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184話

 どうぞ。

 すっと跳躍した少女が、地面を砕いた腕に飛び乗る。そしてそのまま登ってきた。


(グラフィックに反映される靴。下駄が本来のニンジャで、ハイブーツが壁歩き用か。よくもまあ、こんだけ揃えやがって……こういうフェアネスだけちゃんとしてやがるくせに、性能がなんにもフェアじゃねえ)


 桜色の浴衣に着替えた少女は、結び髪をふわりとしならせて結界を張る。異様に大きなジャングルジムのようなそれは、〈レクスバイン〉を覆うほどのスケールだった。


『なんだ、こりゃあ? けっこうな強度だが……』

「ちょっと準備です」


 未強化状態のパンチでは壊れないほどの、細い線。物質を消滅させるコストを支払っているせいか、特殊鋼に匹敵する強度である。す、と切り付けて小さなパイプを切った一撃を、ゾードは舌打ちしてさらなる思考を巡らせた。


 動きがにぶい分だけ、こういった大きさの差を利用した戦法には弱い――当然といえば当然だが、それだけで終わってよいはずがない。


(そうだなぁ。普段使いするやつがひとつもねえわけだから……ここでぶっ壊れても、別に構わねぇのか)


 リアクターの出力を上げ、エンジンの回転数を上げる。まるでめまいを起こしたときのように、外部視界モニターがチリチリとノイズを走らせた。いくつか当たっている手裏剣は、威力こそすさまじいものがあるが、こちらの拳に比べればまだ弱い。


 ドドドッといくつも当たる風のドリルは、赤くなった手刀で切り伏せられた。


「モードチェンジ……!?」

『ただの暴走だ。自壊はしないみたいでな、なかなか強いと思うぜ?』


 ひたすらにただ一色、彩りのない鋼に覆われていた全身が、奇妙な赤に変わっていく。ニンジャが登っていた柱が拳の一撃で麩菓子のようにさくりと折れ、回し蹴りを避けられなかった分身が砕け散った。


 がっと開いた手のひらから放った光線は、しかし弦の音ひとつで防がれた。どんなゲームでも、楽器は「戦いには使えない」というイメージから、逆に異様に強く設定されがちだ。岩ごと地面を蹴り上げてニンジャを散らし、センサーに映った少女へまっすぐに拳を繰り出した。コックピットまでもが激震に襲われるほどの硬度が、それを受け止める。


 そしてひとつ、気付いたことがあった――


「あの、ゾードさん。ちょっとその、言いにくいんですけど……」

『いや、案外同じことを考えてるかもしれねえ。言ってくれ』

「お互い、いちばんの得物で戦いませんか? 体ひとつで」

『……お前も思ってたか。そうだよなぁ、体感覚操作じゃねえのがちと不満だったんだ』


 VRゲームにおける人体切断の感触は、リアルのそれとは違うらしい……と、ゾードは聞いていた。実際に同じような感覚にすれば犯罪の抑止になるかもしれない、再現するための資料作りの段階で投げ出した、などなど風説はいくつかあった。結局のところ、それらは「やわらかめの薪割り」あるいは「緩衝された固いウレタン」という、分かるようでわからない表現に収まっている。つまるところ、実物とは違うのだろう。


 操縦桿から伝わってくる感覚は、ゾードの求めているものではない。出力を落としたライヴギアは、ギリギリで破損せず収納空間へ帰っていった。


「悪いな。わざわざカネかけて装備揃えたんだろ?」

「いえ。ちょっとインパクト弱いかなって思ってましたから」


 若草色の着流しに身を包んだ少女は、手にそれを握った。


 長さは七十センチ、幅は十センチほど。質のよくない紙を束ねて作った形はかなり四角く、しかし先端でわずかに反り返っている。鉈とみるか刀とみるかは、本人の考えにもよるだろう。幅が広すぎるだけで、マグロ包丁にも似ているかもしれない。ゾードはそんなことを考えながら、得物を握った。


「開拓用の道具だったか、ライヴギアは。マジに開拓しなきゃならねえなら、いろいろと使えたんだろうな。さっきの結界も、あんだけの強度のシェルターになるんだろ? 準備が必要でも、クソ強えじゃねえか」

「開拓って感じのことはしてませんね、たしかに」


 チェーンソーとブロードソードの合いの子のような、やや複雑な機構。小さいながらパワーは恐ろしく高く、剣の部分が折れるリスクさえ除けば、切断力は最強である。


「デカいことをするのもいいが……たった一人ぶった切るにも、それ以上に手間がかかることだってある。あんだけいろいろ持ってるお前も、あっちこっち行ったり、俺らを突き合わせたりもしたっけか」

「そうでしたね……。なんか、いろいろお世話になっちゃって」


 いいってことよ、とゾードは笑う。


「ネトゲってそんなもんだろ? それに、俺のやりたいことはひとつだけだ」

「ふふふっ……あなたは、そうですよね」


 鞘に収めるような、居合い斬りの構えを見据える。迎え撃つように、横切りの構えを取った。一歩、一歩と後ずさり、威力と軌道を計算する。次の一歩、そして次。ここ、と見計らったタイミングが重なった。


「はっ!」

「らッ!!」


 刃が、交わった。

 じゃあ今日は日本滅亡の日()ってことで、本作の終わりに関する話。


 じつは、本作の最終話はすでに用意してあります。本作の世界観では、読者から見た物語の終結はすべて同じ場面に収束しますので、シナリオを消化せずにたどり着いたベターエンドって感じになっちゃいますね。ベストエンドでも場面は同じ、見えるものが変わってくるのとテキストも追加される感じかな。


 で、現在新作を書いてるのと様子見をする必要があるので、この三章でいったん「上」と銘打って終わるか、タイトルに「一旦完結」「更新停止中」ってつけるか悩んでいます。その場合は「最終話」は投稿しない予定。話を考える時間もね、いろいろ必要でね……前みたいに「ネタ切れした」ってネタを使うわけにもいかん。


 ネタ作ってる最中にちゃんと伸びるなら書く、ふつうに新作できあがったら出す、どっちも伸びなきゃあまた次の新作……ってことで、はい。そのころには次の流行りも来てるかもしれませんな。

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