81話
ネトゲやってサボる→仕事疲れ→ワクチンの副反応→今ここ。このアホがァーッ!!(自戒)
どうぞ。
父さんは出社したあとで、もうちょっとあった残りご飯を消化するためか、雑炊ができていた。
「あ、そうだ。カリナが料理できそうかどうか、見とかないと」
「え? もうできてるのに?」
「できた状態からでも、ちょっとは分かるよー。ささ、こっち」
「なになに、どういうことなのかしら」
じゃーん、と姉は冷蔵庫から調味料を出してきた。
チューブのわさびにショウガ、液体だしとポン酢――使う機会が多い四種類を目の前にして、俺はすこしだけ困惑していた。これで何かするつもりなのかと思った俺をよそに、姉は「じゃあ問題ね」と笑う。
「雑炊に入れちゃいけないの、どれだと思う?」
「え、あるの?」
「あるよー。なんとなくでいいから、考えてみて」
「え? ……っと、なんだろう」
雑炊には何でも入れていい、みたいなことを聞いたことがある。ということは、どれを入れてもおかしな味にはならないんじゃないだろうか――と、ぼんやりした感想が出てきた。
けれど、こういうときに「正解がない問題」は出ない。姉の性格からして、それは確信よりも事実に近く思えた。ロジカルに解ける問題なのか、それとも勘で解かないと意味がない問題なのか、そんなことを考えつつ四つの選択肢を前にして、俺は当てずっぽうに選ぶことにした。
「……これ?」
「おー、正解! これなんだよね……なんでか分かる?」
ポン酢――は、雑炊に入れてはいけないらしい。なんでと言われても、山勘が当たったとしか言いようがなかった。
「ちゃんと理屈はあるのよ?」
「あるんだ……」
「まあいっか。説明できなくても、なんとなくで分かってたら大丈夫だから。ほんとに勘が働かない人が、まずいごはん作っちゃうんだ」
「言われてもよくわかんないけど」
魚が生臭いからと香水をかける、落とし蓋を叩きつけるなんかは冗談として聞くけど、自分がやってみたときに何をするかは未知数だ。こうやって目の前に立ちはだかると、冗談にも聞こえなくなるのが不思議だった。
「入れてみる?」
「まずくなるんでしょ?」
「食べにくくなるの。お酢って、蒸発すると目とか鼻にすっごい刺激が来るから。湯気をすぅーって嗅いだりしたらやばいよ」
「あ、そういうことなんだ」
お茶のにおいを嗅ぐのはけっこう好きだから、説明された現象がよりリアルさを帯びて感じられた。楽しみを殺ぐような調味なら、しない方がいい。楽しみが半減よりさらに減ってしまったら、料理の腕を疑うべきだろう。
「という、ちょっとしたテストでしたー。“なんとなく”が大丈夫なら、これからもなんとかなると思うよ。そういうもんだし」
「ふわふわしてるね」
ロジカルに説明できる、と言われた後でのこれなので、ふわふわ感が増している。ひとまず、こういうことに関する勘はきちんと働いているようだった。
「性能の評価とかさ、こういう感じじゃないの?」
「そうかも」
「ゲームってそんなに厳密にやってるのねぇ……」
「プロパティってめちゃくちゃ細かいよ。厳選も難しいし」
意味不明な終わりを迎えた例のクエストはともかく、それ以外の問題も山積みだ。PKから巻き上げた不完全遺物は、いまだに詳細不明のままなので、運用方法にも悩んでいる。売ると高いのは分かっているのだが、最近は下がってきている、というファラさんの情報もあった。
そもそもの話、遺物とは過去の「バリアス」だかいう武器が壊れた姿だ。センサーを使って見つけたところで、本来の性能を発揮できないどころか、振り回すことができるまともな形がある方が珍しい。俺が返しそびれている……たぶん引退したのでもう返せないあれも、おそらく刀剣なのだろう錆びた何か、くらいのものだった。
「いずれ、お父さんにも勝てるといいわね」
「父さんに、かぁ……。ちょっと想像できない」
「やっぱり強いのね。でも、いずれは超えてもらわないと」
「むちゃくちゃ言うね!?」
だって親子でおんなじ趣味なんだもの、と母さんは笑った。




