82話
どうぞ。
下着がいつもと違うせいか、いろんな動きの感覚が変わっている。いつもより動きやすいし、あらゆる動きが鋭くなっているように感じられた。言うとおおげさだけど、脇あたりがぷにっと揺れるタイミングがほとんどなくなっている。
「どうしたの、そんなに自分の胸見て」
「いろいろ、思うことあってさ」
これなら運動しやすそうだな、と……ゲーム内でいくら着替えても思わなかったような感想が出てきた。どんなコスチュームだろうと「服を着ている」くらいのものだし、イベント特効だから、周りの雰囲気がそうだから、程度の理由だった。
「服って、いろいろ変わるんだね」
「そうだねー。機能性もあるし、気分も変わるし。ゲームってそういうのない?」
「あるけど……そんなに感じないかも。思ったより、忘れてるんだよね」
「戦ったりするから?」
「あるある。衣装の感触とか、VRだとほとんど感じないし」
最近だと、〈調弦の型〉を使うときの浴衣ではインナーがふんどしなのだが、あれでそれなりに動いてもお尻がどうこうという感覚はない。性能で服を選ぶ、ということ自体はしているが、見た目と内実が同じではないからだろう。
「そのへんやっぱり、ゲームなんだねー。まあ、動きにくいよりマシだけど。水着でポロリとかあったら困るし」
「それ、ゲーム自体が配信できないから……」
規制される関係でできないこともあるし、再現しても意味のないこともある。ゲームの歴史にはいろんな積み重ねがあるけど、VR空間の歴史は「なくてもいい」の歴史だと言われている。思ったより、匂いや感触はなくても成立するし、聴覚や視覚が成立する距離も現実よりずっと狭いらしい。
それでも成立しているのは、人間の感覚は思ったよりもいい加減で、それでも「リアルである」と認識されるからなのだそうだ。それなりに昔の技術として、CGで髪の毛の流れを再現するとき、三点の動きがあれば自然な揺れに見えた、という話を聞いたことがある。父さんが話していたように、リアルさは思ったよりも簡単に成立してしまうらしい。
「あっちでも楽しみなよー? そういう友達、できるかもしれないしさ」
「あ、もういるよ。ちょっと変態だけど」
「……そうなんだ」
「ちょっと変態なくらいがいいかなーって。新しいもの、見せてくれるし」
思えば、押しの強い人に押されっぱなしな気はするのだが、その方がいい気もしている。知らない選択肢を教えてくれる人はいくらいてもいいし、迷いを断ち切ってくれるのも嬉しい。たいがいクセの強い人だから、変なものも勧められるけど……そういう困惑も、後になってみれば楽しい記憶ばかりだ。
なんてことを話しつつ、枕をセットしてチョーカーを巻く。
「もう構えてる……」
「日課だし。ゲームは毎日やるものだって、刷り込まれてる気がするっていうか」
「絶対違うでしょー、それ」
「なんだろうね? でも、やってる」
半ば呆れるような、何度も見てきた目に見送られながら、俺はNOVAへと没入していった。
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