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169話

 どうぞ。

 五月に入って、生徒たちは薄着になり始めている。購買で渡されたカタログを見ながら、トキノはすこし悩んでいた。ちょうどやってきたカリナが、それをのぞき込む。


「あ、水着? そういえば買うんだよね」

「が、学校指定だからね……?」


 一か月ほどの付き合いで分かったカリナは、こういうとき突然「ビキニでいいかな?」などと言いだすような、謎の思考回路の持ち主である。


「種類多いなぁ。キャラクリみたい……」

「かりなんの好きな色とかあったっけ。ゲームの中でどんな服着てるの?」

「和装多め? コンセプトで服用意してるから、お気に入りとかない、かなぁ」

「そ、そっかー……?」


 シルエット全体は競泳水着のそれだが、色のバリエーションはそれなりに多い。腰回りがの形も選べるとなると、注文を受ける側の苦労もしのばれようというものである。端末をたたっと叩いて、カリナは何かを調べていた。


「んー、と。あ、今ってハイレグも人気なんだ」

「そのへん気にしなくていい人増えたかららしいよ。性徴顕化した人って、毛薄いって聞いたし」

「そういえば、脇とかぜんぜんだね。お父さんどうだっけ」

「や、別にいいって。思い出そうとするなー……」


 お父さんの裸最後に見たのいつだっけ、と首をかしげかしげし出したカリナを止める。




 人類が進化した現在、人間の体毛は少しずつ薄くなっている。そして何より、VR空間にダイブすることは、無投薬疑似麻酔と言い換えることもできる。VRネイティブ世代のほとんどは、アバターの感覚により近付くような美容脱毛のたぐいに、ほとんど抵抗を持たなかった。


 そして、ゆっくりとバーチャルリアリティー的な自己像が浸透していったかれらは、滅びかけた旧時代の思想を塗り替えて「アイ・ビビッド」という思想を作り出した。当初こそ旧時代のように過激な方向に走るものもあったが、結局のところ「着たい服を着られる自分になる」といったような形に落ち着いた――VRネイティブたちは、ゲームに出てくるような派手な服装を半現実のものとして受け入れた。


 そういった服装が許容される範囲はさして広くなかったが、学校という空間はとても好ましく機能した。「この制服を着たい」という昔ながらの誘惑もあり、学生の生活はそちらの面からも明るくなっている。


「名前も凝ってるし、ほんとにゲームみたいだね」

「私はあんまりやらないけど。サイズ……あった」


 すでに大半の教師よりも身長が高いトキノは、服のサイズも基本的にLLを選ぶ。ふつうの女子がオーバーサイズで着こなすものも、彼女にとってはごく普通のものである。最大サイズは身長180cmあたり、ギリギリだった。


 色はといえば、白を基調に黒と水色の入った「オルカ」、紺色と黒の「ディプシー」、灰色に彩度の低い青を合わせた「クリーク」などなど……実際にどれが選ばれているのか気になるほど、種類が多い。白は透けると言われているが、あえてここに置かれている以上、そこまでの事態にはならないのか。トキノにはよくわからなかった。


「これにしよ」

「え、白?」

「お姉ちゃんもこれ可愛いって言ってたし」

「そう、なの……??」


 きょうだいの水着がどう、などという話題が家庭内であるのかないのか、一人っ子であるトキノにはうかがい知ることもできない。カリナがとくに可愛がられているのか、あるいは性徴顕化したからと関連する話題に世話を焼いているのかもしれない。


「ゲームの中でも着るの?」

「レーティング低めのやつばっかりだったし、あんまり人間キャラ操作してなかったから……」

「じゃあ、今年がゲームでも初水着? めっちゃいいじゃん!」

「たしかに!!」


 目を輝かせているカリナと笑い合いながら、トキノは「ディプシー」カラーを選ぶことに決めた。




「ってことがあって。先輩はどれ選んだんですか?」

「え、えっと」

「見るか?」

「「え」」


 学年はひとつ上、部活動での先輩後輩以上のつながりもないはずだったが……海藤が赤くなって慌てているところを見ると、何があったのかはだいたい察することができた。


「自撮りを送ってきた。かわいいが、……どうしていいか分からん」

「何やってるんですか部長……」


 照れの残るピースサイン、けれど満点オーバーフローの愛らしい笑顔。逆垣の端末に映る海藤は、美しい薄紫と水色のグラデーション、カラーネームでいうところの「ガーデン」を身につけていた。


「だってほら、かわいいって言ってくれるから!」

「さすがにこんな写真マズいんじゃあ……消しましょうよ」

「……ちょっと惜しい」

「思ったよか男子だな!?」


 小角はツッコミを炸裂させている。


「ヅノくんは間近で見られるからいいじゃん」

「いいねー? 小角くんも、女子を褒めるときは素直にだよ?」

「いきなり目の前でスカートを持ち上げられたくなかったらな」

「先輩そんなことしてたんだ……」


 怖い笑顔でにじり寄り始めた海藤は、逆垣が立ち上がる時間をわずかに残して追いかけっこを始めた。


「イチャついてるなぁ、今日も」

「いつもでしょ」


 毎日のように見られる光景は、今日もいつも通りだった。

 ルパート完成&完璧コード&愉悦臨界、ようやっと実行できました。最高や……もう一度やりたいぜ。というかルパート揃うまでは壊れててもいいのか。早く知りたかったなー……地味に驚いたのがルパート関連イベント「帝国の遺産」なんてあったことですね。イベントマス踏まないから既存かどうかすらわからぬ。これも取材の一環として楽しむぜぇ……

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