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【更新停止中】アクロス・ザ・ナギノクイント  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 みゆきひらひらふるるよる
70/191

70話

 どうぞ。

 イベントと星霊(アスト)実装のためのメンテナンスは、もう少しかかるようだった。もう夕方だから、そのままネトゲの盛り上がる時間帯にスライドしそうだ。こういうイベントをねじ込むとき、シミュレーター産のゲームはちょっとメンテが長くなる。


「お、いい顔してる。楽しんできたんだね」

「ゲーム配信してる人に勝ってきたんだ。ちょっと花持たせてもらった感じだけど」


 決着を焦りすぎたようにも見えたが、地味な絵面が長く続くことを避けたのだろう。それはそれとして、弱いキャラで強いキャラに勝つのは楽しい。


『ただいまー!』

「あ、父さん! 今日ちゃんと帰ってきたんだ」

「何日かぶりだよねー。お出迎えしないとだ」


 階段を降りていくと、ちょうど父さんがリビングに入っていくところだった。ソファーに腰かけた父さんに、姉は後ろから肩たたきをし始める。父さんは横に崩れそうなくらいの弱々しさだったので、ソファーには座らずに、カーペットの方に行くことにした。


「お、二人とも。ただいま」

「おかえり、父さん! 今日めちゃくちゃ早かったね」

「公式の配信者関連である程度話がついてな、今日は持ち帰りってことで……。何日か帰ってなかったから、早めにな」

「すぐにお風呂沸かすから、待っててちょうだいね」


 無精ひげもちょっと伸びていて、かなり疲れた顔をしていた。顔は洗っているみたいだけど、ちゃんと寝ていなさそうに見える。


「二人とも出てくるなんて、珍しいな」

「いまメンテなんだってー。イベント前らしいよ」

「ああ、そうだったか。始めるにはいいタイミングだな……」

「だね。レベル上げながらトークン集められるの、すごくいいと思うし」


 やっているクエストによって、モンスターを倒す必然性が薄いことはままある現象だ。ゲームによっては、戦う必要がなさすぎてバトル系のイベントがまったく盛り上がらない、なんてこともある。


「いい感じで楽しめてるみたいだな、安心したよ。『ナギノクイント』、例の闇バイトが湧いたって話も出てたからな……」

「倒したよ、全員」


 絶句するでもなく、父さんはひとつ鼻で笑った。


「さすがは俺の娘だな。トラブルは避けるようにって言うところなんだろうが、あっちが言ってた「何度もぶっ倒された」っていうのは、カリナも入ってたか」

「野良PKしまくってる人が知り合いにいたし、その人もだと思う」


 昔からあった「RMT」、ゲーム外でプレイヤー同士がお金のやり取りをすることは、どこでも固く禁止されている。お金でなんとかしようとか強くありたいという発想でも、借り物でも最初から最強でありたい、みたいな方向に至る人がいるようだった。ファラさんという被害者が身近にいるから、自分の力で対処できてよかったな、と思っている。


「対人が強いのは分かってるから、心配はしてないけどな。付きまといなんかは通報するんだぞ」

「うん。それはなんとかならないし」


 プレイスキルで負けるつもりはないけど、仕様の穴を突いたあれこれには対応できないかもしれない。


「ふう……。すぐ寝ると思うから、ほぼ何もしてやれないな」

「格ゲーで盛り上がったから、いい感じにあったまってるよ。だいじょうぶ」

「そりゃいいな。安心して寝られる」

「ゆっくり寝て、ちゃんと休んでねー」


 父さんは、たまに早く帰ってきたとき、いっしょにゲームをやってくれることがある。でも、今日は無理にねだるつもりもなかった。ちょっとふらつきながらお風呂に向かう父さんを見て、俺は姉と顔を見合わせて、少しだけ笑った。


「あたしはゲーム関係じゃなんにもしてあげられないからなー。なんていうか、適性の違い? あるよね」

「ん、そんな気するよね……」


 俺とは違って、姉はそこまでゲームが得意ではなかった。どこかで聞いた話では、男の子の顔は母親に似るし、女の子の顔は父親に似るというけど……得意分野には、そういう法則はまったく当てはまらないらしい。じっさいはどちらも女の子だったから、その前提自体がなかったことになるのだが。


「メンテナンス終わったみたいだよー。情報も出てるし」

「あ、ほんとだ。けっこういるなぁ……」


 初期配布の四種類は「ウィルム」「ニンフ」「ノイス」「シャアク」と書かれている。属性は五つなのに一体足りないのは、イベント交換にあるのか、それとも露骨にバランスが壊れるからか。


「ドラゴンに妖精に、あとなにこれ……何だと思う?」

「ネットワークにいるウイルスと、影にいる魚とかじゃない?」

「ゲームだとそういうの普通なんだ?」

「いや、そんなに……」


 夕食を終えてログインするのが、とても待ち遠しく思えた。

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