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160話

 誤字指摘ありがとうございます!(月遅れ)


 どうぞ。

 索敵には何度も引っかかったザクロは、ずっと移動し続けているうえに、プランクトンをすぐさま倒してしまう。モゼットが楽譜探しに勤しむことになるのも、当然の帰結だった。


(円盤と触手のやつは手に入れたから、あとは増やすだけよね)


 何よりも最悪なのは、人形の性能を強化するビーズ「アクタ」のうち、「フルオケ型タクトゥム」に必要なものがちっとも揃っていなかったことだった。オキアミ型とそれに釣られて現れるイワシ型、食物連鎖をモチーフとして現れるさらなる上位捕食者――それらを召喚するためには、「召喚数+」のアクタを入手しなければならない。


 周囲にバフ空間を展開するケイソウ型、固定砲台であるヒドラ型の楽譜は手に入れてすでに召喚してあるが、陣として籠るにはやや数が少ない。召喚獣が強い『アクタノマイ』で最速・最多を誇るクォー・タクトゥムだが、召喚のクールタイム自体はそれなりに長く、プランクトンもつねに移動し続ける性質を持つ。ひたすらに逃げ惑う敵を追撃することには向いているが、陣を敷くにはやや不向きだ。


「まだ来ないかしら。こんなに目立つ場所にいるんだから、来てくれてもいいのだけど」


 すぐに半身を見つけたあと、オキアミだけで三体の半身を片付けた。武器も半身も手に入れていない状態では、アクタをいくつか拾ったところで人形には抗いようもない。指揮棒を拾い、カクテルドレスを身にまとって性能を順当に強化し、アクタ以外は完全な状態をすぐさま整えた。そして、オキアミを出せるだけ出してNPCたちを襲わせた。


 幾度かはザクロを感知できたものの、打倒には至っていない。オキアミ程度で仕留めようという考えが怠慢であることは知っているが、相手がこれほど強いとも考えていなかった。飛行船が示すルートはあちらこちらに彷徨い続けていた……これまでの経験から察するに、半身か武器が見つからないままアクタだけを拾い集めていた可能性が高い。まともな戦力もなかろうと思われたものの、オキアミは倒された。


「あった! これで勝ちね……!」


 クラゲ型の楽譜と「追尾弾」、それに「弾丸爆発」のアクタ。前提になる「弾丸威力アップ」のアクタが必要になるとはいえ、レア度も高く補正としても強力なものだ。クラゲ型をはじめ、遠距離型の召喚獣と組み合わせれば、どんな敵だろうといっさいの接近を許さずに倒せる。


 インベントリにアイテムをしまって、やってきた飛行船が表示したマップを見る。どうやらこちらにやってくる気になったらしいザクロは、まだ見えない。


(何を選んだのかしら。やっぱり、彼と同じスダマキリ? 妥協して別のを選んでたなら、さっさと倒せるんだけど)


 物理的な損傷をともなう状態異常を連鎖させる「裂傷拡散型スダマキリ」は、すさまじい数のプランクトンを召喚するクォー・タクトゥムと相性がよかった。ゾールトは彼女を両断し、一躍有名になったが……すぐに『アクタノマイ』から引退し、ただ方法が広まるだけにとどまった。


 ローグライクというシステムと、多人数が参加する対戦ゲームというシステムは、あまりにも相性が悪かった。あるスタイルが確立したところで、前提条件が複雑すぎて成立しない。それは、最強とされた「フルオケ型タクトゥム」にも言えることだ。どんなキャラ、どんな武器、どんなアイテムを持ち込んだところで、自分が使える保証はない。


 ならば奪えばいい、と彼女は言った。できないわけではないが、ある程度の損傷を見込んだうえで、劣化した性能で戦うことになる。それでも、彼女はひとつの成功体験にこだわり続けた。それがある程度正解であることが判明すると、対戦環境はさらなる地獄絵図となった。


 マップにあったアイコンの方向を見て、モゼットはまた思考の海に沈もうとした。


(まだ見えな……いや、いる)


 真後ろ、大劇場の中。小さな足音が、コツコツとだんだん大きく聞こえてくる。


(あれはたしか……「ノ・ゼステマ」? 召喚系だったわね)


 攻撃を回避することで「翻弄ゲージ」を蓄積し、ゲージの量によってより強力な「貴きもの」を召喚する宮廷道化師(ジェスター)型の半身である。本体性能はかなり低いうえ、こちらには――


「え、ない」

「持ってたんですね、上位のやつ」


 人形の顔に表情はない。しかしその声は、間違いなく笑顔のものだった。


「半身が見つからなくて、悪魔ショップに売っちゃいました」

「なんてことを……っ!」

「結論は同じみたいですね」

「下調べしてきたんでしょう。当然よね」


 指揮棒を向け、プランクトンを召喚する。ヒドラ型三体、クラゲ型二体、オキアミ型四体……ひといきに召喚する量としては充分以上だが、クォー・タクトゥムとしては悲しいほどに少ない。


「ロマン砲を試そうとしてるのはいいけど……あっちと同じかしら? 余裕なのはちょっとむかつくわね」

「道理のわかってる方と、分かってない方。二種類のバカがいるんですよ」


 笑う声は、勝利を確信しているようだった。よほどいいアクタを揃えたのか、すべての射撃の威力を最低クラスにできたからか。


「“できそう”をやる方が、楽しいじゃないですか」

「……そういうところが、いいのね」


 ゾールトがこのゲームをやめてすぐに、『ナギノクイント』で少女と彼が戦っている映像が動画サイトにアップロードされた。紙をぐるぐる巻きにした牛刀のようなものと、チェーンソーを刃にした剣が打ち合い、紙の方が勝つ。なんとも奇妙な、絵のインパクトだけを優先したような構図だった。


(賭けに走る女の方がいいっていうの? わけわかんないじゃない、そんなの)



――つまんねェんだよ、お前とやっててもよ。

――勝つからなんだ? それだけだろうが。



 挑発するように拳銃をくるくると回す道化師に、オキアミが突進する。拾った「激突威力アップ」は最上位まですべてコンプリートしており、最低ランクのオキアミとはいえただでは済まないはずなのだが……四体すべて、あっさりと回避されて始末された。


「やってやるわよ」


 小首をかしげる道化師に、いくつもの弾丸が殺到した。

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