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41話※

※きわめて残酷な描写を含みます。それでもいいという方はどうぞ、お楽しみください。

 ヘスタにおけるアイテム採取スポット、「死滅スラム」の地下部分はダンジョン扱いである。素材アイテムを手に入れるには手ごろな場所であり、初心者にもやさしい、最初期のレベル上げにふさわしい場所だった。


 近頃は迷惑プレイヤーやPKが出没するため人が減り、ほとんど人がいなくなったことで、より凶悪なプレイヤーが争い続ける蟲毒めいた難所と化している。


 これまでPKがのさばってきた場所で、ドルンとエンジンがうなった。阿鼻叫喚の地獄絵図、何人も叩き斬られた味方は、もはや数人にまで減っている。


 絶対に怒らせてはいけない人間を怒らせた――文字通り虎の尾を踏み、龍の逆鱗に触れたがごとくに、自らの行いの報いを受けている。理性では分かっていても、感情は理解を拒んでいる。ディボルは、いまだに自分はそそのかされただけだと考えていた。


(ヤバい、ヤバいヤバいヤバいって……! あんちくしょう、どこで何してんのかと思ったらレベル上げだったのかよ! 三つめなんて聞いてないぞ!!)


 ライヴギアの登録セット数は、本体のレベルに応じたコアレベルに依存する。そして、ライヴギアの性能は分配されたコアレベルによって上下する。ザクロの使う刀が強いのは、複数同時展開を行わないことで、二十を超えるコアレベルがひとつに集中しているためである。最低でもコアレベル十を必要とするライヴギアの展開に、例外はない――


 が、高ければ高いほど同時展開数が増えるのもまた、ひとつの事実である。角刈りにアーミールックの青年「ゾード」は、ベータテスト時代から野良試合を繰り返し、その狂戦士ぶりから名が知られることとなった。彼は、強くなるための研鑽に余念がない……これと見込んだ相手との決闘を先延ばしにして、強化にいそしんでいたのだ。


「先着順すっ飛ばしやがってよ、おい……分かってんだろうな? ガキ一人に三十人使うってのも大概クソ情けねえが、それ以上にな。試し斬りは俺だって約束だったんだぜ」


 ゾードにも勝てるはずだった布陣は、あっけなく破られた。耐久値の減少加速、各種ステータスダウンや強力な攻撃を揃え、先のフィールドボスにさえ圧勝できようかという面々だった。少なくとも、一矢報いることくらいはできたはずだったというのに、傷ひとつ付けることなく完敗している。


(くそっ、あの情報屋気取りにカネを払ったのが間違いだったのか!? 何が最新の情報だ、手遅れもいいとこだろうが……!)


 ドボンという怪しい男は、あの少女についての詳細な情報を売りつけてきた。ライヴギアから使う技、所持しているブレイブに至るまで網羅されており、あまりにも詳細なそれには薄気味悪ささえ感じていた。「耐久値の減少をギリギリまで抑えて戦う」というギャンブルじみた綱渡りに対し、ディボルたちはそれを封じる手を打った。


 しかしながら、少女はまったく情報にない貝や魔法、琵琶か何からしい新たなライヴギアによって彼らを壊滅させた。


「どうして法律があるか、なあ。分かるか?」

「いちばん遠いやつが何言ってんだ……!」


 捕まえた少年の胸郭をめりめりとこじ開けながら、ゾードは笑う。すぐに粒子になって消えた肉体をあざ笑いながら、「違うなあ」とつぶやいた。


「人はやる(・・)からさ! 暴行罪、脅迫罪、詐欺罪、殺人罪!! 禁じなきゃならねえ行いを、人は決まり事にして抑え込んできた。ケツ穴でやるといろんな病気をばら撒くってんで、滅びの模倣(ソドミー)なんてあだ名もつけて規制したらしいぜ」


 錯乱して飛びかかっていったパワードスーツが、首だけを斬り飛ばされて消滅した。


「むかーしむかし、法律が守れねえやつはそのまんま死んでたのさ。生き残るための線引きを破ったお前らも、当然死ぬ」

「お前が法律だとでも言うつもりか!? イカレた人殺しのくせに!」

「そういうこと言うにはな、一人も殺してないやつじゃないとなあ」

「じゃあお前がだろうが!」


 迫りくる死から逃れようと、ディボルは必死になって抗弁した。しかし、歩み寄るそれは止まってくれない。


「守ってもらえる範囲の外側に出たら、奪い合いやら殺し合いに参加したのと変わらねえんだよ。お前らみたいな雑魚でも生き残れるように、法律はあるんだぜ。初めてルールを破った気分はどうだった? 気持ちいいよなあ?」


 化け物ではなく人の論理が、容赦なく喉元に食いつくような……あまりに異様な矛盾に、抱きしめながら首を絞めるような、奇妙な感覚に襲われた。


「さて、お前らの雇い主はヴァイスってやつだったよな? いろいろゲームを渡り歩いちゃあ暴れまわって、奪ったもんでRMTして小銭稼ぎしてたクズだが」

「言われたよ、お前みたいなのがゲームの寿命を縮めるって……! PKがはびこるようなら、VRMMOはすぐ終わるよ!」


 精いっぱいの反論は、鼻息ひとつで流された。


「さてと、VRゲーで人殺しをやるときにはな、死ぬときも楽しめるようにしとかなきゃならねえんだよ。どてっぱらをブチ抜かれるのもそうだし、首がすっ飛ぶのも、肩口から袈裟切りにやられんのも、なかなかいい」

「狂ってんのか、お前は!?」

「お勉強の時間だぜ、ガキ……まだ守ってもらいたいなら、法律の中に帰んな。まだまだやれるってんなら、これからも楽しもうや」

「ま、待てやめろっ、やめろ! こっちに来るなァ!」


 パワードスーツがすでに破損していた足が、アンカーに射抜かれる。


 青年は穏やかな微笑みを浮かべながら、チェーンソーを真っ赤に染めて、腕を肩から切り離した。


「おっとっと、死んじまうとこだった。お勉強は一生モンだからなあ、軽く済ませるのは教える立場としてよくねえ。こんなんじゃ面白くねえもんな」

「おいやめろ、やめろって! 近付けるなっ、おい!! やめ、やめてくれっ、やめてください!」


 下から上に流れていくベルトの動きが、とてもゆっくりに見えた。足は固定され、腕も動きを生み出さず、逃げることはできない。


「お願いします、もうしない絶対しない! だから、だからやめっ」

「よーく覚えとけよ。な!」


 視界が赤いもので埋め尽くされ、必死の抵抗さえ無駄に終わり、何かが顔に触れるのが分かった。一秒に百回ビンタされるような感覚と、すさまじいエンジン音と、自分の声とは思えないほどの絶叫が意識に満ち満ちた。


「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」



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