167話
どうぞ。
ずんずん進んでさらにアイテムを集めたものの、ダンジョンから出る目途はちっとも立たなかった。ボスを相手取るには強化させすぎた……どころか、そこらに歩いている一般ロボットですら、戦った瞬間に一蹴されるのが目に見えている。
「どうしようかなー……死に戻りで出られるならいいんだけど」
『再出力か。入り口で復活して出るだけだと、かなり落とすと思うがね』
忘れてはいけない、ノイスもこのゲーム内のAIに基づいて動いているから、発言はシステムに依存している。「負けるとアイテムを落とす」なんて古典的な仕組みで、最近はあんまりないそうだけど、ノイスが言うからにはそうなのだろう。
どうにかして、アイテムを失くさずにダンジョンから出る方法を探したい。そして、アイテムをお金に換える方法も知りたい。モンスターとの戦いは完全無視できるにしても、収穫ゼロで戻ったら、ほんとうになんにもしていないことになってしまう。かなりの時間をかけて集めたアイテムたちだから、どうにか持って帰りたいところだった。
こっちを拾った方が儲かりそうな、戦闘で破損したロボのパーツをスルーしつつ進む。奥に向かうにつれて警備が手薄になっていくが、監視の目はよりきつくなっていて、下手に行動を起こせばロボットが詰めかけるより恐ろしいことが起こりそうだった。
ものすごくきれいに整備された通路のあちこちに、金庫らしき扉や詰所みたいなものがある。その中にひとつだけ、露骨に開けて欲しくなさそうな、いくつも認証をかけてある扉があった。
『おっ、こりゃあいい感じだな。相当いいのがありそうだぜェ』
「できるだけ穏便にハックして。レベルぜんぶあげるから」
気前がいいねェマイマスター、と笑うノイスに五十レベルすべてを渡して、一時的にレベル1まで戻った。いっさい戦わないから、最初からこうしていてもよかったかもしれない。とくに問題もなく、ハッキングされた扉は開いた。
『nnsutu knru/――ようこそおいでくださいました、お客様。ここは金銭にかかわる業務全般を担う施設です。疑似意識体を使用しておりますので、従来の自動応答より融通の利くサービスを提供できます』
「しゃ、しゃべった……!」
『我が社は志願者システムの言語野量子マーカーに記述された共用言語にも対応しております。どのようなサービスをお求めでしょうか』
「あ、えっと」
耳心地のよい声がぺらぺらしゃべるから、つい気圧されていた。
『我が社の新商品〈〇二式アラハバキ〉のデモンストレーションはいかがでしたか? 在庫僅少となっておりまして、少々お高くなっておりますが』
ダンジョンに入っても戦わなくていいのは、茶番だったかららしい。なんだか気になる名前だけど、とりあえず聞いてみることにした。
「お値段聞いても……?」
『マーレスの浸食や■■■の改変能力に耐える装甲、同型機がかの人類の仇敵を仕留めた実績もございます。新品価格二一七億プライザ、オプション装備と修理サービスもお付けいたしまして八七〇億プライザとなっております』
「やめときます」
『おや、それは残念。して、どのようなサービスをお求めでしょうか』
旧貨幣のままなのは考えないにしても、メテラでも払えない金額だ。味方になってくれれば心強いとは思うけど、バフのことも考慮に入れるべきで……もしかしなくても、このダンジョン内でのスペックはものすごく誇張されている。何かノイズが混じっていて聞こえなかったけど、買う必要もないから質問を打ち切った。
「この宝石類、お金に換えられますか?」
『それはもちろん。この金額ですと、記念コインと紙幣をお選びいただけます』
「えーっと、それじゃあ……こんな感じで!」
『承知いたしました。そちらのディスペンサーからお受け取りください』
ノイスと集めた宝石類の合計金額は三千八十万プライザだった。記念コインはどれも五十万プライザ硬貨、二十種類あったのですべて集めておく。残りの二千八十万プライザをすべて紙幣にしてもらって、どっさりの札束とコインの山を受け取った。
『手数料は一万メテラです』
「時代に合わせてるんですね……?」
かなりの金額だけど、プライザ/メテラのレートもわからないから、素直に払う。
『出力ポイントも用意してございます。一方通行ですが、利用されますか?』
「ええ。……あの、ここは」
『完全シェルターになる予定でしたが、生存者がやってきませんでした。販売サービスは継続しておりますので、またのご来店をお待ちしております』
「……また」
なんだか哀しい言葉を聞いて、俺たちはダンジョンを出た。
プライザ=日本円1/1、メテラ=日本円1/10のレート。八百億円のロボの演劇風CMやるね……というクソみてーなコンセプトのダンジョン、銀行業務もやっております。ヒト来ないけどね。




