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157話

 なんか書けるなと思ったけど、あの日でしたか。生死の別なく、たくさんの方々の無聊を慰められますように祈りましょう。


 どうぞ。

 アーカイブに残っていた映像を見て、その性能を解説していた人がいたので、相手の倒し方は分かっていた。ものすごい数の召喚モンスターを連鎖的になぎ倒しながら、そのおまけとして本体も倒す方法だ。やるならそれ以外の方法はない、としか思えないし……安定感や実現可能性を考えても、「裂傷拡散型スダマキリ」以外は微妙だ。


 けれど――これほど多く詰めかけた観客を前にして、決まりきった勝ちパターンをもう一度なぞることに、いったいどれほどの意味があるのか。


「来たわね、勝負を決める日が!」

「……そうですね」


 耳なしの燕尾服バニーに目隠し、という謎スタイルはすぐに見つけてもらえた。相手も、あっちで見た水色のチュチュそのまんまだったから、すぐに分かった。


「下調べはしてきたのかしら? 一週間あげた時間で、少しは戦ってたようだけど」

「だいじょうぶですよ。二人以外NPCで埋めれば、お互い取りたいものが取れるでしょうし……」


 モゼットは、勝つつもりらしい。らしい、というにはちょっと問題があるというか……どうやったってどちらかが勝つことになる未来以外にはない。勝負だからではなく、環境がそうさせているのだ。


 より早く、より多く召喚した方が勝つ。三十六体いるキャラの中でサモナー系は五体、そのうちで最速・最多が「クォー・タクトゥム」だ。つまり環境トップで、このパーツを手に入れれば勝ったも同然ということである。


 バーのような観戦ブースの中で、どこか諦念に似た雰囲気が重く澱んでいた。日本を沸かせたプロゲーマーの娘として、なんて今まで思ったことはなかったけど……取って付けたようなおかしな感情が、へんなタイミングでやってきた。自分が楽しむのも大事だけど、誰かが見ていて楽しいときは、もっともっと楽しいに違いない。


「勝ちます。歓声、聞きたいので」

「面白い子ね。楽しみにしておくわ」


 十二人対戦を開始する――参加する人間はふたりだけ、残りの十人はすべてNPCだ。こういう対戦形式はどこのゲームにでもあるけど、ふつうなら人が集まるから、こんな決闘のような形になることは珍しい。これほど観客がやってきていても、誰も入ろうとしない。何が求められているのかは、分かっていた。




 すっと風景が溶けて、滅びた街に半身状態で投げ出される。近くに落ちていたビーズ=アクタを拾うと、「弾丸威力アップ」のものだった。最下級のものだが、最良の一手だ。アクタ一個だけではろくに戦えもしないが、「ローグライクの対戦ゲーム」というシステム上、拾うこと自体に大きな意味がある。


 すすけたレンガ造りの建物は、どれもボロボロに崩れている。町の中心部にはまともな形を保ったものもあるが、外縁は壊滅状態だった。この「ステラレタ世界」には形を保った物体が少ないという設定があるから、それに準じているのだろう。とつぜん聞こえた足音の方向を見やると、NPCのカーソルがついた半身が歩いていた。この段階での強さは大して変わらないだろうけど、リスクの方が大きいので、戦わずに隠れて逃げることにした。


 データとして、かれらの感知性能は人間とほぼ同等らしいことは知っている。半身の状態だと、実体がない方の足に体重をかけると、足音がほとんど消える。このゲーム以外では使えないテクだろうけど、この場では役立った――人間と戦うときにも、性能が激減することさえ除けば、隠密性能が上がる技術だったりする。


 キラキラ光るビーズをさっさと拾い集めていると、急にほこりっぽい色の飛行船がエンジン音を立ててやってくる。上空で光を放ったそれは、誰がどこにいるかを示すマップを表示する。


「遠いな……真反対くらい?」


 カーソルで表示されるNPCのほとんどは、すでに半身を埋めて人形になっている。二体はすでに衣装を手に入れていて、運悪く遭遇したのか、すでに敗退しているものが一体だけいた。すぐ近くに人形がいるが、どんどん離れていく。ごみごみした廃屋群から身を起こしてそれらしい方向を見ると、真っ青な尾を引いて跳躍を繰り返す人形がいた。


 地面に半分埋まったビーズや壊れた金庫に入ったビーズなど、レア度の高いアクタをひたすらに集めて、遠くの爆発音を聞く。射撃型でも、バズーカを主武装にした「ヴォン・ドー」あたりだろうか。上がっている火柱の規模から察するに、「爆発物が着弾地点で燃え続ける」アクタと、ミリタリー系の衣装も取ったようだ。


 外縁に近付きすぎたのか、対戦ゲームにありがちなダメージゾーンが、潮のように迫ってくるのが見えた。夕焼けのような色をしたもやが、たたでさえボロボロだった建物を飲み込んで消滅させていく。音もなく無に還っていく様子は、世界観や設定をまるで無視して、こちらの心に異様な虚無感をともなった恐怖をもたらしてくる。


「半身、ぜんぶ拾われちゃったのかな……?」


 誰かを倒して奪ってもいいが、戦いの規模を見ていると、俺の選んだものはラスボス特効……ほかのメンツと戦って勝てる気がしない。半身状態でもアクタをセットすれば戦えるが、武装を拾わないと攻撃は最弱だ。


 とりあえずで基礎ステータス上昇のアクタをセットし、できるだけ目立たないルートを通って中心部に近付いていく――しかし、飛行船がマップを表示するのと同時に、町の中心部で見慣れたエフェクトが強烈に光った。


「早い……!! もう揃ったの!?」


 武器なしの半身状態では、あのプランクトンに見つかった時点で終わりだ。


 すでに負けの目が見え始めている状態で、俺はひた走った。

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