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【更新停止中】アクロス・ザ・ナギノクイント  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 みゆきひらひらふるるよる
73/191

73話

 どうぞ。

『カカカッ、同一存在が隣にいるってのも楽しいもんだなァ!』

『文字記録だと見分けがつかねェんじゃねェーカ!? どうするよ同僚!』


 小箱――「ノイス」の基本形態は、楽しそうに会話していた。


『しょうがねェや、ちょっくらアーカイブから最適人格を探すぜ!』

『カカッ、そうすっかな! 少女にうさんくせェーのが付いてると、物語としてウケが悪そうだからなァ!』


 まるで書記かなにかのようなことを言いつつ、二人は数秒明滅していた。


『マイマスター、どうする? 口調は伝達用フォーマットだから、情報の内容は変わんねェーんだがね。あんたがやりやすけりゃ、なんでもいいぜ』

「私はそのままでいいよ。男女の組み合わせが面白いと思うな」

『ほっほう、なるほど? 聞いたか同僚!』

『面白ェー提案だな! さっそく女性型フォーマットと入れ替えておくぜ!』


 ゾードが話題についていけずにいるうちに、あちらの小箱は口調を変えた。


『マイマスター、伝達用フォーマットを刷新しました。いかがでしょうか』

「俺の案が取り入れられてない気がするんだがな……」

『お気に召しませんか?』

「もっとカオスになっても困るから、それでいいぞ」


 諦めたのか、こういうのが好きなのか、ゾードはなんとも言えない表情で浮遊する小箱から目を逸らした。アーカイブにどんな口調があるのかは気になるけど、聞き取れない方言なんかに変わったら困るのは確かだ。これくらいが妥当なのだろう。


「会話できても、いいことばかりじゃないんですねぇ……」

「いやぁ、たいへんですね」


 頭の上にドラゴンを乗せたり、肩に妖精を乗っけたりしている二人は、まったくの他人事を楽しそうに眺めている。


「それにしても、紙とノイスじゃ相性がよくないと思うんだが……どう使うつもりなんだい? 基本、かれらは機械だろう?」


 戦闘状態ではないからか、錫児さんはマンモスの牙を腕組みして支えていた。地面につくと傷んだりするのだろうか、という思考が出てくるのはちょっと嫌だった。


「みたいですけど」

『スペックの説明が必要か、マイマスター?』

「だいたい分かってはいるけど……うん、本人の口からも聞いときたいかな」

『オーケー! 機械はウソをつかない、大原則を分かってるようで嬉しいぜ』


 ノイスは、設定上もっとも悪いことになっている。会話ができるほど成長したコンピュータウイルスで、あらゆる機械に対してハッキングを仕掛け、制御を乗っ取ることができると書いてある。


『ま、先史時代にいたウィザード級ハッカーあたりの噂だろうがな! そんなもん記録にないぜェー、ラップトップでスパコン乗っ取るなんて無理だからなァ』


 ソフトウェアがあれば演算ができる、というのは大きな間違いだ。ウイルスがどれだけ凶悪でも、実際に計算をするコンピュータを乗っ取っていなければ、そのスペックは発揮できない。


『オレのスキル「クラック・オン」は、使えるリソースの大きさで強さが変わる! ここからが取引だぜマイマスター、あんたはいくつレベルを払える?』

「ギリギリ、かな」

『カカカッ、紙でオレを選ぶだけあるなァ!! それでそれで……? オレにハックして欲しいものがあるんだろ? 言えよ、ほら』

「もうちょっと待ってね」


 心底楽しそうに言うノイスを静かにさせて、俺は眼前の光景に目をやった。ローペが「あれですかー」と肩をすくめる。


「お出ましですねぇ。言っちゃなんですけど、ほぼ初戦闘ですよ?」

「フォローはするさ、心配ない」


 錫児さんの股間が光りだし、エネルギーの奔流が感じられた。


「探査機のアンテナだ。こいつで探れば、不完全遺物のありかが外れ込みで分かるようになる」

「それでいいんです?」

「一週間くらい何千人と露天掘りして、出たのが二十かそこらだぞ」

「わお……この環境は変えないと、ですもんねぇ」


 不完全遺物は、言ってしまえば武具っぽいものの残骸である。修復のプロセスを挟んでもなお、大昔に稼働していたころの性能は取り戻せないらしい。復元ではなくて新生とか改造を施さないといけないらしいけど、貴重すぎてそれも進んでいない。


 このあいだ倒したPKにも遺物使いはいたけど、何をしていたかまったく記憶にない。おそらく、修復しかできていなかったのだろう――返しそびれて、ザイルに聞いても「インしてないから引退したっぽい」と言われている、なんだか妙な武器がそれらしかった。


「何もしてきませんね……あくまで門番、ということなのでしょうか」


 半分ほど地面に埋まったビルのてっぺんに、確かにパラボラアンテナのようなものが備え付けられていた。年月で傷んだふうにも見えず、それなりに使われているような気配さえ見える。


 小屋ほどもある門番は、どうやら体育座りしている人型NPLのようだった。なんとなく視線は感じるのだが、とくに警戒する様子もない。


「石っぽいぞ。ザクロさん、切れるのか?」

「今は打撃です。あと、ローペちゃんと戦ったあとなので」


 激しい運動の練習をするための服を着ている……なら、やることはひとつだ。


「ムチと併せた格闘でやります」


 見た目通り(・・・・・)のことをする。


 上がったテンションのままに突っ切るために、俺は駆け出した。

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