95話
どうぞ。
盾役が前に立ち、中衛は後衛を守り、その隙に斥候の遊撃と魔法攻撃がはじまる――そういうセオリーがある。盾役は味方への攻撃をぜんぶ受ける、アタッカーはよりダメージを出す、支援役はバフを切らさない、ヒーラーは味方を死なせない、そういうことが期待されている。
だからこそ、盾を構えたサールさんが攻撃の吸い寄せをして、ワンテンポ遅らせた火球と爪の一撃がノイスを襲った、はずだった。
『ハッカーを縛れると思ってんのかァ? ジョークにしちゃ手間ァかかってんな』
「早いッ……!!」
どうやら、ノイスのハッキング能力は状態異常の拒否権限でもあるらしかった。
そして、とてつもない速度で突撃したノイスは、大太刀のように伸ばした腕を振るう。避け切れなかったナナさんのダガーが、一瞬で砕け散った。そして、ホーディさんは攻撃を受け止めきれずに吹き飛ぶ。
「どういうロジックなんですか、これは!」
『この「スプリング・ファイバーシート」は、性能が“揺らぎ”続ける。最高値をうまく引き当てられりゃあ、こういうこともできるって寸法だ』
「なかなかやるわね……ま、爪の方が得意なんだけどね!」
『そうかい』
飛んできた魔法を当然のように切断したノイスに、ナナさんは飛びかかっていく。両手の変形した大太刀は自在に変形し、地面をさえ切り裂いていくが……彼女はまるでネコのように、軽快に飛び跳ねて紙一重でかわしていた。
ほとんど近寄れないでいるサールさんはもはやお荷物状態だが、避けタンクの方に戦力を集中させることにしたようで、あれこれとバフをかけている。
「打ち合えないか……攻性装甲、考慮に入れてもいいかもしれない」
『ライヴギアはどうしたァ? 星霊もだが』
「使ってんのよ!」
よく見ると、髪の毛に紅銀のメッシュが入っていたり、義眼が入っていたりと、機械でも肉体強化型のものを使っているようだ。ゾードはパワードスーツやチェーンソーを使っていたけど、こういうサイボーグもあるらしい。
「あれ、そういえば……?」
存在感のなかったホーディさんは、いつの間にか姿を消していた。
そう考えた瞬間に、透明化していた何かが渾身の一撃を見舞う。
『お、っと……!!』
衝撃波が伝わってくるほどの、化け物じみた威力だった。ノイスの装甲がゆらゆらと揺れ、不安定になった隙に魔法がいくつも炸裂する。かなりの火力を叩きだしたように見えた連携攻撃だったが、これ以上のことはできないらしかった。
『隠してやがったかァ、完全遺物だな? ほとんど制約なしってェのは、ちとイカレすぎてやしねェか……』
「あんたが言うか!」
動きを激しくしても露見せず、音もなく、攻撃が終わっても効果が切れない。最強のアタッカーが装備するにしては、あんまりにもあんまりなぶっ壊れ性能だ。どこに装備しているかまったく分からなかったことも加えて、知る限り最強の装備かもしれない。
『負けるリスクを最低限にするには――』
ノイスは、その場でくるりと回った。ゆらりと伸びた刃が躍り、プレイグラウンドの半分ほどをめちゃくちゃに蹂躙する。
『こうか。終わりでいいよな?』
「返事できる人いないよ!」
演習が終わって、プレイグラウンドからフィルターが取れた。ズタズタに切り裂かれていた平面空間が、何事もなかったかのように復元されていく。
「いやー、さすがです! 正直、前座くらいに思ってたんですが、負けちゃいましたね」
「なんでここまで強いのよ……。まだレベル低いんじゃないの?」
『剣を振るための見本がコレだ、弱くなるわけねェだろうよ』
「――なるほど、だな」
腕組みをしていたホーディさんが、静かにうなずいた。
「また挑みに来ます。このあとは……」
「ログアウトします、時間なので」
「あっ、ごめんなさい! 引き止めちゃったみたいね」
「いいですよ、ちょっとだけでしたから」
自慢げなノイスを格納して、俺はログアウトした。
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