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178話

 どうぞ。

 すっと〈調弦の型〉を出すと、相手は棒立ちのまま待っていた。


「あの」

「いいぞ、仕掛けてきてくれ」


 何を言っているのだろうか、と思っていると、相手は奇妙な手のポーズ……たぶん「印を結ぶ」という動作なのだろうか、何かの合図をとって骨の竜を召喚した。トシツキさんのライヴギアは骨なのか、と〈弓張月〉を飛ばす。すると――


「え? え」

「ダメだったか」


 がっしゃがらどしゃ、と骨の山が崩れる。


「戦うんじゃないんですか?」

「おれは慎重派なんだ。手札を選ぶには、時間がかかっちまってね……だから負ける」

「勝とうとしてくださいよー……」


 強いはずだったんだがなぁ、と相手は言うが、こっちのライヴギアもそうとう強化されている。成立に必要なぶんを超えたコアレベルは、本体性能の強化に回される。最初期の素材で作れて、必要コアレベルも20程度だった〈調弦の型〉は、すでに60くらいになったコアレベルの超過分でめちゃくちゃな性能になっていた。


「無刀取りってやつを試してみたかったが、これじゃあだめだな。だが、きみは大きいやつを相手取るのが得意みたいだから……」


 もう一度結んだ印から、ウマか何かのような獣の骨、長い魚か蛇らしき骨が続いて現れた。どちらもかなり大きく、大きさにして十メートル少々はあるだろうか、フィールドで同時に出くわすのは避けたいサイズだ。


「テストってことでいいかい? 遠慮なくやってくれ、強い人とやらないと意味がないからな」

「……わかりました」


 獣の骨は組み合わさってさらに巨大化し、三体分の長い骨は首に二本、尻尾に一本がくっついた。ぐわっと大きくなった頭蓋骨がトシツキさんを口の中に収納し、胸郭に収まる。すごく悪趣味な合体ロボのようなものが、そうやって完成した。


「じゃあ、こっちも半分くらい本気になります」

『まだ自信がないから、そのくらいでありがたいよ』


 ぐうっと持ち上がった首が、空洞の口から水流と氷を放つ――


 ぐっと鎖を引いた影が、俺を安全圏へと思い切り引っ張った。前から育てていた〈双士の型〉のAI行動はだいたい完成して、本体の指示を受けるどころか、本体を凌駕するほどの動きを見せることがあった。これもそのひとつ、敵の攻撃範囲を予測し、回避行動がやや遅れそうと見るや否やの無理やりな回避誘導をした。


 優れてはいるが、ちょっと扱いづらい。なので、鎖に手錠を取り付けて、急な誘導をされても取り落とさないようにと手錠をはめていた。〈双士の型〉は、それ単体で使うよりもほかの型と組み合わせる方が使いやすい。「半分ほど」と言ったからには、相手がやる気になるまで本気は出さない。


 べん、と鳴らした弦が飛んできた氷を粉砕し、水流を引き裂く。規定値の三倍ほどの力を持つせいか、出力が化け物じみていた。前に三十人を倒したことがあるけど、今なら倍の数でも相手できそうだ。


「じゃあ、ネタ技とか使っちゃいますよ?」

『ぜひ見せてくれ、強いんだろ?』


 手錠をいったん外し、足にはめる。そして、十秒以上も続く演奏を始めた。当然のように氷が降り注ぎ、水流が体すれすれを通り過ぎ、振るわれる尻尾もギリギリの距離を抜けていく。影は思いっきり引っ張って振り回すから、演奏しつつ、ビュンビュンぐわんぐわんと絶叫マシンも真っ青のスピンを決めていた。


 演奏が進むごとに、袖口から符がばらばらと飛び出す。空中にするすると描かれる線がぐんにゃりと曲がって、紙と骨組みが合わさった、スカスカの提灯みたいなものが出来上がっていく。ねぶたみたいだなと思ったけど、比べるとあまりにも不格好すぎるから、ちょっと失礼かもしれない。


音魚編(おとあ)みをどり〉という、符術と音楽系スキルを使うと習得できる召喚系の特技だった。演奏が長すぎるから、基本的にソロで戦う俺にはかなり使いづらい技だ。しかも、符とMPの消費量がかなり多い。〈十精の型〉や〈三鳥の型〉を使う人が、攻撃にバリエーションを生むために使うのがセオリーだろう。何より強いのは――


『こ、これ……!? 青属性じゃないのか!』

「紙は水には弱いですから」


 ほう、と吐いたのは赤・紫属性の〈鬼火〉だ。召喚時間が長くなると、禁断の二重召喚もやり始めるらしいが、さすがにそこまではいかない……とはいえ、速度を犠牲にして延焼し続ける怪火は、本体のHPまで削り始めていた。


 攻撃の手が緩まったので、やっと地面に降り立つ。影は刀で攻撃を始め、尻尾にあった魚の頭を砕いた。ただの衝撃波である〈静寂(しじま)波立ち〉をぶつけると、腕の骨に入ってきた亀裂が大きくなり、ついに脱落する。


『あぁー、降参だ降参! この骨は壊れないと思ったんだがなあ、音はダメか』

「ありがとうございました。実用性、ばっちり証明できました」


 正面から・尻尾が迂回した上から・両腕から、という五方面攻撃でも、〈双士の型〉の影はきちんと対応してみせた。それに、〈音魚編みをどり〉は聞いた情報しかなかったから、実戦で使う機会があったのはありがたいことだった。


「やっぱり、化石は音には弱いなあ。対人だとあんまりいないから、攻撃に全振りできると思ったんだが」


 骨のライヴギアは、骨の持ち主が備えていた能力を引き出せるらしい。変質した化石だと、魚がビームを放ったり鳥が石礫を落としたりもするそうだ。物理的な使い方以外なら、あまり頑丈ではない化石の方が何倍も強いようだった。


「改善の余地ありだなあ。じゃ、おれは使える骨を拾ってくるよ……」


 楽しそうにひげをひねりながら、トシツキさんはマーケットから去っていった。

 じつは一番人気の〈調弦の型〉、新技登場。なんか登場した回のPV数が飛び抜けて多いんですよね……作者的にも大好きなんで、パーティー戦があれば出しまくるつもり。水着回やりたいっつってから一年くらい経ってる気がする……加速しないと。

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