189話
どうぞ。
家に帰ると、疲れがいい具合にふんわり上がってきて、ちょっと眠くなった。そして、なんだか肌に違和感がある気がする……電子レンジでココアを作ってリビングで飲んでいると、姉が帰ってきた。
「ただいまー。む、さすがに髪の毛が乱れてるなー、プールどうだった?」
「めっちゃ泳げたよ。クロールはもうやんない」
「息継ぎのタイミングだよねー。あと、水中で鼻息出しとくと鼻に水入らないんだって。女子としてはちょっとあれなんだけど」
「そうなんだ……? でもやだ、足バタバタもあんまし進んでる感じしないし」
アドバイスはありがたいけど、自分に合わないことを繰り返しても上手くはならない。ゲームでもさんざん経験してきたことだ。よーしよーし、と頭をなでられていると、心地よくてさらに眠くなってくる。
「二人とも、早めにお風呂入っとく? カリナも疲れてるでしょう、今日は」
「ん、そうする……」「おねがい、お母さん!」
いつものシャツとドルフィンパンツで、露出している肌が多いからか、姉はすりすりとあちこちなぞっていた。
「やっぱちょっと日焼けしちゃってるなー。お風呂入ったら痛いよ」
「えっ、あ……そっか。別に肌が強くとかはなってないんだよね」
「そんな便利な体になるわけないでしょー。今日は髪だけ洗うね」
「お、おねがいします……」
水泳がどんな感じだったか、と姉としばらく話していたら、お風呂が沸いた。部屋に戻ってタンスを開ける――縦ひだの入ったおしゃれなノースリーブと、姉のおさがりのホットパンツを出した。横にプリーツスカートみたいなものが付いている、かなりファッショナブルなやつだ。生地はわりとふわっと気味だから、ちょっとイメージと違ったのかもしれない。
下着はどれがいいかな、とちょっと考えて……落ち着いた緑のような、でもちょっと金色みたいな、ブロンズのような色をしたものを出した。縦糸と横糸が違う生地を使っているそうで、シックに大人っぽくなる。
「悩まないねー、カリナは」
「だいたいのコンセプト、すぐ決めちゃうからかなぁ。答えが狭いかもだけど」
アバターを作るときのように、「こういう感じ」をさっと決めてアイテムを当てはめていくから、早く決まるのだろう。姉のおさがりの服や、新しく買いに行く服もあるから、まだまだ広がる余地がある。
階下に降りて脱衣所に向かい、さっと服を脱いで浴室に入る。お風呂のふたを開けると、透明な湯気がほわっと出てきた。気温のせいかもう白くはないかと思えば、鏡はまだ曇る。かけ湯をすると、肩や腕がかなりヒリヒリした。脚もピリピリするけど、上半身の方がより痛く感じる。
「うー、いったぁ……」
「学校はね……日焼け止め禁止じゃないけど、屋外プールだと日差しすごいからねー。今日わりと曇ってたから、まだマシだと思うよ」
こすると痛いから、と髪の毛だけ洗ってもらう。
今ならプールやお風呂で髪の毛をまとめる理由もよくわかる……プールにはいろいろ浮いていて、あれを髪の毛に巻き込んで上がってくるのは絶対にイヤだった。まとめなかった髪の毛をぶわっと広げていたら、泳ぐのに邪魔になるだけじゃなくて――と考えると、身震いしてしまう。
「どうしたの?」
「ん、髪の毛まとめる理由、よくわかったから」
「でしょー。あっそうだ、男子の反応は?」
「そういや聞けなかったなぁ。黙秘されちゃった」
でしょうよー、と姉のにやにや笑いが小さく聞こえた。
「出るとこ出ててほわほわなんだもん、あたしだって可愛がっちゃうよー。好きな人とかできたら連れてきてね、女の子でもいいよ」
「うーん……今のとこ、いないよ」
仲間はいるけど、それ以上に仲良くなりたい人はいない。ざあっと髪を流しながら、自分の周りにいる人を思い浮かべた。強くなったとき戦いたい人はいるけど、それ以上に何かしたいとは思わない。
「お姉ちゃんは? 好きな人とかいないの?」
「そーだねー、あたしも美人なんだけどねー。でも、恋愛してる暇ないから」
「元からだったの? マッサージやるって言ってたの」
「前から上手かったんだよねー。それに、福祉系の大学行ったら、どこに進んでもそこそこ収入いいし」
今はカリナが可愛いからだよ、と姉は後ろから抱きしめてくれた。
「それにほら、いっぱいむにむにできるし?」
「そんなにえっちなこと、お客さんにしちゃダメだよ」
「じゃあ今するー」
「にぇひゃいっ!?」
日焼けの痛みも忘れるくらい、いつも通りのお風呂だった。
次回から畳みに入ります。




