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172話 剝章/第六真相・2

 どうぞ。

 世界が平和だったころから、そのプロセスは変わっていない。チョーカーを巻き、枕とバイザーがセットになったVR機器でメタバースへとダイブする。巨大な扉へ向かう人々の群れは、まるで葬送の列のようにも見える。死地ではないとされがちだが、VR空間ならば絶対に死なないという担保もない。


 看護師を目指す姉の勉強の邪魔にならないだけでも、ただ眠っているに等しいVRダイブはありがたい――小さな思考の泡が浮かんですぐに弾け、後ろから聞こえた「おう」という声に、カリナは振り向いた。


「あ、ゾールトさん」

「お前も『ナギノクイント』やるんだな」

「いつも通り、ですよ」

「はッ、お前らしくって安心するぜ」


 そうだ、とカリナ=「ザクロ」は妖しく笑う。


「いつも一緒に遊んでくれますよね。お好みに合わせた方がいいですか?」

「年の差考えろよお前……手ぇ出しちまったらどうすんだマジで」

「耐えてるんですね、ふふー」

「やめろって……」


 同じ場所で戦う仲間として、戦場で恋に落ちる男女も少なくない……というが、ザクロのそれはまだ乳臭い感情の延長線上にある。少なくともゾールトはそのように考えているらしい、とザクロは知っていた。


「じゃあ後でな。先に始めとくぜ」

「はい、またあとで」




 大扉をくぐると、調整スペースに入る。


『志願者番号54521、よく来てくれた。まずは姿を作るといい、兵士に許された最高の娯楽だからな』

「いつもありがとうございます」


 現実における地球のほとんどは、マーレスによる浸食を受け、死地となっている。全土が無事なのはアジアとオセアニアの一部島嶼くらいのもので、国土が生き残っていても国民が全滅した国、国土を含めすべてを「海に喰われた」国が九割九分九厘を占めていた。それゆえ、好きな服を好きなときに着ることができるものは少ない。


 その制約をなくす仮想世界の存在は、煤けた現実を忘れさせるには充分なものだった。そして、いくら好きな服装をしていても、旧時代のような軍務規定に引っかかることはない。つねに戦い続ける人材を確保せねばならない都合上、プレイ人口を一人でも多く増やさなければならないからである。それがかれらのモチベーションになるのなら、と……開発陣は、たくさんのコスプレ衣装を用意し続けていた。


「けっこう足フェチだし、足出てるのがいいなー……」


 とろりと流し込んだようなルビーが差す紫色の瞳、しっとりとした烏の濡れ羽色の髪をふたつ結びにして、ほっそりとして小さな体が完成した。服装はまだ決められないらしく、インナー姿のままである。


『予告を見ていたかもしれないが、今回は〈式〉を用いて戦ってもらう。服装の傾向はこれら〈式〉によってある程度決定される。初期の自由度は低いが、貢献度によってそれなりに変更できるようにもなる』

「いつも通り、働けってことですよね!」

『ふふふ、よく分かっているようだな』

「そりゃーもちろん」


 遊戯という形に整えられた闘争は、しかし本来の意義を失ってはいない。それゆえ、参加者には「好きな服を好きなだけ着られる」以上の褒章も、死亡保障もあった。


『では、選んでくれ』

「はーい」


 怪物を打倒する力は〈災式〉〈壊式〉〈葬式〉の三種に分かれる――要するに遠距離・近距離・間接のどれにするか、という話だった。遠距離型は布地の分厚い装備、近距離型は重厚かつ堅固な装甲、間接型は比較的薄着である。すぐさま〈葬式〉を選び、ふわりと広がった振袖風の衣を身にまとう。色はレモンとオレンジ、相手にまだまだ子供だと思わせるための選択だった。


『では、どの武器を選ぶ? 君はいつも楽しさを重視していたな、ゲーマーのように』

「私はゲーマーだよ? そうできる限りずっと」


 平和でなければ、ゲームをすることはできない。大昔の書物で語られていた言葉だ。しかし現在は、平和のためにゲームをすることができるようになった。


「じゃあ、行ってくる。何回でも来るからね」

『……ああ』


 裏面からの侵略が終わらない限り、新たな世界を生成し、敵を誘い込み続けることになる。敵は世界法則に基づいて力を付けられると信じており、仮想世界に訪れているが……いつそれが崩れるかもわからず、偽装世界として利用する必要がなくなる日も見えない。


『無事を祈っている』


 小さく聞こえた声に、ザクロは手を振った。

 ちょっとnoteの方でリクエスト企画をこなしていて、こちらに割く時間が取れませんでした。遅れてしまいまして、申し訳ありませんでした。今回ひとつ収穫だったのが、明らかにスピ系だろこれやべーわと思った人がむちゃくちゃまともなことを語ってるのを見られたことですね。深入りは危ないかなと思ったのでリンクは貼りません。


 それよか、いまYouTubeで『攻殻機動隊』が配信してるっぽいんですよね。気になる……すごい気になる、SF刑事ものの源流で、そういうジャンルが出るたびに「攻殻やん」って言われるらしいと。つまりだいたい全部網羅した社会派かつ示唆的な作品みたいなんだよね。漫画版とどっちが面白いんだろう。いろいろ書きつつ、観てみようと思います。

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