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166話

 どうぞ。

 護衛や警備のロボットは異様に強くて、強盗メカを寄せ付けない。どこかで「奪う方がお得だから、奪う方が強い」と聞いたことがあるけど、ずいぶん信頼できる設備だ。


『こんなモンを敵に回そうとしてたのか……怖ェなあ』

「ノイスでも怖がることあるんだね……」


 馬力という言葉みたいに、人間を置き去りにした表現はいくつもある。機械たちの戦いは、炸裂する音も光もでたらめの一言で、破壊規模も化け物じみていた。おかしな表現だけど、新幹線が残していった風にほんのりとした寒気を覚えるような……あまりにもレベルが違いすぎるものを見た感情があった。


 開いている金庫から宝石やアクセサリー類を取っていくのは、どう考えても盗みだと思うけど、判定では「所有者」になっている。


「この判定って、どうしてこうなってるのかな?」

『さあね。カネとモノで分けられてるんじゃあないか?』


 事実その通りだが、お金は護衛、物品は強盗に狙われるのがなんだか釈然としない。宝石を集めている自分たちこそ強盗としか思えないけど、もしかすると、護衛側にもお金を狙う理由があるのだろうか。


 めちゃくちゃ蚊帳の外な激しい戦闘音をBGMにしながら、いつの時代のものかもわからないアイテムを集める。金属の延べ棒は、あまり明るくない照明のせいか、色がよくわからない。宝石がきれいにカットされているのは分かるけど、なんだかトロッとした光沢であまりきれいに見えなかった。


「照明って大事なんだね……」

『気分ひとつで価値が上がったり下がったり……。組成で数値基準でも決めればいいんじゃあねェのかい』

「宝石はほんといろいろあるみたいだし、単純に決められないよ、たぶん」

『これだから人間サマは。「価値」よりくだらねェ単語を知りたいもんだ』


 ノイス自身はコンピュータウイルスで、体も機械だ。人間の価値観がみんな同じとは言わないけど、こうして言われてみるとちょっと納得してしまう。


『ところで状態変化のことなんだが』

「うん、なに?」

『どっちにせよ変わらねェんじゃねえのか、こりゃあ』

「……ちょっと思ってた」


 お金を集めると攻撃面が強化され、財宝を集めると防御面が強化される――ぱっと見だと攻略に変化が出そうに思えるけど、どちらにせよロボット大戦になるから、プレイヤーが戦う必要はない。まずはどちらかの地雷を踏んでロボットを呼び出し、すぐに反対陣営を呼び出せば、ほんとうに何もしなくていいのだ。


「あとは、持ち出し手段探さないとだね」

『いくらなんでも、あのバカみてェなのから逃げるのはな……』


 ゲームをやるとき、バフの強さを判断する方法は「層数」「継続時間」のふたつで判断できる。ダンジョンに関する状態変化は、基本的にダンジョンにいる間永続するから、ほとんどは層数……どのくらい重なって強化されていくかを気にすることなんてない。


 しかし、「簒奪者」と「所有者」は同じ状態の表と裏と見なされているうえに、入手したアイテムと同じ数だけ溜まっている。直接戦ってはいないから、具体的にどのくらいの強化幅かはわからないけど……さすがに、127段階強化を相手取る気にはなれなかった。


「さーてとー……」


 だんだん静かになってきたダンジョン内を見回して、どっちに進むべきか考えた。


「……ロボの破片は、拾わない方がいいよね?」

『なに扱いか分かんねェんだ、やめとけよ』


 ごもっともだった。

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