぎましたが、本当の普及に必要なのは“お手軽さ”でしょう。では、VRとARを“お手軽”に実現する方法とは果たして何か? VRとAR普及の明日はどっちだ!?


 『VR元年』を謳う2016年末現在、VR(Virtual Reality、仮想現実)およびAR(Augmented Reality、拡張現実)環境は決して手軽ではありません。

 AR・VRの普及自体はもはや確定事項とさえ私は踏んでおりますが――湯水並みとは行かないまでも、そこそこの手軽さをもたらすものがなければ普及の起爆剤になり得ないのもまた事実。

 というわけで今回はVR・ARの普及、言い換えるならばその起爆剤を探る思考実験。よろしくお付き合いのほどを。


 2016年末現在のVR用3DCGを見た友人が曰く、「発展途上だ……!」。

 黎明期の3DCGを思わせるその出来――脳内補完を余儀なくされる3次元空間――に、思わず嘆息を洩らしたという。ですが、そんなものは時間の問題です――普及しさえすれば。


 3DCGと擬似体験を最初に結びつけたのはゲーム『Maze War』(1973年、作:Steve Colley氏)辺りではないかと言われています(※1)。世界初のFPS(First Person Shooter、一人称視点シューティング)ゲームです。

 これがVRといかに関わるか。

 擬似三次元空間を自在に動き回る――その概念は、昨今騒がれているVRの思想、その原点ともいうべきものです。44年前にはすでにその萌芽が芽吹いていたことになります。逆に見ると、ここまで――つまり立体視しつつ自由に動き回るまでに44年という歳月がかかっていると見ることもできますね。


 では、44年かけて成されたことは何か? ――それが計算処理の高速化と技術の向上です。

 ここでは解りやすく前者に焦点を当てて考えてみますと。

 44年の間にどれだけコンピュータの計算処理能力が向上したかと言って、例えば個人ユーザ向けPCのCPU(Central Processing Unit)を例に取るならば。

 1973年当時のCPUとして代表的なのは、この年ヒットした『Altair 8800』(※2)に搭載されていた『Intel 8080』(2MHz)。その計算速度は0.64MIPS(Million Instructions Per Second、100万命令毎秒)(※3)といいます。

 PentiumIII(500MHz、1999年)で1,000MIPS。

 Core i7 4770K(3,900MHz、2013年)で133,740MIPS。VR HMDの『Oculus Rift』の動作環境が大体この数字ですね。

 Core i7 5700K(4,000MHz、2015年)で161,173MIPS(※4)。

 これを額面通りとして計算すると、44年間で向上した演算処理能力は実に約25万倍。実際にはGPU(Graphic Processing Unit)の助けもありますから、その差はさらに拡がります。


 これだけのマシン・パワーをもってして描写し得る世界はと言えば。

 VR用としても多用されている『UNREAL ENGINE 4』(※5)の描き出す世界(※6)を見れば、可能性は自ずと明らかでしょう。

 ただし、それを十全に駆動するハードウェアはといえば、まだまだ手軽とは行きません。

 現在、『Ocilus Rift』、『HTC Vive』、『PlayStation VR』、いずれもPCやゲーム機本体とHMD(Head Mount Display、ヘッド・マウント・ディスプレイ)類を繋ぐケーブル類が必要です。つまりヒトがVR空間を自由に動き回ることは、まだ完全にはできないのです。

 それを力技で解決しようとしたのがこちら。『MSI VR One』(※7)、バッテリィを内蔵したハイエンドPCを背負って動き回ろうというコンセプトです。

 想定価格は約30万円と言います。個人で手が届く範囲とは言え、中身はハイエンドPCです。まだまだ手軽とは言えそうにありませんね。


 では、あとどれだけ待たなければならないのか?


 Intel創業者の一人であるゴードン・ムーア氏の提唱した『ムーアの法則』(※8)に耳を傾けるならば。“半導体の集積度は1.5年ごとに倍になる”ということになります。荒っぽいのを承知で要約するなら、“ハードウェアの性能がおおむねこのペースで上がっていく”というものですね。2010年台に入って集積回路の密度(つまりは微細化)に限界が見え始めてきたとは言え、業界の見通しはまだ強気のようです。


 とは言え、これは力押しの解決法にしかなりません。当【SFエッセイ】としてはもう少しひねりを利かせたやり方を模索したいもの。

 次項では、そのやり方について考察を巡らせてみましょう。


【脚注】

※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/Maze_War

※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/Altair_8800

※3 http://www.sanosemi.com/history_of_Intel_CPU_techspecs-mini.htm

※4 http://scottsoapbox.com/2015/08/15/how-far-weve-come-40-years-of-processing-power/

※5 https://www.unrealengine.com/ja/what-is-unreal-engine-4

※6 http://nextdeveloper.hatenablog.com/entry/2014/04/21/120419

※7 http://www.moguravr.com/msi-vr-one-2/

※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

No reproduction or republication without written permission.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ