87話
母が倒れたので、漫画でしか聞かない主夫ってやつになる可能性が出てきました。時間の余裕はできるかもしれませんが、そういうのどうでもいいんで元気になってほしいです。
どうぞ。
吹いてくるのは、まるで春のように温かいそよ風だった。どこへ通じているのかよりも、行く先の環境の方が気になっている。これもゲーマーのサガなのかなと思いつつ、とくに戦闘もなくその場所へたどり着いた。
「機械のワープゲート、かな?」
『行き先は……〈ライブラリ・アースⅢ〉。ただのワープゲートじゃねェな、意識体だけで攻略することになると思うぜェ、マイマスター』
「じゃあ、アイテムは大丈夫かな」
『言ってる場合かよ。意識体が損傷すればレベルが下がっちまうんだぜ? 一回で下がる量は決まってると思うが、危険には変わりねェよ』
それこそSFでよく見るようなワープゲートなのだが、そういう秘密があったらしい。もともと現地で出力したものと意識体を併せて志願者=プレイヤーになっているわけだから、肉体が一時的に消えようが意識が傷つこうが問題はなさそうなのだが……ノイスにとってみれば、一大事のようだった。
ダンジョンには似つかわしくない、春の日のような匂い……それに、花の香り。渦を巻く光が届けているそれは、先にある光景を伝えるにはじゅうぶんだった。
「行こう、ノイス」
『なんかいい機械があったら、速攻でボディを移させてもらうからな』
光の渦をくぐり、きりもみ回転するようにくるくるとうねる階段を歩く。それほどの距離でもなかったのか、一分もしないうちに入り口と同じ光の渦が見えてきた。濃い霧に触れたような感触を通り抜け、湖のほとりのような場所に降り立つ。
白い砂浜に地層がはっきり見える断崖、わざとらしい浮島に澄んだ水――びっくりするほどそれらしい、白々しいといってもいいくらいに「湖畔」という記号をそのまま当てはめたような場所だった。当然だが、こんな場所はあの星にはないだろう。
「ノイス、何かありそう?」
『金属があるかどうかってレベルだ。こんな場所にあんのも変だがね』
「行ってみようよ、実体のある装備かもしれないし」
『できすぎじゃねェか? それっぽいって言やァそうなんだが』
美しい湖畔を、ノイスが見つけたものの方へ歩いていくことにした。




