表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/191

173話 剝章/第六真相・3

 どうぞ。

 表と裏という概念があり、表裏一体という言葉がある。


 表の世界があるように、裏の世界もある――物理的には明らかに無理があるため、科学的には一考の余地もないとされてきた空想である。


 ところが、人の精神状態に応じて形状を変える分子が、ある廃屋の特定地点から発見された。精神に作用する物質は多いが、逆はない。既存の常識を覆す発見に世界は沸いたが、「念素」と名付けられたそれがつねにある形状を取ろうとする姿に、不穏なものを感じるものもあった。


 念素がある種の生物であると判明すると同時に、かれらが電子機器に強い親和性を持つことが発見された……完全に乗っ取られたある国の兵器すべてが、人類に牙を剥くという形で。それらは最終的にマーレスに飲まれるという形で終息したが、同じことがいつ起こるともしれない。事実の解明が急がれた。


 不思議なことに、かれらは電子的に再現された世界を「現実」として侵食しようとする性質があることも発見された。現実の物体を侵食することはできず、インターネットを介して広まる速度も非常ににぶい。かれらの浸食は、あくまで「電流の流れる物体」の域を出ないことが解明され、人はいったん落ち着いた――


 が、仮想世界はワールドワイドに広がっており、浸食された仮想世界から現実へ波及することで、懸念されていた伝播は成し遂げられることとなった。念素に感染した人でないヒトが誕生し、電子機器から電源へ、電源からつながるすべてへと、念素の浸食は拡大していった。


 これら念素の浸食事件は、しかし、人類滅亡に直結することはなかった。上述した通り、かれらは電流あるいは仮想世界という媒介を必要としたからである。データを削除された仮想世界は、なぜか増殖した念素ごと消滅した。ゆえに、ターゲットを分散させて浸食を食い止め、かれらが総力戦に出たところで世界そのものを削除する……このような戦法が最適であり最良とされることとなった。




 小さな部屋に座っている状態でログインしたザクロは、部屋を見回した。初期位置から移動しないことでイベントフラグが発生する、などというゲームも珍しくないからだ。今回は違ったようだ、と少しがっかりしつつ立ち上がり、扉を開けて外に出る。


 飽きるほど見たディティールがそこにあった――「何らかの方法で破壊されたまま修復されていないビル」、それに「天を衝く巨大な建造物あるいは樹木」。世界観を端的に説明し、話を広げやすくするための「何らかの敵」の存在を匂わせる造形である。


「おー、ここまで見えてる。たーまやー」


 遠い爆発音と、立ち昇る煙。キャラクリエイトは手早く終えたつもりだったが、一瞬さえ惜しむものも多いからだろう、すでに人は揃っているようだ。使命を忘れたわけではないが、彼女は父から受けた教えを心に刻んでいる。



――どうして遊び人が賢者になれるかわかるか? 思ったことあるだろう、遊び人なんて遊んでばっかりで、バカみたいなのにって。


――力を抜くことと、ちゃんと笑うこと。このふたつを知らないと、ぜんぶ知ってることにはならないんだ。ずっと全力でやってて疲れちゃったり、何しても楽しくなかったり。そんなやつは、波がどんどん平坦になってく。


――波のいちばん高いとこを知って、それを引き出せるようになること。ちゃんと自分を波立たせること。モチベーションだ。「笑ってるやつが強い」のは、やる気を出す方法を知ってるからさ。


――だから楽しめ! 笑ってていいんだ。ほんとの本気は、ちゃんと笑えるやつにしか出せないからな。



「ふふっ。いつも楽しいものお出ししてくるもんね……」


 ちりん、と鈴を鳴らす。袖に仕舞っていた札がしゃらしゃらと飛び出し、薄っぺらい影のような、白い人型をとる。すすすっと並んだ六人の影に、ザクロはちりんと鈴の音ひとつで応えた。


「やっぱり鈴だよね……」


 手で振るうものではない、いわゆる「ネタ武器」といわれるたぐいのものは、VRゲームでは隆盛の極みにある。音が合図に使われる、という歴史がある鈴は、召喚や使役に関係する武器になった。


 自分に付き従う六つの白影に、長く鳴らして合図を出す。いくつもの白が、巨大な黒へ向かっていく。そこで、風景の色が変わり始めた。


(あれ、――夢?)


 ふんわりとした暖かさと、前髪にかかる寝息。


(お姉ちゃん……)


 忙しいからか、さっさと灯りを消して自分のベッドに入っていく姉が、自分と抱き合って寝ているかのような――存在しない現在の体験が、徐々に自分の体に浮かび上がっていく。


「ん、お姉ちゃん……?」

 新しい力の匂わせ。じつはまだまだ尺が余ってるから、二大決戦やってもじゅうぶん間に合うのだ。


 おっと、白目霊夢がまた削除食らってら。画面よく見るとタイトル晒し上げられてるゥ……漫画家からの申請、グラスト系ですか。ま、心の生体解剖なんていちばん残酷なことする私はこの人らに触れないし、ほっといていいか。実を言うと、精神的にもろいなと思った作家は避けてるんですが……


 無料公開分より先の画像を使ってるとかで、まあ仕方ないといえばそうなのかな。それが直接損益になるかって言われると、法律上そうだからって話にしかならないだろうし……あれやね、翻訳通したタイトルで漫画を動画にしてる人とかいるし。あっちが同時に消えてたら正当なものと判断されてよいと思います。あれはマジでアカン、単行本どころかアプリ課金すらされなくなっちまう。見たことないけど、たぶんコマごとで漫画動かすやつやろ? 読み上げすらなさそう(適当)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ