18話
どうぞ。
仲介人に手数料を渡して、出品したアイテムをリストに並べてもらう。そして、リストの中からアイテムを探して、品質と価格が釣り合っていれば買う。プレイヤー間での取引ができる「マーケット」の仕組みは、そんな単純なものだった。
実体のないショーウィンドウのようなものが並んでいて、ひとつひとつが検索端末になっているようだった。システムウィンドウに用意された検索機能を使うことで、種類や名前で目当てのアイテムを見られる、書店なんかでよくあるシステムだ。何人も検索している人はいるが、別のエリアもあるようで、近くにいる人は少ない。
「とりあえず買う方が先かな……? 紙と色彩、と」
ライヴギアの部品を検索すると、思ったよりも多く出品されていた。初日であるせいかどう扱っていいか分からないようで、どれも値段が安い。逆にむちゃくちゃに高い値段のものもあるが、これは真剣に見なくてもいいだろう。少なくとも、高額である理由を知る必要がある。
新しい型を作れそうなパーツを揃えたが、作ろうとした瞬間に[セットを上書きしますか?]という警告が出てきた。
「あ、そっか。コアレベルが足りないんだ」
パーツを揃えたときに作れるセットは、コアレベルが増えるほど多く登録できる。ゾードの説明を聞いた限り、ふたつめのセットを登録できるのはレベル十を超えてからだ。ここであえて最初のセットを捨ててもいいのだが、わざわざ買った「仕損粗紙」はまだまだ死ぬほど余っている。ほんのわずかの投資でも、丸ごと捨てるのは愚かな行いというものだろう。
レシピ候補はすぐに出てくるので、ふたつめで狩りをしてもいいのだが、最初のように扱いづらかったりすぐ壊れたりすると困る。
「〈調弦の型〉か……楽器かな? レベル上げてからだけど」
お風呂までの戦いでレベル8になっているので、ふたつめのセットが解禁されるまでもうすぐだ。さっそく、街の外に出ることにした。
最初の街であるへスタは、サイボーグ動物がうろつく「シュウイ平原」の中にある。防壁に覆われた街の出口は三つあり、それぞれのエリアで出てくるものが少しずつ違う。最初に行ったところはオオカミとワームで、今度はサイボーグ恐竜ばかりだった。ちょっと早くて攻撃は痛いものの、首元を狙えば瞬殺できる。経験値はそれなりに多くて、かなり倒しても耐久値が減りにくい。
なんとかレベルが十になって、ふたつめのセットを作ることができた――が、こちらは節約とは無縁の浪費型だった。ふだんの狩りをするときは、やはり〈割鉈の型〉で挑んだ方がよさそうだ。
「こなれてきたなぁ。コアレベルとは関係なさそうだし」
弱点にクリティカルヒットを当てる工夫は、簡単とはいえないまでもかなり慣れてきた。敵の速さには〈一刀隼風〉のスピードで対応すればいいし、なんなら逃げにも使える。常識的な形をした敵ばかりなので、弱点を見つけるのに苦労もしない。
しかし、特技の扱いに偏りが出ているのは、思ったよりも大きな問題だった。袈裟に切り付ける〈紅葉落とし〉は、思ったよりずいぶん使いにくい。横切りだと弱点だけに当てられるのだが、縦切りだとそうもいかなかった。
「強いのになぁ、これ。〈四葬〉は即死あるからいいけど」
体の向きが縦になっている敵の方が多いので、例えば鎧兜で固めた人間に頭から切りかかるような、ものすごく武器が傷みそうなやり方だ。どこからでも弱点を晒しまくるワームのような敵ならいいが、あれも攻撃できるタイミングが少ないからこその構造だった。新技が生えてくるのを待つか、あるいは〈一刀隼風〉だけで粘るかの二択になりそうだ。
かなり長いスパンで考えても、〈割鉈の型〉の被覆は余っている。ほかの型をセットできるようになったら、とくに消耗を抑えたいときにあの刀に切り替えるのがメインになりそうだ。もしくは、試金石という立ち位置もいいかもしれない。
そのとき、がらんがらんと何かが鳴った。
[フィールドボスが出現します]
唐突に大当たりのベルみたいな音とアナウンスが響き渡り、周囲に人がわらわらと群がってくる。さすがに、このゲームでも強大なボスモンスターはお祭り扱いのようだ。
「あら! さっきぶりね、強い子」
「ザクロです。あなたは……」
配信を見ながら戦うのが趣味、と言っていた女性は「サラよ、よろしくね」と微笑んだ。
「さっそくですけど、サラさん。フィールドボスってそんなに強いんですか?」
「階級として王冠・玉座・光輪、それぞれのランク分けも三つ四つ……。アナウンスが出るのはゴールドクラウンからだから、強いわね」
下の上みたいな位置づけでも、サービス開始初日のプレイヤーには荷が重いだろう。知ってから知らずか多くの人が集まり、徐々に敵の登場演出が進んでいった。わずかずつ地面が盛り上がったかと思うと、剣の柄のようなものが突き出す。通常のモンスターであるサイボーグ恐竜たちが駆逐されてゆき、荒野は墓場めいた静寂に包まれていく。
月明かりだけが煌々と照らす大地に、手首が突き出した。
『knwtsg diitguk byumktth snbsemmnrntmer』
「このしゃべり方……機械だ」
「ベータのときにもいたわね、こういうの」
金属的な倍音で濁った声は、あのケンタウルスと同じような機械のものだった。地面から出てきた手首はかなりリアルな形状で、錆びや劣化は見えても、かなり精密な動きができそうに見えた。
『thie [LIVEGEAR]n sinujknh [Across Program]knkisn hgn』
ゾンビのような動きに反して、全身のデザインはヒロイックな鎧武者のようだった。月を背に立つ化石のような色をしたそれは、手近にあった剣の柄を持って抜き放ち、若葉のような緑へと変わる。いくつも続けて点灯したかがり火が、武者を照らし出した。
『tkihsrnskbnsetosnyudh mrindaren [Sold]dmy argugii』
正中線に沿って構えた剣が、ぎらりと妖光を放った。
病みすぎて「もう死なせてくれよぉ……」ってなってたら夢でお誘いが来てしまいました。軽々しく言うもんじゃないですね。っていうか以前のアレもそうだけど多すぎだろ、十人以上いたよね……父がよく見るという「廊下を通っていく人」って彼らなんでしょうか、それにしちゃ多かったですけど。何の集まりなの(困惑)
おっと、解説しなくちゃ……
〈調弦の型〉 ライヴギア:紙
コアレベル:21
心材:「響香抑詩」
色彩:「高奏紅潮・エイジング」
絵語:「名捨大扉」
被覆:「簡易符術・空糸抽象」
耐久値100/100




