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168話

 どうぞ。

 準備が整ったことを告げると、ゾードはすぐに「今から行く」と返事をくれた。こちらで選んだ場所を指定しても、少し笑うだけだった……あちらもたくさんの手を用意していて、狩られるつもりなどかけらもないのだろう。


 サリディス郊外、たくさんの岩が立ち並ぶ「クレブロン荒原」。月が照らす岩だらけの砂漠に落ちているものは、ここにいたPKの残したものだ。弱肉強食(ヒャッハー)スタイルで活動している彼らは、理由を話すと快く協力してくれた。落としたアイテムは拾わない約束で、ふだん使っているお店の情報も好感した。


『反応アリだ、マイマスター。あっちはどう出ると思う?』

「一人でやると思うけど」

『だよなぁ。あいつはやりたそうだが』

「止めといてくれない? 話したいこともあるし」


 へいへい、とノイスは引っ込んでいった。


 ギリギリ道っぽく見えるものを進んでくる、アーミールックに角刈りの男。ゾードは、手に何も持っていなかった。


「警戒態勢……ってわけじゃないらしいが。どうした、また悩み事か?」

「いえ。友達は悩んでるみたいですけど……ゾードさんをカウンセラーとして紹介っていうのも、なんか違う気がしますし」


 ははっ、と青年は苦笑する。


「お前が相談してきたのは、あれか、「性潜性児をどう思うか」だっけか。あんなこと言われたって反応に困るがな」

「すみません、あんなこと聞いちゃって」

「いや、いい。人口の二割いるんだぜ、いつか聞かれるだろ」

「でしょうか」


 着流しの俺が座っている岩に背を預けて「じゃあアレか」と声が聞こえる。


「モゼットのことか? どこまで言ったっけな」

「えっと……一緒にいてもつまんない元カノ?」

「ずいぶん雑だなあ。まあ、そうだ」

「付け足さないんですか」


 女に女の悪口言うのもな、とゾードは苦々しく言う。


「お前から見て、あいつはどうだったんだ? やってみただろ、お互い本領発揮できるとこで」

「そうですね。観客を意識しすぎてるなって思いました」

「観客? あの塩試合製造機が、か」

「言い方もうちょっと甘くしてあげてくださいね……」


 思ったよりも強くて、そこまで素人くさくはなかった。VR空間への適性はけっこうある方だと思ったし、動きも持ち方もいい方だ。VRネイティブ世代でもけっこう優秀な方の、頑張れば強くなれるタイプの人である。


 ただし、スポーツ選手なんかでもたまにいる、「カッコよく見える自分」を意識しすぎていまひとつ上手くならないタイプ……いちばん本気になる人が多い、対人戦というジャンルではもっとも危険な致命傷が手放せない、困った人だった。


「大嫌いってほどじゃねえ」

「はっきり嫌いって、あんまり言わなさそうですよね」

「まあ、な」


 これから戦うとは思えないような会話だった。


 ひゅう、と風が吹いて、砂が少しだけ舞い上がる。


「しかしあれだな、てめーをぶった切るのが楽しみでしょうがなかったってのに……いざってときに、微妙に萎えちまった」

「すみません、話題が悪かったですね」

「かもな。そんでどうだ、なんかまた新しいセットができたのか?」

「めちゃくちゃ強いですよ。今までのゾードさんなら、瞬殺できます」


 ほお、と――声だけでも、凶悪な笑みが浮かんでいるのが分かった。


「明日……いや、明後日の土曜日。せっかくのお誘いなんだが、俺もテストを済ませてからにしたくてな。いいか?」

「新装備、あるんですね」

「いくつかあるが、最強のやつがな。ちょっとまだ調整が終わってねぇんだ。お前が宣言したように……瞬殺できちまうようなやつがな」

「じゃあ、フルスペックで見せてください。楽しみにしてますから」


 ちょっと時間が遅かったからか、姉の声が聞こえる。


「これで落ちます。あ、えっと」

「分かってる、ここにいた奴らのモンだろ? 俺が死守しとく」

「ありがとうございます」

「いいってことよ。言ったろ、お前と斬り合いたいって」


 とすんと地面に降りて、拳を交わした。


 そしてすぐ、満足そうな表情を見ながらログアウトした。

 次のゲームものの設定を作っていました。楽しい。ゲームバランスを保ちつつ楽しんでもらうのってマジ大変なんだなってのがね、スタレやってて分かるんだよね……階差宇宙から胞子とか反震とか消えたし。方程式に関係なくても繁殖の祝福ぶっ込んで胞子破裂させとけばよかったとこある。どうにか愉悦を臨界させて遊びてぇ、ぜったいたのしい。


 ちょっと設定が多すぎるんで、データファイルとか作っとこうかな……

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