159話
ちょっと遅れた……いろいろやってたもので。
どぞー。
ほかのゲームがどうかは分からないけど、『アクタノマイ』のNPC同士の戦闘は、思ったより世界観に沿っていて面白い。極力モノを傷つけないように、しかし相手の命は奪えるように、急所ばかりを狙っている。
動画が挙がっていた、クォー・タクトゥムを倒した実績のある浪人型の人形が、建物を巻き込んで拡散斬撃を放ちまくっていた。スピードタイプかと思いきや、戦っているのはメイド型の「サヴィアミルカ」だ。サブマシンガンと三本目の腕を使って戦うメイドは、人外を操作するゲームならかなり参考になりそうな動きをしていた。
「……日和った方がよさそうかな、ちょっと」
拳銃とレイピアで出せる火力は、アクタでバフがかかっている分を加味しても、彼らの戦いには到底ついていけない。このゲームでいう「弱い」は、「工夫すれば勝てる」ではなくて「どうしようもない隔絶」を指している。強弱の差をつけるのは、スズメと鷹とジェット機のランク付けをするくらいの感覚だ。
プランクトンの襲撃はいったん止んでいて、強すぎる能力につけられた枷である「楽譜」を探しているようだった。初期状態で召喚できるのはたったの三種類、それも別に弱くはないのだが、これも強化パーツ扱いされている。
「連鎖クジラでもう強いのになぁ……」
オキアミを十匹以上召喚した状態で、一匹をビーコンに全隊を上空に向かわせると、全員を犠牲にしてイワシ型やカジキマグロ型が連鎖召喚される。最高に上振れしたときはクジラ型が出てくるようで、ちょっと深めに探した動画で見かけた。先ほども狙っていたけど、ギリギリで対処できた……オキアミを倒せなければ、あそこで詰んでいただろう。
見ていると、確か「スダマキリ」という名前だった浪人型が、偶然手のひらを貫かれてひどく鈍った。立ち止まってサブマシンガンを撃ちまくるメイドに、背後からできるだけ近付いて拳銃を撃ち込む。サブアームの付け根と延髄にうまく当たった銃弾は、敵をほとんど麻痺させた。
落ちたサブマシンガンを拾って、死に体のスダマキリと動けないサヴィアミルカを倒す。損傷しないようにと顔を狙ったけど、どちらもそれなりに負傷していたせいか、武器とアクタ数個しか落とさなかった――が。
「これ、こいつが持ってたのか……! 道理で少ないわけだ……」
モゼットが持っていたらすでに負けていたであろう「召喚数+1」のアクタが、スダマキリの亡骸から出てきた。これが手に入ったということは、ロマン砲がさらに強化されたということだ。
召喚系でもいちばんばかばかしいと言われる「ノ・ゼステマ」の召喚は、ものすごく条件が面倒くさくて、きちんとすべてを満たしたうえで召喚しないとやっても無駄になる。クォー・タクトゥムと比べると、比較にならないほど安定性が低いのだが……着々と、準備が整いつつある。
やってきた飛行船の表示したマップには、もう二人しか残っていないことが示されていた。
「微妙だけど……条件は満たしたし」
対人ゲームに「絶対」は存在しない。あるだけ無駄だし、あってはならない。だからこそ、ではないけど……まだまだ賭けでも、勝たなければならない。
俺は、決戦に向けて歩き出した。




