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【SFエッセイ】連載版 完全義体とパワード・スーツ、どっちが強い? ~科学とヒトの可能性~  作者: 中村尚裕
テーマ13.学校はもっと楽しくなる!? ~“電脳化”が変える教育の可能性~
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13-2.“電脳化”世界の学校

 さて、前項では学校で用いられてきた教育がほぼ引っくり返る、ということをお話ししました。

 では、学校は何を教えていくべきか? ここではそれを考察してみましょう。


 学校で教えるべきイロハのイは、もちろん言葉の読み書きソロバン(単純計算)――これはまず変わらないでしょう。

 が、次からのステップが完全に変わってきます。文字を読み書きできるようになったなら、次は検索の仕方を学ぶことになるのではないでしょうか。

 あるいは“ソフト・ワイアド”で繋がった“電脳化”社会なら、“相棒”人工知能とのコミュニケーションが先にくるかも知れません。うまくするとこれは学校などで教えてもらうより早く、言葉を話し始める頃の情操教育から始めてしまってもいいのかも知れませんね。

 共に育ち、行動パターンを深く認識した“相棒”人工知能は阿吽の呼吸でことに当たる、文字通り良き“相棒”となることでしょう。

 ――“相棒”人工知能に関しての詳細は『テーマ6.人工知能が“萌える”とき』をご参照いただくとして。要は彼らは多様性を獲得し、知性体(=生命体)にまで進化した人工知能(現状ある自称“人工知能”とはもはや似て非なる存在)とお考えいただければいいでしょう。


 “ニュータイプ”化したヒトが学ぶべきは現状より実践的な、いわば“活きた経験”です。例えばゲーム理論(※1)のように、“実戦的な”生存戦略であるとかがその内容には含まれるでしょう。


 例えば“しっぺ返し戦略”(※2)。生き残るのにこれほどシンプルでしたたかな方法はありません。

 アナトール・ラポポート(ラパポートとも)が考案したこの戦略は、数ある戦略プログラムの中で最強であったばかりでなく、そのシンプルさでも群を抜いていました。プログラムにして実にたったの4行です。


1.初手は“協調”路線を選ぶ。

2.相手が“協調”路線を選んだなら、次手は自分も“協調”路線を選ぶ。

3.相手が“対立”路線を選んだなら、次手は自分も“対立”路線を選ぶ。

4.2.~3.の選択を繰り返す。


 “目には目を、歯には歯を”のフレーズで有名なハンムラビ法典ですが(※3)、拡大解釈すると“善意には善意を、敵意には敵意をもって等しく報いよ”という具合に取ることもできます。まさにラポポートの“しっぺ返し戦略”そのままですね。


 これ、実社会で思い当たる節はありませんか? 誰に勝つでもなく、それでいて可能な限り協調し合うという戦略です。“Win-Win”の考え方が近いですね(※4)。利益を独占することなく、皆にとって利益になる方法を模索する――そういう方法です。

 もちろん、相手が“対立”路線を選んだなら黙っていません――これでなめられることはないわけです。そして相手が対立をやめたなら、即座に“対立”路線を解くのです。

 シンプルですから行動も読みやすく、かつ筋が通っているので共感も呼びやすいという利点をも持っています。第一ブレがありません。


 こういったことを実践形式で学んでいく場に、学校は変わっていくのです。変わっていかなければ存在意義が危うくなるのです。


 つまり学校が目指すべきは、“対人関係をベースにした多様性とパターンとの学習を提供する場”ではないかと、私は思っております。


 例えば、知能を高める方法で、こんなことが指摘されています。

 Andrea Kuszewski(アンドレア・クツェウスキィ?)氏の研究によれば、“知能”を高める方法として以下の5点が挙がるそうです。(※5)


1.新奇性を探すこと:絶えず新しい情報を探すこと。

2.様々なことに挑戦すること:一つの成功にこだわらず、次々と新たな挑戦に臨むこと。

3.“創造的”に(右脳、左脳を連携させて)考えること:左脳の“常識”、右脳の“型破り”、両方の思考を行き来すること。

4.あえて困難なことに挑むこと:便利なことだけを利用せず、あえて不便なことを、記憶と論理的思考を駆使して行うこと。

5.ヒトとのネットワークを構築すること:ヒトとの交流が、上記4つをより簡単に、より深く実践することになる。


 学校につきものの対人関係――これはある意味ハードルが最も高いかと思われますが、それだけの価値はあるようです。

 もちろん簡単ではないと思います。しかし例えば、“しっぺ返し戦略”という知恵を得た上でならどうなるでしょう。あるいは“Win-Win”という概念を覚えた上でなら? それぞれの立ち回りも違ってきそうだとは思いませんか?

 学校でよく抱かれがちな“閉鎖社会”というイメージも、“電脳化”が進むにつれ“学校内の常識≠世間一般の常識”というイメージを導入できたなら、どうなるでしょうか?

 あるいは爪弾き者の少数派が学区を越えて同類を見付けられたなら? “ロング・テイル(Long Tail、ロングテール)”(※6)という現象が示すように、マイノリティでも母集団を広げれば一定勢力になりうると解ったなら?

 ――“いじめられっ子”がいじめられっ放しになる理由は、少なくなって行くのではないでしょうか?


 他にも、例えば起業家には、知能指数(IQ)よりもパターン認識脳力が要求される、という説があります(※7)。

 失敗体験を解析して同じ過ちのパターンを繰り返さない、成功を体験したなら同じ成功を繰り返すためのパターンを学び取って実践する、というものです。

 実はこの点、起業家に限ったことでもないと、私は考えます。学校で成功の方程式を教えるのです。それも実践で。

 そしてパターン認識能力は鍛えることができるとも考えます。


 その学ぶべきパターンの宝庫として、恐らく最も優れたものが大自然です。過酷な生存競争を勝ち残り、繁栄を遂げている種の数々にはそれだけの根拠を持っています。

 そのパターンから学ぶのです。駆けずり回って遊ぶのも手ですし、じっくり観察するのもまた一興。あるいは、研究している識者の知恵を借りるのも手と言えましょう。


 例えばフラクタル図形(※8)。

 生物は最小の遺伝情報で最大限複雑な形状(血管網や腸の内壁構造など)を再現する必要性から、このフラクタル形状を選んでいるのではないかとする説があります。


 その大自然のうちに、人間ももちろん含まれます。人間の個性を初めとした多様性、これは大自然の獲得したパターンの一つであることはまず間違いないでしょう。当然のように、自然――その多様性――と触れ合うことは、感性を始めとした人間の能力を大いに開発することに繋がるはずです。もちろんヒトも大自然の例に洩れません。つまりここでもヒトとの繋がりが重要になってくるというわけですね。


 かくして学校は、集ってこそ意味のあることを教える場になって初めて、存在意義を保ち得る――という、これは考察なのです。


 さて現実の未来はいかに出ますやらお楽しみ。


【脚注】

※1 http://gametheory.jp/

※2 https://site.douban.com/187756/widget/forum/10982756/discussion/51804395/

※3 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%83%93%E6%B3%95%E5%85%B8#.E7.AD.89.E4.BE.A1.E3.81.AE.E6.A6.82.E5.BF.B5

※4 http://www.franklinplanner.co.jp/learning/selfstudy/ss-23.html

※5 http://gigazine.net/news/20131011-five-way-for-increase-intelligence/

※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB

※7 http://jp.techcrunch.com/2014/12/12/what-is-necessary-for-entrepreneur-is-not-a-high-iq-but-an-ability-recognize-patterns/

※8 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%AB





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n0971dm/

無断転載は固く禁じます。

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