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不可知犯罪捜査官 西園寺四郎  作者: 水浅葱ゆきねこ
白い影

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11/32

■十分前

本日二話投稿しております。(2/2)

 あと三組で、自分の順番だ。

 美恵子は軽く手首を振った。癖のようなものだ。自分でも意外だったが、特に緊張もしていない。

 彼女の意識は、昨夜携帯に届いたメールを思い起こしていた。







久しぶり。長い間、連絡しないでいてごめんなさい。

私は今、東京の病院に入院しています。腕は、物を握ることができるようになりました。お箸はまだ無理だけど、スプーンならご飯も食べられます。

足も動かすのはできるけど、歩く訓練はまだです。手できちんと掴めるようにならないと、転んだりして危ないからなんだって。ちょっともどかしいけど、我慢します。


昨日、西園寺さんっていう刑事さんと会いました。

二時間ぐらいお話しました。

私を襲った犯人を、捕まえてくれたのだそうです。

それから、他にも何だか信じられないようなことを聞かされたのだけど、でも、本当なんですよね。

このところずっと、何だか酷く不安になる夢を見ていて、とても嫌な気分だった。それは、きっと、私の醜い気持ちのせいなんだろうと思います。


ずっと、穂乃香ちゃんにも美恵子ちゃんにも連絡できなかった。

何で私が、私だけ、って思ってた。

こんなことになって、余計に連絡なんてできないと思ったけど、でも、逃げていたらまた同じようになるかもしれないから。


酷いことをして、ごめんなさい。

怖い思いをさせて、ごめんなさい。

ずっとメールを送ってくれて、ありがとう。


リハビリ、頑張ります。

すぐに歩けるようになって、それからきっと走れるようになります。

その時には、また、一緒に走ってください。






 メールの文章は、四ヶ月前までのように、明るく、屈託なく、親しげなものではなかった。

 多分、それがこの事件で生じた、彼女からの距離感だ。

 だけど、それを送ってくれた。

 辛かっただろうに、苦しかっただろうに、怖かっただろうに。

 美恵子は、一度携帯をぎゅっと胸に抱いて、そして返信ボタンを押した。







 ぱぁん、と銃声が響く。

 強く地を蹴って、足を踏み出した。

 正面しか見えない。風を切る音しか聞こえない。

 この感覚は、自分だけのものだ。自分のためだけの、ものだ。


 それぞれが、みんな、自分のためだけに走るのだ。




 ゴールの向こう側、真っ正面の観覧席の通路に、黒い背広を着た男が佇んでいるように、見えた。





白い影:完

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