191話 第■真相・2
では、これにて一旦更新停止とさせていただきます。
どうぞ。
(ここでもNOVAはちょろいものだね、あっさり現実まで貫通されて架空の人物を受け入れてさえいる。ネットワーク上に何百も虚構人物がいるようだけど、本気で気付いていないらしい)
ゲーム会社に出資する架空人物のアカウントをいくつか作り、商談をメタバース内で終わらせる現代人のやり方を使って、カバーストーリーの補強を助ける。裏面の到来は起こっていないようだが、どちらも「世界の消滅に巻き込まれて消える」という性質は変わらない。狙いを逸らせるのなら、作っておいて損はないだろう。
現実世界への対処以上に、彼にはやることがあった。
量子マーカーの独立は、良い面もあれば悪い面もある……それ自体に思考領域が設定されている場合、生命の核となって自律行動を始める可能性がある。その最たる例が「NPL=ノンパーソナライズド・ライヴギア」だった。
「反応はここか。すこし……厄介だね」
ゲームプレイヤーの初期位置に近いということは、誰の目にも止まりやすいということである。じわりじわりと黒い液体があふれ出し、地面が陥没する。岩山の影に隠れているために何とかなっているが、情報秘匿には向かない。
(セデムの一種でないだけマシか。しかし……)
液状化現象をもとにしたのであろうそれは、黒いスライムのような化け物だった。おそらくは液体のライヴギア、序盤から存在してはならない、災害そのものの能力である。幾筋もの光を撃ち出し、光の矢を大量に射かけて攻撃するが、ほとんどひるまない。
汚泥のようなものを飛ばすNPLは、砂地を徐々に泥沼に変えていく。焦りからか反撃が遅れ、もっとも重要な股間に汚泥が命中する。強烈な臭気と白煙を上げながら、マンモスの牙を使ったペニスケースは折れ曲がった。
「くっ、しまった……!! このままでは……っ」
「これ使え!」
どこからか、マンモスの牙が二本飛んできた。装着していたそれを引っこ抜き、スペアには少々小さいそれを尻に装着する――股間に牙、尻にも牙、前後不覚のマスキュリズムが顕現した瞬間に、男は回転を始める。たぎるエネルギーは黄金に輝き、まばゆい光で夜さえも照らす。
「なんだっ、金の……!?」
「シャイニー・ボールッッ!!!」
黄金球からほとばしる光は矢に変わり、なだれのごとき圧倒的な数でNPLを撃ち抜いていく。ほとんど地面と同化し、地中に逃れようとしたコアは、牙の先端から放たれた矢で射貫かれて破損した。
「ふぅ……危なかったな」
「面白いなあ、あんた。服も着てないのに、刃が通りそうなところが見当たらねえや」
ふ、と男は笑う。挑んでくる人間はいたが、勝てるつもりでいるものばかりだった。真の力を見ていなくても、倒せる可能性を感じるほど近しい能力数値ではない。
「お世話になってしまったね。君は?」
見慣れた男の聞きなれた声を待った――そして。
「ああ、ゾードだ。そりゃ骨か? 初日から使える能力じゃねーだろ」
「ははは……僕は管理者側でね。バグ取りをしていたんだ」
「ほお。いろいろ大変だな」
「やりがいはあるさ。いろいろとね」
男は気付いた。
(“ゾード”。やったぞ……遡逆と混濁、両方の性質を持ったミームが誕生する世界! そして、もっとも確実な未来が存在する世界!!)
自分とは血のつながらない彼の笑顔は、幾度も見たものと同じだ。
「僕は「スズコ」。低温で溶ける「錫」に、小児の「児」で錫児だ。よろしく」
「おもしれー名前だな。まあいいや、仕事の邪魔だったか? 俺は行くぜ」
「後でまたお礼をさせてくれ。世界が救われたお礼をね」
「大げさに言うなあ。デカいこと頼んじまうぞ?」
何度も体験したはずの時間は、どうしようもなく熱い涙をこぼさせた。去り行く背中が、あのときの背中と重なる。
(あなたにも、あの人にも、これ以上の涙を流させはしない。泣くのは僕だけでいい……あんなに幼い涙なんて、いくら流したって惜しくはないのだから)
男は、次の出力ポイントに移動した。
〈フォーガトン・ペイシェント〉
稼働用水:ブルーオーシャン
安定剤:ミゼラティアー
着色料:ハイダーポリューション
反応薬:テクスタール
情報を食い、より密度の低いものを侵す環境改変ライヴギア。汚染環境内では状態異常やダメージがより活性化し、敵対者が失ったHPを使用者本人にチャージする。
更新停止の理由なんですが、PVの低下以外にもその……ぶっちゃけると、スタレのオンパロス編が私のやろうとしてたストーリーとめっさかぶってまして。私がやる意味ないことはやんなくていいってスタンスなので、もっと面白いことをしたい。新作のウケが悪すぎたら、こっちに戻ってくる可能性がないとはいえない()次に投稿できるのは『クイド』のプロローグ、あるいは『真面目ちゃん』だと思います。あとXアカウント作ったんだけど使い方わからん(ネット音痴)。




