表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/191

185話

 どうぞ。

(ああ――。これだ。これだ!!!)


 腕から全身を貫く激震。現実ならば、とうに武器を取り落として腕を押さえていてもおかしくないほどの、全身が爆発しかねない衝撃。純粋で色のない殺意――敵意も憎悪もない、うつくしい透明が凶刃を振るう。


 赤、青、緑、紫。いくつもの色を帯びた斬撃が舞い、赤く燃えるチェーンソーと打ち合う。どちらが優勢とも言えぬ剣劇は、あるときの焼き直しでありつつ、あのときとは比べ物にならないほどの力がぶつかり合うものに変わっていた。


(こいつ、ブラフでも何でもなく、マジに〈割鉈の型〉だけでやってやがるのか。コアレベル60ちょい、ぐらい……バカげてる、強いわけだ)


 ライヴギアは、それぞれの形ごとにさまざまな特殊性を持つ。要求コアレベルの最低値を満たすことで使用できるため、並列使用も可能である――が、コアレベルだけですべてを測ることはできない。楽器は基本的に両手で演奏するものであり、砲台を配置しても、見えない範囲の思考操作にはやや不正確性が残る。


 ゆえに、コアレベルの許す範囲でいくつものライヴギアを使うよりも、同時使用できる中で最強の手札を選ぶ方が、結果的には強くなるとされている……余剰コアレベルが強化に回されるとなれば、なおさらのことだ。


 無言で振るわれる刃が、秒間に捉えられる限界に迫る数の斬撃をぶつけ合う。防御をすり抜けた色彩はお互いを切り裂き、赤を散らす。


(そうだ、これだ……。憎しみじゃねえ暴力、相手と同じことを考えてると思ったら、いつの間にか無になれる瞬間。お互いが無になる激闘!)


 怒り、憎しみ、悲しみ、欲望、使命感、虚無感――そのどれにも起因しない、ひたすらに純粋な暴力がそこにあった。格闘技に打ち込んでいたときには味わえなかった、まったく何のリスクもない、感情の伴わない刃。


 夕陽を見るときの、感動というひとつの言葉に塗りつぶされるような。


「すっごく、楽しそうですね」

「ああ。最高だ」


 パワードスーツを身にまとって肩にロボットアームを展開し、いくつもの砲塔からビームを発射する。その場でくるりと回った少女は浴衣姿で琵琶を手にして、ビームを防ぎながらロボットアームを破壊してみせた。


 ならばと多脚戦車を展開し、コイルガンで少女を狙った。即座にムチを手にした黒いレオタードの少女は、ムチが発生させた力場で電磁加速された砲弾を逸らし、戦車の装甲をゾゥンと切り裂きながら巨体を絡めとり、横転させた。


「馬鹿みてえに強いじゃねえか。よ、っと……!」

「クエストが難しかったぶん、なんでしょうか……」


 ライヴギアにおける機械カテゴリの本領は、パワードスーツの腕に工作機械を取り付け、攻防一体の鎧を形成することにある。無課金でも使える、初心者向けとされがちであり、玄人にも好まれるが……欠点がないわけではない。


(成立に必要なコアレベルが軒並み高い、しかも併用前提だから、ひとつひとつが強くならねぇ。基礎スペックが高い分で乗り切れちゃあいる、強化をほかに回せるから目立ちにくいが、全体の強化幅はいちばん低いんだ)


 正統強化版の機械鎧を着こみ、右腕に取り付けられた単分子パイルを振るう。金属と和紙とは思えない衝撃音が夜に轟き、塵埃が噴き上がった。ふつうなら破損するはずのムチの被覆は、当て方もあるのだろうが、まだ少々傷ついた程度にとどまっている。


(紙の本領は、コアレベルの低さ。単一性能特化を究極まで高められること。このムチはたしかに「無尽」だが……一度も壊せないようじゃ「無限」になっちまうな!)


 フィールドを破壊する〈ウォッシャー・スマッシュ〉が、いくつも発生した球状の力場を消滅させた。ごくわずかなディレイの間に、足首に巻き付いたムチがゾードを持ち上げる。それが予備動作だったのか、ゾードの身体はきりもみ回転を始める。


「ぐっ、う……おっ!?」


 ぎりりと腰を締め上げたムチがぐっと引き上げ、三半規管が対応を始める前に、奇妙に糸を引いた視界に新緑が躍った。バパァンッ!!! と連撃が体を襲い、地面に体が落ちる。肌に当たる小石の感触は、鎧が粉砕されていることの証左だった。


「なぁ。これからも切り合ってくれるか? ザクロ」

「もちろんですよ、ゾードさん」


 言葉を聞き終えた瞬間、出血ダメージがHPをゼロに追いやった。灰色に変わっていく視界の中で、エロティックな少女は妖艶に微笑んでいた。

通じない版

「なぁ。これからも切り合ってくれるか? ザクロ」

「もちろんですよ、ゾードさん」


日本語版

「大好きだー!!」

「しょうがない人だなぁ……」


※通じていません


 これまで言ってなかったムチ=〈柳尾の型〉のコンセプトは「伝播」、でもクエ報酬のやばつよアイテムだから特性は「無尽」、ちょっと違ったりする。絵語が被覆を補填するためほかと比べてぜんぜん壊れない(劇中で登場からこれまで一度も破損なし)バカつよライヴギアなのだ。「増えてなくならない絵」「蛇」「覆い尽くす/植物」などなど、モチーフは配置してたんだけど説明してなかった……単分子パイルもクエ報酬、これと同じくらい強い。でも技のレパートリーがね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ