93話
辞職が決まりました。やったぜ……!!
どうぞ。
マーケットの端末をいじりながら、考えていた。
俺がトモガラを倒せなかった原因は、力不足と舐めプだろう。両方が成立するかどうかはともかく、力不足なのに全力を出していないところは、本気でマズかった。
『正直、乗っ取りが成立すりゃアそいつでいいんだがね。ああいう外に持ち出せないモンでもなけりゃ……』
「現地調達もいいんだけど、やっとくべきこともあったよね……」
ザクロというキャラクターは、スピード型の剣士である――ときには防御タイプのバッファーにもなるが、〈割鉈の型〉と〈柳尾の型〉〈裁刀の型〉の基本は同じだ。となると、メンバーに加えるべきは防御タイプだろう。敵がスピードで上回っているのなら、なおさらだ。
ノイスを盾役にして、俺がアタッカーをやる。それがソロでの最適解だろう。結論を出してすぐやってきた足音は、先ほども聞いたファラさんのものだった。
「あら、ザクロちゃん。今度は何を探してるのかしら……こんなに早く戻ってきて」
「ノイスを盾役にしようと思ってるんです。機械の部品で、いいのありませんか?」
「ふぅん……」
『ちったぁ鍛えられたが、結局は機械がいちばんいいみてェなんだ』
さんざん高騰していると言われていたエンジンも、その噂が広まりすぎたせいか買う人が少なくなり、値段が下がっていた。
「昨日は三倍くらいで出てたんだけど、これなら大丈夫ね」
「おー、一万メテラ……」
かなり大きくて馬力もある「5Gヴルカン」というエンジンが、相場よりはかなり安く手に入った。ライヴギアなら何に組み込んでも使えるはずだが、もともとの用途は人型ロボットを動かすためのものらしい。
「作業機械用の方が出力はあるの。でも、熱量が大きすぎるのよね」
「冷却に手間取るんですね」
「制御装置は、エンジンの出力に比例していいものを積まないといけないのよね。そこで費用がかさむから、両方安く済ませる人が多いの」
「そこで節約してるってことですか」
冷却材に「ディープサフィール」、それに「ケジンドⅡS」という制御装置を買う。ものすごい性能らしく、ノイスは『極上じゃねェかこりゃあ!』とご機嫌だった。
「主動作は……まあ、ノイスくんに任せましょうか。そこに星霊を積むこと自体が、あなたの売りなんだものね」
『分かってるじゃねェか、お姉さま? それで、外装はどうすんだ』
稼働部を構成する物質は、それなりに幅を持たせてもいいらしい。パワードスーツを作るにしても、鋭さと固さを部位で分けたり、反応装甲や耐熱・耐電圧装甲を付けたりすることがあるらしい。
「そうね……盾役っていっても、何をするのかによるわ。ただ耐えるだけじゃないんでしょう? あなた自身でデータをのぞいてみたらどうかしら」
『風情のねェこと言うなァ、タッチパネルをハックしろだなんて……。ま、やるがね』
一秒もかからずにハックと閲覧が終わったらしく、ノイスは画面を切り替えた。
『これだな、「スプリングファイバー・シート」。ずいぶんと面白い性能だぜ』
「たしかに、これはすごいね」
その他もろもろの人型機械のパーツをがちゃがちゃと組み合わせ、大量に買ったシートで全身を覆う。制御装置に入り込んだノイスは、さっそくシートを変形させてその姿を完成させた。
『はははッ、こいつはいいな! あえて下半身を捨てた甲斐があったぜ……浮遊ユニットは少しばかり高かったが、わがまま言っちまってよかったのか?』
「パフォーマンスがめちゃくちゃ上がりそうだったから、いいよ」
『太っ腹だねェ、マイマスター。ところで、どうだい? 性能面は申し分ないと思うんだが、見た目が気味悪いってことはねェかな』
「いや、まあ……いい感じだと思うけど」
全体的に丸っこくて、下向きに尖った曲線が多く、細い体に多めの装飾を加えているからか、どこか女性的だった。より詳細に言うなら、プラチナの花嫁とでもいった様子だろうか。
「なんだか、ウェディングドレスみたいね」
『そうなのか? 人間の感性は分かんねェな、この合理的な配置を儀礼用に見るか』
何か考えがあっての配置らしいが、こちらにはよくわからなかった。
「ともかく、完成だね」
「あっ、いたいた!」
そろそろログアウトしようかと思った矢先に、四人の男女が駆け寄ってきた。
「ザクロさんですよね! 野試合をしてほしくて」
「どこで知ったんですか、私のこと……」
「有名人じゃないですかー! 僕ら、パーティー組んでまして」
「そうそう。対人戦を経験しておきたいけど、あの人はね……」
ゾードに倒された人が復帰してこないのは、トラウマの残るようなやり方でPKされたからだ、という説を聞いたこともある。ものすごく健全な雰囲気のある四人だから、ゾードに連絡を入れるのも違う気がした。
『ちょうどいいじゃねェかマイマスター、マーケットにも試し切り用のプレイグラウンドがあるだろ?』
「おっ、星霊のほうが相手してくれる流れですか?」
あわあわと何を言えばいいか分からなくなっている少女と、押し黙っている青年は、ほとんど言葉を発していない。活発そうな青年と彼女らしい女性は、話は決まったとばかりにプレイグラウンドの方へと歩いて行った。
『行こうぜマイマスター。少しはいいとこ見せてやるよ』
「やる気だね、ノイス」
少しあきれながら、俺は観戦することになった。
いろいろ新しいことを始める準備をしているので、執筆速度が上がらない……私の根本の活動指針である「誰かの居場所を作ること」についても、少しばかり進められたらと思っています。それより先にこれを書かないとですが。




