85話
どうぞ。
めんどくさくなったので、ライヴギアの操作をノイスに頼むことにした。
「ノイス、これ操作できる?」
『ムチャクチャ言いやがるなァ、マイマスター? 生体脳での制御はプログラムとの相性最悪だぜェ。あんたらの使ってるライヴギアは、そこんとこにマナをいっちょ噛みさせてっから成立してんのさ。受け取ったレベルぶんの活躍はできねェなあ』
ものすごく嫌そうに、ノイスはぐちぐちと言い訳を連ねた。
「できるんだね」
『チッ、制御訓練だと思って……ま、俺のもらえるボディーが生体素材かもしんねーから、やっといて損はしねェのかね』
ライヴギアはものすごく機械的に作られている――と思っていたのだが、思ったよりそうでもない、オカルト寄りのシロモノらしい。NPLもあることを考えると、もしかしたら人間がいなくても成立するシステムとして作られている可能性もある。
『あーあ、クソ……ノイズまみれだぜ。動作環境くれー守ってくれよな』
「がんばって機械のパーツも探してみるけど。ノイスにも魔法使えた方がいいんじゃないかなって」
『今のとこ、できる範囲がハッキングしかねェのは確かだな。だが、そんならそれで敵のボディーを奪うだの、いろいろあんだろーがよ』
「あ、たしかに」
モンスターのスペックは、総じて人間より高い。あれがそのまま使えるなら、ダンジョンに行っている間だけでもやる価値はありそうだ。話しているうちに巡回ルートに引っかかったのか、宙に浮く魚のようなドローンがやってきた。
「敵、来たね」
『サイボーグはダメだ、ほぼ生体と変わんねェんだぜ』
「じゃあ」
『分かってる』
久々に手にした〈割鉈の型〉は、しっくりと手になじんだ。
『あんたに当たらねェように撃てばいいんだろ? シミュレーションみてェなもんだ』
「ちゃんと避けるよ。当ててね?」
ノイスの言葉によるとサイボーグらしい古代魚は、ひれ状の追加パーツを分離し、ドリルビットのように前方で回転させて突っ込んできた。横に避けたつもりだったが、範囲ダメージに巻き込まれる。
「命中率、高いな……!」
『あんたが回避できねェのか……なかなかやるじゃねェの』
硬直時間がすこしあるのか、古代魚は後ろをがら空きにしながら減速し、ドリル態勢を解いた。こういう特技はだいたい反動技なのだが、浮遊しているとそれも「ちょっと止まりにくい」くらいになるようだ。
「はっ!」
『遅ェなら当たるな!』
ノイスは〈紫沿誘灯〉を放ち、さらに敵の体勢を崩させた。引き寄せ効果のある技なので、当たらなくてもそれなりに効果がある。ベストチョイスに思わず微笑みながら、俺は刀を振るう。弱点らしい生身の部分に当たると、クリティカルの手ごたえが返ってきた。そして、体勢を整えた敵はまたパーツを分離し――
今度は、頭上に電撃を放った。
『信号弾だ! ちょいと試練だぜ、マイマスター……!』
「数増やして突っ込んできたら、弾幕だね」
そこまで明るくもない機械的な空間の奥から、無数の赤いセンサーライトがのぞいた。そして、古代魚たちは壁にウミユリのようなものを設置し始める。
「なんだろう、あれ……?」
『レーダーみてェだな。より精度が上がるってこった』
「じゃあ、これじゃ戦えないね」
『ブレイブごっこがしたけりゃ、面白いかもなァ?』
勝てる、負ける……“かもしれない”は大好きでも、決まりきったものはあまり好きではない。こういう処理めいた戦いは、どちらかといえば嫌いな方だ。相手にとっても単なる作業だと認識されているらしい戦いは、勝敗どちらでもすぐに終わるだろう。
「カッコ悪い無茶は嫌いな方だし……万策尽くしてみようかな!」
『ま、オレは死なねェんでね。せいぜい練習させてもらうぜェ』
すでに展開している〈三鳥の型〉に続いて、手元に〈調弦の型〉を呼び出した。




