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161話

 どうぞ。

 突進の軌道はとても分かりやすいし、追尾性能も速度も大したことのない電撃は、ただ飛び退くだけで避けられる。いちおう「召喚加速」は拾ってあったのか、オキアミを召喚するスパンはけっこう短い。偏差撃ちのように突進してくるけど、建物が崩れるばかりで俺にはちっともダメージが入っていない。


「ずいぶん上手いのね」

「このくらいなら普通ですよ」


 変態機動という言葉がある。自力で移動しても酔いそうなくらいの動きのことだ。まだまだそんな域には至っていないから、自己評価としては「ちょっと上手い」くらいだと思っている。世の中にはいろんなゲームがあるから、どこにでもトップ層のものすごい人はいるのだ。


 敵の数が少ないから、翻弄ゲージもあまり貯まらない。けれど、この人相手ならこれでもいいかな、なんて思えていた。


 勝ちは勝ち、なんてたわごとだ。いい勝ち方もあれば悪い勝ち方もある……相手を不愉快にする勝ち方を続けた人に挑むとき、これだけ人が集まったことこそ、その証左だろう。そして、彼らの期待するものが何か、俺は知っている。


「これ、使ってください」

「何のつもり?」

「下振れしたから負けたなんて、言われたくありませんから」

「……自分を追い込みたいってことかしら」


 赤い宝石に青い針の結晶が入った「召喚数+」のアクタを投げ渡す。すぐに取り込まれたそれに反応するかのように、ぱっと見で数えるのが難しい数のオキアミがざあっと出現する。どうやら、上位のアクタを揃えていたようだ。


 連鎖的に突進してくるオキアミを避けて、眼前を覆い尽くすクラゲの電撃から、空中ジャンプで逃れる。あまり見たことがなかったのか、操作にわずかな隙ができた。ちょっと上空に上がりすぎたせいか、ウミユリみたいなものがばらばらと弾丸を撃ってくる。横方向にジャンプしてこれも回避し、近くの屋根に立った。


「もっといい楽譜ありませんか? これじゃバンドですよ」

「なかなか言うわね。温存してたのに……」


 平たいメロンパンみたいなものが次々と現れ、ぶよぶよしたアメーバまでもが現れる。たしかに本気だ、と考える間もなく次の弾丸と電撃と突進が嵐のように訪れ、俺は空中での跳躍を繰り返す。着地で落下ダメージが出ないように高度を調節しつつ、おびただしい数の敵と攻撃を避け続けた。


 アメーバはデメリットのあるタイプなのか、オキアミやウミユリや円盤など、手近にいたプランクトンを取り込んで巨大化し続けている。色が変わり始めたところで、こちらの翻弄ゲージも最大になった。


「とざいとうざーい、って言うんでしたっけ……?」

「なにそれ」


 父さんから聞いた気がするけど、モゼットは知らないらしい。仕方なく、空中で逆さになっているけれど一礼する。


「さあさあ皆さんお集まりを。成し得ぬ大業を、ここにご覧に入れましょう」


 ゲージの量が多ければ多いほど、強力なものを召喚できる。宮廷道化師が頼るのはスポンサーの立場にある貴族、「アール」や「デューク」だ。回避した回数とゲージの蓄積量はあんまり釣り合っている気がしないけど、最大だとどうなるのかは想像できる。警告のウィンドウをさっと消して、ひとつ笑う。


 空間がメキメキとひび割れて、手が出てきた。異常に長い指と電子ノイズまみれの細身、四本の腕が出てきたところで、変な方向に刺さったような形で固定されたマネキンの頭が出てくる。ひとつは目に、そしてもうひとつは頬に無理やり埋め込んだ眼球が、ぎょろりと動いて天地を同時に見た。


「い、今仕留めれば……!」

「止まりませんよ。上位者を使役なんて、できませんから」


 何体もいる召喚系の中でも、「ノ・ゼステマ」の実用性がものすごく低い理由はそこだ。ふつうならゲージも溜まり切らず、貴族位の低いものを数体召喚して逃走中に負けることになる。だから、デメリットはほとんどないも同じだ。


 確認されている最高位は侯爵までで、それでもほかのプレイヤーを蹴散らす程度の強さはあったようだ。混戦状態から逃げたプレイヤーが優勝して、検証はじゅうぶんにされていない状態だが……残っている動画を観てみると、振り上げた剣を召喚した人のもとにぶん投げている、ようにも見える。


『T――G、g――hN』


 最高権力者「キング」の姿は、半身のない人形の姿をミキサーにかけてから手作業で同じ形にしたような、吐き気をもよおすいびつさと偏執的なていねいさを感じさせるものだった。ハンバーグの表面に見える玉ねぎと同じ感覚で、激しいノイズがかかっている。かろうじて原型をとどめている頭も、目の位置から察するに、中身が何か別のモノなのは明白だ。


 もっとも堅固な城さえ崩壊させんばかりの、オキアミたちの突撃。夜空の色さえ変える電撃の嵐に、対空砲火もかくやという弾丸の暴風雨。あまたのプレイヤーを全滅させてきた、萎え落ちの代名詞は――しかし、体の各所にある人形の部品を焦がすにとどまった。


『KR――snM』


 ゴゥン、と虚無が広がり、そこにあった命が消える。引き寄せ効果はこちらにも適用されていて、飲み込まれる勢いに空中ジャンプで抵抗する……ほとんど抵抗できずにすっ飛んでいった先に、同じように吹き飛んで壁にぶち当たったモゼットがいた。


「この場にいたら、どっちが勝つと思いますか?」

「なに? また賭ける気なの?」

「いえ」


 インベントリから抜き放った大太刀が、指揮者を縦に両断した。


[YOU WIN!]


 勝ちを喜ぶ暇もなく、俺はゴゥンという音とともに戦場から消滅した。


『やっぱ、ゲームバランスおかしいよね……』


 あれだけいた観客は、観戦ブースに戻るとほとんどいなくなっていた。スーツの青年とチュチュの美女が何かを話している。ちらと送られてきた視線から察して、俺は何も言わずにログアウトした。

 カクヨムで投稿した新作『コロリア・カロル』ですが、誰も読んでいません(事実)。一話のPVがたったの3、三話以降は完全にゼロ。すげぇなおい……ネタっぽく「初動コケたぁ! って作品置き場」って企画でも立ち上げて、それでも伸びなければいったん削除しようと思います。応募うんぬんも、そもそも人気出ないって分かれば切り捨てられようってもんよ。

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