表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不可知犯罪捜査官 西園寺四郎  作者: 水浅葱ゆきねこ
拍手お礼SS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/32

手のなるほうへ

以前に制作していた個人サイトの月替わり拍手お礼のSSです。

色々あってサイトが閲覧できなくなりましたので、こちらに再録していくことにしました。

「耳なし芳一の故事を知っているかい?」

 突然問いかけられて、西園寺が眉を寄せた。

「故事か? あれ」

 しかしその返事は全く意に介さず、漆田は片手を振って話を進めた。

「学ぶべきところがあるという点で、全ての物語は故事だと言っていい。ともあれ、芳一は怨霊と相対するにあたって、身体の表面にびっしりと経文を書きこんでいる。それにより、彼の存在は怨霊に認識されなかった。唯一、書き漏らした両耳を除いて。さて、ここから学べるものは、『力ある言葉』を形にすれば、それは精神生命体への脅威となりうるということ」

「んなもん、札の一つも見れば判ることやないか」

 遮られて、漆田は僅かに不快げな表情を浮かべたが、次の瞬間には何事もなかったかのように言葉を継いでいた。

「そしてもう一つは、決して、敵の前で微塵も隙を見せてはならないということだ。それこそ、君はよく判っていることだろうけどね」

 そうして、意味ありげに笑う。

 その特殊技能を存分に活かして仕事に取り組んでいる男は、小さく鼻を鳴らした。

 漆田がふいに顔を明るくして、隣の椅子の上にあらかじめ置いてあったと思われる物体を、ばさりと机の上に広げた。

「さて、そこで今回の新製品! 『書くれん坊~鬼さんこちら~』! 雨合羽の全面に余すところなく経文を書くことにより、頭から爪先まで全身の隠形(おんぎょう)を可能とした! 塗料には、御神木の枝から作った墨、霊山に沸く清水を使い、勿論防水加工もばっちりだから雨が降ってもご安心! 今なら西洋文化圏に対応済みの、聖句バージョンもついてくる!」

「心底阿呆かぁあああああ!」

 渾身の力で怒鳴り返しつつ、ばん、と机を強く叩く。

「西園寺くん、いくら仕事では力押しが物を言うからって、いつでも粗暴なのはちょっと君のよくないところだと思うんだ」

「そこでさらりとワシの勤務態度を()き下ろすなや。ていうか、何を考えてこんなもん作っとんねん。こんなん着て往来行き来しとったら、目立ってしゃあないやろうが! 全然隠れとらへんっちゅうか、鬼さん以外のもんが遠巻きに注目してくるわ!」

 怒濤の勢いで駄目出しをするが、漆田は意味ありげに含み笑いを漏らした。

「ふっふっふ。君ともあろうものが、このポイントを見逃すとは迂闊だったね」

「……なんや?」

 慎重に問い返す。この青年が、若くして数々のシステムを構築し、その大部分が驚異的な威力を発揮しているのは確かだ。

 青年は自信満々に、奇妙な文字の描かれた雨合羽を持ち上げた。

「下地素材をシースルーにしたから、視界も充分良好だ! 経文に視界を遮られてターゲットを見逃すことなど、ほぼないと言っていいだろう!」

「自分ワシの言うとることわざと曲解しとるやろ!」

 思わず椅子から腰を浮かし、身を乗り出して怒鳴る。ふと漆田は真顔で見つめ返してきた。

「そうでもないよ、西園寺くん。『書くれん坊~鬼さんこちら~』のほぼ唯一にして大きな欠点は私も自覚している」

「製品名をフルで呼ぶなや。……で?」

 黒衣の男の、胡乱な視線を気にもしないで、漆田は続けた。

「下地がシースルーだから、うっかり裏返しで着ちゃったりするんだけど、それだと全然効果が出ないんだよねぇ」

「せやからそういう問題やないやろうが!」

 不満げに腕組みして、漆田は友人の罵声を聞き流していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どうしても西園寺さんがツッコミに回っちゃうこのコンビ……! 見ててにこにこしちゃいますな!
[一言] いっそ、インクも透明にすればいいのではないだろうかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ