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180話

 なんかえらくPVが伸びてたので、早めに更新。クソチョロ大回転しております。


 では、どうぞ。

 紙カテゴリのライヴギア〈舞隊の型〉は、どうしようもないくらい使いづらい。すさまじく入手しづらいアイテムばかり使うせいか、要求されるレベルが高すぎるのだ。


 さっと投げた五つの連結手裏剣は、ひとつしか当たらなかった。おかしな軌道を通ってひょろひょろ飛んでいった手裏剣を、分身が拾って敵に投げつける。当たって落ちた手裏剣も空中で拾われて、また敵に向かって投げつける。


 ボーラなのか手裏剣なのか分からない〈新生:整座流揺〉は、「パスするたびに威力が上がる」という特殊能力がある。分身能力を前提にしているから、どういう運用が正解なのかは分からないけど……クセの強すぎる装備とライヴギアの組み合わせとして、こうして使えてしまっている。


[kikikuk]


 ほかのライヴギアがどういうモチーフなのかよく分からないなかで、これだけはものすごく分かりやすい。「人件費」という言葉の擬人化、それが〈舞隊の型〉だ。紙幣を大量に消費することで人数を揃えることができる、一見すると強力なようで、それだけでは投資は終わらない……見た目を決めるフィルムこそ本体と同じだが、フルスペックを発揮するために、武具を全員分揃える必要がある。


 実体装備を十三人分も用意するハードルは、恐ろしく高い。ものすごい数の鉱石系素材を手に入れたり、ほとんど手に入らない不完全遺物を掘り出したり……一人分をまともに揃えるだけでも難しいのだから、一人で十三人分、なんて正気の沙汰ではない。


 はずだったのだが、今回俺が必要としているのはフルスペックではなかった。


「三体中二体が空中戦、苦戦必至だよね……なーんて!」


 そこらで買える、ちょっと回避率が上がる指輪が五つ。そして〈軌底貼靴〉――「壁や天井を歩くことができる」という能力のある靴が十足。それ以外の性能はないが、敵に貼りつくこともできる、これまたクセつよ装備だ。


 壁を歩く何体もの分身、地上を走り回る分身、ライヴギアばかりが活躍していた。俺は気合避けとたまに来るパスを渡す程度でほとんど何もしていない……いちおう緑属性の技だからと〈一刀隼風〉を使っているが、アラクネにしか当たらなかった。どんどん上がっていくダメージに耐えかねて、アラクネは早くも爆散する。


「あ、渡せばいいのか」


 当て具合がどうだろうと壊れない刀〈新生:独呼磋縛〉を、鎖をながーく伸ばして投げる。分身を動かすAIは俺の行動を学習済みなので、壁にいた分身が鎖の途中を持ったまま〈一刀隼風〉を使った。


 ブォウンッッ、と恐ろしい音を響かせながら刀は通り過ぎ、アナログ飽和攻撃にさらなる一手が加わった。コアレベルに影響しない〈秘奥珠貝〉も出して、さらに〈紫沿誘灯〉をいくつも放つ。天使のようなエネルギー体は空中でぐらんぐらん揺れ始め、回避がままならなくなった。


 ズギュ、ガシュ、ギャリッと手裏剣は敵を削りまくり、貝のビームは敵を揺さぶり……広大なスペースを丸ごと断ち切るような軌道の刀は、回避する方向を制限する。異形の天使は墜落して消滅し、いよいよ古代魚型の浮遊艦だけになった。


「通常エンカウントで中ボスくらいのスペック、なのかなぁ」


 一人で三体を相手にしていれば、絶対に勝てなかっただろう。ほとんど何もわからないまま相手が倒れてしまったけど、前に戦ったケンタウロスのように、モードチェンジなんかもあったに違いない。こんな強敵を各個撃破もできずに全員モードチェンジ、なんて地獄になっていたら、そんなものないけど台パンものだっただろう。


 五つ同時に命中した手裏剣と集中したビームが炸裂し、古代魚はついに墜落した。ほんの数度しか当たっていない刀だが、耐久値は一割も減っている。攻略しようとやってきた猛者たちが撤退していくわけだ、と納得しつつ、俺は歩みを進めた。


 思い思いの壁や天井を歩く十四の足音は、ときおりアイテムを見つけてはインベントリに放り込んでくれる。宝箱や拾えるものはガン無視していたが、AIの判断としては「当然拾うべき」になっているようだ。


「耐久度は……戦闘中以外減らないのか。短期決戦で終わらせないと、えらいことになっちゃうな」


 紙幣を補充するのは大変だ。正直、あのダンジョンには二度と行きたくないし、都合よくギミックを起動させられなければ、その時点でおしまいだ。閉鎖空間で戦うときの切り札として、ほんとうにいざというときまで温存しておくべきだろう。


 以前と同じルートをたどれているかどうかは、微妙にわからない。けれど、奥へ奥へと進んでいる実感はある。たくさんの足音が小さく響くスペースが、だんだんと縮んでいるように思えた。以前に入ったときはどうだったのか、時間が空きすぎて思い出せないけど、周囲のディティールがだんだんと細かくなっていく。




『……待つ、という言葉はあまり使わないつもりでいたが。一度でもそう考えてしまうと、数日も数週間も数か月も、これまでの年月とは比較にならないほど……無為に長く感じてしまうな』


 遠くから細く響く言葉は、聞き覚えのある低音だった。


『すこし、やる気を出しすぎたか。ソルドたちは死なぬからと、いくらでも強いものを作っては放流した。倒せるものがあまりいなかったようだ』

「あなたがやってたんですね。ちょっと、やりすぎです」


 おもてなしに凝りすぎたせいか、ちゃんと奥に来てくれる人がいなくなって、これはこれでちょっと困ったことになっていらようだ。うきうきでロボを用意しまくっているイカを想うと、ちょっとシュールで面白かった。俺より強いゲーマーなんて山ほどいるはずなのに、ここがこれまで攻略されていなかった理由もわかった。


「今日は、倒しに来ました。ブレイブもいただきます」

『くくくっ……大言壮語、じつに好ましいな。ここへ初めてたどり着き、配置したものを超えてきただけのことはある』


 苔むしたイカのようなシルエット、各部に刻まれた魔法陣。機械というよりは巨像に魂が宿ったような……この世界の法則からは逸脱した何者か。


『見せてくれ。人に残された希望が、我ら亡きあとに未来を存続させうるか否か』

「はい」


 ニンジャのフィルムを第一コピー体に渡して、俺自身は〈調弦の型〉を取り出す。


「――いざ」

 引き続き友人に指導をもらって……る内容が、わりと研究解剖で出てきた内容そのまんまで、たくさん血を流しております。ぐぼッふ(吐血)


 あ、そうそう。



「舞隊の型」

心材:枝倍一座しばいいちざ

色彩:二蒼偏幻にそうへんげん

絵語:三方傑集さんぽうけつじゅう

被覆:脱環四幣だっかんしへい


 本体のステータスを完全に反映した、十三人の分身を生み出すことができるライヴギア。ステータスや習得したスキル・特技もまったく同じだが、それぞれに装備をセットしないと十全に機能しない。砲台を大量に増やせる「十精の型」「三鳥の型」の方が使いやすく、「割鉈の型」「調弦の型」のように武器スキルを使用可能になることもないため、本物の富豪でなければ使えない。


 金銭カネこそ力、人は力、設備も力。夢色のたわごとを吐く暇などない、日々追われ日々歩むモノトーンの群れこそ、人の生きる姿なのだ。

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